中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国人の移住が進むシンガポール。移住中国人をターゲットにしたビジネスも続々登場

シンガポールに移住をする中国人が増加をしている。その移住中国人をターゲットにした飲食店、サービスの展開も進み始めた。その中で、霞光社シンガポールで起業した中国人創業者に現状を聞いた。

 

中国人の移住が増えるシンガポール

シンガポールは人口570万人。そのうちの76%が中華系だ。国語はマレー語であるものの、公用語として英語、中国語、マレー語、タミール語が使われる。近年、シンガポールに移住、在住する中国人が増えている。富裕層が快適な生活を求めてのことだが、その中国人を目当てにビジネスをするために移住をする人も増えている。飲食店も「海底撈」や「雲海肴」など中国で有名なブランドがシンガポールに出店をしている。

シンガポール国立大学に留学をしていた田野さんは、シンガポールでフードデリバリーを起業することにした。

シンガポールの中華料理店。中国人の移住者が増えるとともに、中国の飲食ブランドのシンガポール出店が増えている。

 

中国人向けのフードデリバリーをシンガポールで起業

私が起業を決意したのは2019年のことです。シンガポール国立大学に留学をしていて、卒業後いったん中国に帰国しましたが、2、3年するとシンガポールでの起業の機会は大きいと思い、シンガポールに戻りました。シンガポールのフードデリバリーは、中国に比べるとまだまだ進んでいないと感じたからです。特に、中国人向けの中華飲食店のデリバリーはほとんど行われていない状況でした。

そこで、デリバリーサービス「唐人街外売」(Delivery Chinatown、https://deliverychinatown.com/home)を2019年7月に始めました。

▲Delivery ChinatownのWeChatミニプログラム。中国語表記になっているため、英語などにまだ慣れていない中国人移住者に使われている。

 

ライバルは多くても中国対応をしていない

ライバルはいくつもあります。東南アジアで最大のライバルはGrabで、シンガポールには「星食客」(スターダイナー)、「HungryPanda」、マレーシアには「Easy」があります。

しかし、中華料理と中国人に特化したサービスはなく、中国ではシンガポールのことを「坡県」(ポーシエン、シンガポール県)と呼ぶほど近く感じて、移住を考える人が増えています。そのような人々がやってきて、私たちDelivery Chinatownの顧客になってくれます。

他のサービスは英語が基本になります。また、中華料理以外だと、中国人にはどんな味なのかがわかりません。これが、移住をしたばかりの中国人にとって最大の問題だったのです。Delivery Chinatownは中国語で中華料理が注文できます。

▲Delivery ChinatownのWeChatミニプログラムでは、今配達スタッフがどこまできているかが表示される。配達距離は、追加料金は必要になるものの無制限。

 

配達距離は無制限

シンガポールで中華料理をデリバリーする顧客の客単価は高めです。ある時は、シンガポールの最高クラスのホテルへのデリバリーで、329.3ドルという注文もありました。

Grabの配達は原則3km以内なので、自分がいるところから3km以内の飲食店にしか注文ができません。Delivery Chinatownでは距離の制限をなくし、どれだけ遠くても配達をします。時には20km、30kmということもあります。超過部分の配達料はDelivery Chinatown側と顧客で負担をしますが、多くの中国人がおいしいものを食べるのであれば配達料が高くてもしかたがないと考えてくれます。

また、中国の伝統的な祭日には注文数が大きく増え、客単価も大きくなります。中国国内よりも、祭日にはデリバリーで大量注文をしてくれます。

Delivery Chinatownは現在40万件以上の注文を受けました。顧客の大部分はシンガポールに定住をしたり、働いている中国人です。

▲Delivery Chinatownの配達スタッフ。シンガポールにもデリバリー企業は多いが、中国人向け中華料理に特化したデリバリーは少ない。

 

複数の店に同時に注文ができるDelivery Chinatown

私がシンガポールに留学をしていた10年前、シンガポールの中華料理店は今ほど多くありませんでした。この10年で中華料理店が急激に増えました。それも伝統的な中華料理店というよりは、中国文化の影響を受けた国際化をした料理店です。

