中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ウォルマートに続き、カルフールも都心小型店へ

中国カルフールが、郊外大型店という出店戦略を見直し、都心小型店への転換を始めている。その第1号店「ラ・マルシェ」上海天山店がオープンした。レストランが併設され、顔認証決済も備えたスマートスーパーだと上観が報じた。

 

アリババの新小売戦略に揺れる中国の小売

中国のスーパーが揺れている。その発信源は、アリババの新小売戦略だ。新小売とはIT技術を使って、小売、流通、配送、飲食などの業務を効率化し、消費者中心に再配置をすること。その新小売をもっとも体現しているのが「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だ。

海鮮、生鮮野菜などを中心にしたスーパーだが、本格レストランが併設されている。レストランの料理は、すべてスーパーで販売している食材を使っている。また、半径3km以内の「フーマ区」では、スマートフォンから食材や料理を注文することができ、最短30分で配送してくれる。つまり、「店で買う、食べる」「家で作る、食べる」と4通りの楽しみ方ができるスーパーだ。

現在、北京、上海、杭州などを中心に37店舗を展開し、大規模な出店計画が進んでいる。すでに「フーマ区」内の家賃やマンション価格が上昇しているという話もあり、都市生活者に歓迎されている。

このような業態は、グローサラント(グロッサリーストア+レストラン)と呼ばれ、日本でも成城石井が始めているが、なかなか宅配まで手が回らず、一部の商品を翌日配送するにとどまっている。

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▲アリババが展開するフーマフレッシュ。半径3km以内の地域には、料理と食品を最短30分で配送してくれる。

 


盒馬鮮生實踐「新零售」模式 線上線下無縫連接

▲アリババのフーマフレッシュの紹介映像。オンラインショッピングとオフラインショッピングを融合した例として、海外からも注目されている。

 

カルフールの都心中型店「ラ・マルシェ」

このような新しい小売の潮流に追い詰められているのが、中国では老舗スーパーとなったカルフールやウォルマートだ。中国に321店舗を展開するカルフールの2017年の売り上げは498億元だが、前年比-1.3%と厳しい数字になっている。

カルフールやウォルマートの基本戦略は、郊外大型店だった。1995年にカルフールが中国に上陸した時は、圧倒的な商品量で中国人を驚かせた。マイカーが普及していくとともに、「週末に車でいってまとめ買い」の習慣が根付きはじめた。

しかし、2010年代になって、スマホ革命が進むと、若者を中心に都心で暮らすライフスタイルが広まり、郊外大型店の成長が止まる。

ウォルマートもカルフールも、郊外大型店の出店計画を見直し、都心の中型店、小型店を充実させる戦略転換を始めた。

カルフールは、中国独自の業態として、中型店の「ラ・マルシェ」、小型店の「イージー」の出店計画を進めている。

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カルフール「ラ・マルシェ」の生鮮野菜、果物コーナー。大量の生鮮食料品が並ぶイメージを維持したまま、都心の中規模店として展開している。

 

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▲「ラ・マルシェ」では、食品の加工も行なってくれる。

 

グローサラントQRコード

ラ・マルシェ1号店となった上海の天山店は、面積4000平米と中規模で、商品種類点数も一般のカルフールの半分である2.5万種類となっている。また、輸入品の比率を高めていることも特徴だ。商品の78%は食品だが、輸入食品は食品全体の17%になる。

ラ・マルシェもレストランが併設されたグローサラントとなっている。さらに、海鮮などでは、食品を購入時に加工するサービスも行なっている。

また、無人スーパー的なサービスも導入している。商品を自分でとって、商品のバーコードをスマホでスキャン。そのままスマホ決済で支払うことができる。支払いを済ますと、スマホ内にQRコードが生成され、出口でスタッフにこのQRコードをスキャンしてもらうと、決済が済んでいることが確認でき、そのまま外に出られるという方式だ。カルフールによると、近日中に、出口に改札のような装置を設置し、そこにQRコードをかざすことで外に出られるようにするという。

また、レジは有人だが、決済はWeChatペイで支払うことができ、事前に顔写真を登録しておくことで、顔認証による決済も可能になっている。

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▲レストラン、カフェも併設している。イートインコーナーではなく、ちゃんとした料理が出てくる本格レストラン、本格カフェだ。

 

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▲WeChatを利用したスキャンショッピング。自分で商品のバーコードをスマホでスキャン、WeChatペイで支払い。帰るときは、生成されるQRコードをスキャンしてもらうだけ。

 

スマホ決済による系列化の始まりか?

このラ・マルシェが消費者に受け入れられるかどうかわかるまでは、まだ時間が必要だが、ひとつ多くのネットユーザーから指摘をされているのが、スマホ決済「アリペイ」と「WeChatペイ」の分離問題だ。

アリババが運営する「盒馬鮮生」は会員制スーパーであり、原則「アリペイ」ユーザーでなければ利用ができない。一方、アリババの新小売戦略に対抗しなければならないウォルマートでは一部の店舗でアリペイの対応を停止してWeChatペイに一本化をした。カルフールのラ・マルシェも、顔認証やスキャン購入などの先進サービスはWeChatペイのみなのだ。

現在、多くの消費者が「アリペイ」と「WeChatペイ」の両方を使っているので大きな問題にはなっていないが、似たような財布を2つ持ち歩き、お店によって使い分けしなければならないことであり、利便性はかえって以前よりも低下しかねない。今は大した問題ではないが、これがあらゆる小売業で始まり、「この店はアリペイ」「この店はWeChatペイ」というアリババとテンセントによる小売の系列化が起こったらどうなるのだろうか?という不安の声をコメントしているユーザーもいる。

「アリペイ」と「WeChatペイ」の2つのスマホ決済が激しい競争をしながら普及をし、生活サービスを大きく変えてきた中国で、今度はその競争の弊害が現れ始める時期に差し掛かるのかもしれない。

tamakino.hatenablog.com

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