中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

積極的にECサイトに対応し、さらに成長する老舗企業

阿里研究院は、老舗企業の動態をまとめた「2016年老字号電商百強、老字号・新方向」を公表した。老舗企業上位100社は、ネット販売の売り上げが毎年50%以上の伸びを見せ、約3割の老舗企業がネット販売に対応しているという。

 

ECサイトと連携する中国の老舗店舗

日本では創業30年以上の老舗企業の倒産が相次いでいる。全国の倒産企業の数の30%が老舗企業で、地方によっては40%以上や50%近くが老舗企業という地域もある。

原因はどの老舗企業も同じで、経営者の高齢化と後継者の不在、そして伝統を守る余りに時代の変化についていけないというものだ。

中国にも100年以上続く企業には、国家商務部が「老字号」の称号を与えている。その多くは食品やレストラン、日用品を扱っている。例えば、北京で有名な茶葉店の張一元は、昔ながらの店舗で、昔と同じように茶葉をその場で量り売りをし、昔と同じように紙包みに包装するという商売をしている。しかし、昔と同じ商品を昔と同じような手法で販売していながら、近年業績を伸ばしている老舗企業が多いのだ。

その秘密は、ECサイトとの連携にある。

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北京市の下町繁華街、前門にある張一元の店舗。観光客も多く訪れるが、地元の北京っ子もお茶を買いにくる。昔ながらの量り売りをしている数少ない茶葉店だ。

 

ECサイトとコラボする老舗ブランド

国家商務部が認定した老字号は、全国に約1200社あるが、その半数にあたる600社が自社製品をECサイトで販売をしている。

世界的に有名な故宮は、ECサイトTモールとコラボして、清朝の食事を再現した「紫禁城素」をECサイトで販売、人気を博している。また、1853年に創業し、著名人に愛された布靴を作り続けてきた内聯升は、Tモールに出店をし、購入者の足のサイズを記録し、次回からは同じでいいか、少しサイズを変えてみるかを選ぶだけで、適切なサイズの布鞋が購入できるようにした。

また、飲料メーカーの北氷洋は、やはりTモールと提携して、市内であれば一時間以内に冷たい飲料を配達するというサービスを始めた。

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内聯升は中国伝統の布鞋で有名なブランド。歴代の中国指導者たちのほとんどが愛用をしている。軽く、履きやすいことから、最近ではルームシューズとして、国内外での愛用者が増えている。

 

老字号が少ない中規模都市にECサイトで進出

多くの老字号は、新商品の開発に対しては慎重だ。あまりに時代に合わせすぎて、やりすぎてしまうと、競合他社との違いがわからなくなってしまう。老字号のブランド力を使って、売り上げを伸ばすためには、伝統的な商品はそのままに市場を拡大する戦略が適している。

中国の老字号は、規模が大きくないことも幸いした。北京の老字号は北京の中にいくつも店舗を持っているが、他の都市にはさほど進出していない。他の都市にはそのご当地の老字号があり、出店をしてもなかなか選んでもらえないからだ。

しかし、ECサイトは中都市や小都市、農村にも販路が広がる。このような地域にはご当地老字号が少ない。そこで、全国的にも有名で、商務部のお墨付きがあり信頼ができる老字号の商品が売れるのだ。実体店舗を出すほどの売り上げにはならなくても、配送だけですむECサイトであれば、全体では大きな売り上げとなっている。

老字号は、ECサイトの力を利用することで、伝統的な商品をそのままに、売り上げを伸ばすことに成功している。

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張一元のT-mallに開設された旗艦店。張一元の茶葉が、ネット通販で購入できる。張一元の店舗がない地方都市からの注文が多いという。

 

伝統と革新は衝突しない

このようなECサイトを積極的に利用している老字号の熱い視線が注がれているのが香港だ。香港には、中国人だけでなく、外国人の居住者、旅行者も多い。ECサイトを使って、香港市民に馴染んでもらって、それから実体店舗を香港に出店することで、世界的な知名度を上げていく。

漢方薬の老舗、同仁堂は、この手法で、現在は米国、マレーシア、インドネシア、イラン、タイなどに出店をするようになった。

伝統を守ることと、新しいものを受け入れることは、決して衝突しない。むしろ、新しいものを受け入れることで伝統は守れていくのだ。老字号は何百年もそうして、新しいものを摂取しながら伝統を守ってきたので、生き延びてこれたのだ。

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漢方薬の老字号、同仁堂は、香港に出店したのを足がかりに、欧米各地に支店を開いた。漢方薬は、自然で優しい薬として西洋社会にも浸透し始めている。

板藍根顆粒(北京同仁堂)

板藍根顆粒(北京同仁堂)