マレーシアの首都であるクアラルンプールでも同様で、この数年で中華料理店が急激に増えました。

その浸透ぶりは、私の想像を超えていて、広東料理四川料理などさまざまな料理が進出をしてきています。しかし、シンガポールでデリバリーサービスを提供するには、やはり中国とはさまざまな違いがあります。

中国からやってきたばかりの人や旅行で来た人は、Delivery Chinatownの独特の方式に戸惑うこともあるようです。中国では、1つの飲食店に1つの注文を入れるのが常識です。しかし、Delivery Chinatownでは複数の飲食店にまとめて注文を出す「混点」というサービスがあります。前菜はあそこの飲食店のこれ、主菜はこちらの飲食店のこれ、デザートはあそこの飲食店のこれというのをまとめて注文ができます。

▲タイのバンコクのチャイナタウン。中国語の看板が多く、中国の飲食店も出店をするようになっている。

 

開発部隊は四川省に設置

また、シンガポールの人は言語が複数あることもあって、文字による説明を嫌う人が多く、Delivery Chinatownのアプリやウェブは画像が中心で文字による説明は少なめです。

さらに、友人と注文を共有できる「砍一刀」という仕組みも導入しました。友人と一緒に注文をすると、配達場所が異なっていても、配達料が大幅割引になる仕組みです。配達料だけを見たら、Delivery Chinatownが負担をしなければなりませんが、顧客が広がるので、サービスの拡大につながります。

Delivery Chinatownの開発チームは四川省成都市にあります。そのため、中国で成功したアイディアを取り入れることが可能です。この「砍一刀」というサービス拡大手法も、中国で試され、その効果は大きいことがわかっていますが、なぜか国内のデリバリーサービスではあまり採用されていません。東南アジアでは、大きな効果をあげています。

▲Delivery Chinatownはシンガポールを中心に、東南アジア各国に展開をしている。

 

移住をした中国人は集まって食事をする

起業時にはあまり考えていなかったことですが、海外の中国人向けサービスがうまくいくのには理由があることがわかりました。海外にいる中国人は、祖国を離れて、みな孤独という問題と戦っています。そのため、海外の中国人で団体をつくり、集まって食事をする機会が多いのです。その時、食事を出前するのに使ってもらうことができ、そのような場所での口コミによりサービスが拡大をしていきます。

シンガポールでの流行は東南アジア各国に伝播をしていきます。特にマレーシアとタイはシンガポールの動向の影響が強い市場です。東南アジア各国に中華料理店が増えていき、私たちもそれに従って、現在、マレーシア、カンボジアベトナムミャンマーなどのチャイナタウンを中心にサービスを提供しています。中国人の移住先とともにDelivery Chinatownも広げていきたいと考えています。

 

 

化石の内部スキャン映像を3Dモデル化するソフトウェアが無償公開。美しい化石の世界

中国科学院の古脊椎動物・古人類研究所は、化石を3Dモデル化するソフトウェア「媧魚」(Vayu 1.0)を開発し、無料で公開をした。古生物研究を加速させることになると中国新聞網が報じた。

 

古生物研究でも求められるデジタル可視化

開発をしたチームのリーダー、盧静研究員によると、古生物の世界でもデジタルデータ化と可視化は必須になってきている。X線CTスキャンによるデータをデータとして扱うのではなく、高い精度で可視化をし表現をする必要が出てきている。時代が変わり、学問は学者の間だけで共有するのではなく、一般市民とも共有し、特に子どもたちに科学普及教育を行うのが学者の大きな使命のひとつとして考えられるようになってきているからだ。

▲媧魚で3Dモデル化した化石。化石から古生物の内部構造まで研究することが可能になる。

 

医療分野の3D可視化ソフトは化石には向かない

すでに医学や建築などの分野で、スキャンデータを3Dモデル化するソフトウェアはたくさんある。しかし、それぞれの分野に特化をしたもので、化石の3Dモデリングに向いているとは言えない。このようなソフトウェアは、古生物学者にとっては操作が複雑で、特別な工夫をしないと化石のモデリングには利用できないのだ。このような操作や工夫は、古生物学者本来のスキルとは無関係で、大量の化石をモデリングしたいという場合に大きな障害になっていた。

▲化石を3Dモデル化するソフトウェア「媧魚」を開発した古生物学者の盧静研究員。医療用ソフトウェアなどは古生物研究には向かず、オリジナルで開発する必要があったという。

 

化石の可視化専用ソフトウェア

このような問題を解決するために、盧静研究員のチームは化石専用の3Dモデリングツール「Vayu 1.0」を開発し、無償で公開をした。化石や生物の3Dモデリングに特化されており、古生物学だけでなく、考古学、生命科学、医学などの分野でも利用できるという。

また、3Dモデリングをするだけでなく、必要な着色をして動画を作成するところまでが自動化されている。研究分野だけでなく、博物館の展示、学校での科学普及教育、SNSのショートムービーでのプレゼンテーションなどにも利用できる。

配布は、中国科学院の英文ページ(http://admorph.ivpp.ac.cn/download.html)から行われる。また、技術詳細は「古脊椎動物学報」に論文「Vayu 1.0, a new set of tools for visualizing surface meshes」として発表されている。

▲化石を破壊せずに内部構造をスキャンしたデータを3Dモデルにし、自動で着色もしてくれる。古生物研究だけでなく、展示やプレゼンテーションにも使える。

 

 

マトリクスアカウントとは何か。店舗アカウントからの発信で、集客力を向上させる

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今回は、マトリクスアカウントについてご紹介します。

 

マトリクスアカウントとは「矩陣号」(ジュージェンハオ)という機能のことで、行列アカウントと訳されることもあるようです。矩陣というのは、数学の行列の中国での呼び方です。しかし、マトリクスアカウントという言い方がいちばん理解しやすいと思われるため、この記事ではマトリクスという言葉を使います。抖音で盛んに使われる機能であるため、その国際版であるTikTokにも実装される可能性はあります。アカウントの流量を増やし、ファン数を獲得することができるばかりでなく、中国ではチェーン店舗がマトリクスアカウントを運営に利用する例が増え始めています。

 

ツイッターやインスタグラム、TikTokなどで、ブランドの公式アカウントを設置する場合、それを複数人で共有するということはごく普通に行われています。一人でアカウント管理することは難しく、複数人のチームでコンテンツをつくっていく必要があるからです。

このような時、一般的に行われるのが、IDとパスワードを共有するという方法です。3人のチームでひとつの公式アカウントを運用する時、IDとパスワードを3人で共有し、3人の誰もがアクセスできるようにするのが一般的です。

しかし、このようなやり方には、さまざまな問題があります。ひとつはSNSのアカウントというのは本来は個人に紐付けをされるため、ログインに携帯電話の番号を利用することが増えていることです。例えば、ログインしようとすると、登録をしてある携帯電話番号に検証コードがショートメッセージで送られ、それを入力する必要があるという二要素認証も増えてきました。このような場合は、メインで管理している人に連絡をとり、検証コードを教えてもらうか、そもそも二要素認証を使わない設定にしておく必要があります。

もうひとつはパスワードが流出する危険性がつきまとうということです。関係者が互いによく知っている少人数であればともかく、あまり話をしたこともない別の部署の人とも共有しなければならない状態だと、誰がどう管理しているかわからず、流出の危険がつきまといます。ブランドの公式アカウントの場合、乗っ取りを受けて、反社会的なメッセージでも発信されたら、ブランドに傷がつくという大問題になります。

そのため、公式アカウントの共有パスワードは毎月変えるのが鉄則で、なおかつ主要メンバーに伝えなくても推測できるものにする必要があります。例えば、ツイッターのパスワードであれば、基本になるキーワードを決めておき、そのキーワードがtigerであれば、23年3月分は、twi+wc+tiger+2303とつくり、twiwctiger2303とします。wcというのは23番目のアルファベット、3番目のアルファベットで年月を表しています。これであれば、23年4月のパスワードは教えてもらえなくてもtwiwdtiger2304となることがわかり、いちいちメールなどで連絡しなくても済むことになります。

文字と数字の両方で年月日を入れておくことがミソです。このパスワードを盗んだ人物は4月になってパスワードが変えられていることを知ると、最後の2303が年月を表しているのだと見て、twiwctiger2304というパスワードを入れてみますが、wcのところが間違っているために弾かれます。なかなかwcが年月を表しているとは気がつかれません。

同じようにインスタグラムも共同管理をしているのであれば、inswctiger2303とパスワードがつくれます。

もちろん、パスワードのつくり方まで知られてしまうと意味はなくなりますが、毎月変える、新パスワードをやりとりしない、知らない人には推測ができないという要素を入れることでアカウントが乗っ取られる確率を下げることができます。

 

本来は、子アカウントがつくれればいちばんいいのです。公式アカウントの下に子アカウントがA、B、Cと3つあり、創作チームの3人がそれぞれにIDとパスワードを決めてアクセスをして投稿する。利用者からはどの子アカウントから投稿をしても、公式アカウントに投稿されたように見えます。

これは管理の利便性だけの問題ではありません。インプレッションやリツート数などの計測をするときも、子アカウント別に表示をされれば、非常に解析がしやすくなります。現在は、A、B、Cの誰が投稿しても、公式アカウント全体としての計測しかできないため、解析データを手動またはスクリプトをつくって投稿者別に分類整理して再集計しなければなりません。

コンテンツを創作するスタッフが複数いる場合、スタッフ別に解析を行い、どのような投稿が受けるのかを考え続けることはきわめて重要なことです。1つのアカウントを共有する方式だと、このような解析もやりづらくなります。

 

なぜか、ツイッターやインスタグラムといったSNSは、こういうビジネスユースの対応をしてくれません。ツイッターの場合は、TweetDeckを使えばひとつのアカウントを複数人で共同管理することができる機能が使えますが、ツイッター自体が仕様をさまざまに変えていて、TweetDeckが今後も利用できるかどうかが不鮮明です。きちんとビジネスアカウントに対応しているのは、日本ではLINEぐらいです。

中国では、このような複数人でひとつのアカウントを共同して利用する仕組みを提供しているのが原則です。抖音だけでなく、当然ながらWeChatの公衆号(企業公式アカウント)、快手(クワイショウ)、小紅書(シャオホンシュー)といった種草(コンテンツに商品タグを直接貼り付けることができる)系のSNSでは常識になっています。

このようなひとつのアカウントを共有する仕組みがマトリクスアカウントです。今回はこのマトリクスアカウントを使うとどのようなメリットがあるのか、そして実際にマトリクスアカウントを利用してチェーン運営をしている例をご紹介します。

 

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エアコン、空気清浄機完備の26建てのマンション。住人は60万頭の豚たち。高層自動化養豚場が中国の食卓を救う

湖北省鄂州市に26階建ての養豚場が出現した。総面積は80万平米となり、中国で最大の養豚場となる。建設費は40億元で、毎年120万頭の豚を出荷することができると毎日経済新聞が報じた。

 

26階建ての高層豚舎が出現

この26階建ての養豚場を建設したのは、畜産企業「中新開維現代牧業」。豚舎は2棟あり、1つの豚舎で毎年60万頭、合わせて年間120万頭の豚を出荷することができる。

豚は地下1階に搬入され、そこから6基用意されているエレベーターで、目的の階に運ばれる。エレベーターは16平米という広いもので、最大積載量は10トン。豚が1頭240kgだとすると70頭ほどが運べるが、安全を考えて40頭ずつ運ぶのだという。

▲中新開維現代牧業が建設した26階建ての豚舎。2棟目もすでに稼働している。合計で毎年120万頭の豚を出荷できるようになる。

▲豚は地下1階に搬入され、そこから専用エレベーターで目的階に移動する。

 

中国で進む豚舎の高層化

豚の飼育場は、エアコンが完備されており、夏、冬ともに気温は一定になっている。また、空気清浄機も完備され、空気は澄んでいる。飼料などの作業も完全自動化している。

養豚場は不要になった工業用地を利用しており、平屋方式の一般の養豚場に比べて、20倍の土地利用効率を実現している。

このような高層の養豚場は、中新開維現代牧業だけでなく、牧原、新希望、温氏、唐人神、夢牛山、京基智農などの大手畜産企業が始めている。2020年には、四川省で新希望が5階建ての養豚場の建設を2.7億元で行い、母豚6750頭、育成豚4.8万頭、年間16万頭の子豚の出産を行い、年間10万頭の豚を出荷している。

牧原も河南省で高層養豚場のテスト運用を始め、2022年3月には、牧原全体で300万頭の豚を出荷するようになっている。

新希望は、山東省、河北省、浙江省などに10カ所以上の高層養豚場の建設を始めており、種豚8万頭、育成豚24万頭規模にする計画だ。

▲最終的には豚舎を5つ+繁殖施設に増やす計画を立てている。

 

すべてが自動化されたクリーンな養豚場

中新開維現代牧業は、最終的に豚舎を5つに増やす計画で、現在は2棟の豚舎が稼働をしている。5つすべての豚舎が稼働するようになると、年間300万頭の豚を出荷できるようになるという。

豚舎での作業もほぼ自動化をされている。DCS(分散型制御システム)による自動化が行われ、豚舎内には3万点以上の制御ポイントがあり、給餌は自動化をされている。さらに、温度、湿度、通気、有毒ガス濃度をリアルタイムでモニターし、エアコンの調整や集中消毒などがリモートで行えるようになっている。

地下一階には汚水処理システムが設置され、糞などを清掃した汚水を浄化してから、外部の下水に流すようになっている。この作業を自動化するために、養豚場にはわずかな傾斜が設けられており、水が自動的に流れるようにしている。

▲養豚場は、エアコン、空気清浄機完備で太陽光も入る良好な環境。給餌、清掃などの作業は自動化をされている。

▲DCSが導入されているため、豚舎の管理はすべて制御室から行えるようになっている。現場作業は種付け、出産などの繁殖関係のみになる。

 

300人のスタッフで年間60万頭の生産効率

このような自動化が進んでいるため、作業スタッフは各階10人から12人で運営ができるようになっている。そのスタッフの作業もほとんどは種豚の種付けと子豚の出産だ。1棟で300人程度のスタッフで年間60万頭の豚を出荷できることになる。

▲一般的な豚舎。人手が基本であるためにどうしても衛生的な問題が生じる。近年では豚舎が迷惑施設として認識をされるようになり、建設できる場所がどんどん限られるようになっている。

 

近隣苦情により通常の養豚施設は増やせない

高層化することにより、スペースに余裕ができたため、豚の運動場を設置することが可能になった。特に妊娠中の母豚にとっては運動が重要で、豚の健康に寄与すると言われている音楽が流れる中で、母豚は自由に歩き回り運動をし、健康な子豚を産むことができるようになる。運動をじゅうぶんにした母豚は、難産になるリスクが大きく減り、苦しむことが少なくなる。運営企業としても、生産効率があがることになる。

また、通気も完全に制御されているため、不快なにおいが外に出ることがなく、近所からの苦情も出づらい。世界的に豚肉の価格が高騰し、中国の豚肉消費量もあがり続けている。豚舎は迷惑施設となっていて、新規に豚舎を増やすことも難しくなってきている。その中で、高層、自動化豚舎は、豚肉不足を解消する大きな決め手になる。

 

清華大学が開発をした超解像度3Dナノプリント技術。微細構造の組み立て製造が可能に

清華大学の研究チームが、世界で初めてナノメートル級の3Dプリント技術を開発した。基本ユニットを造形し、それを組み立てることで複雑な構造を構築できる。これにより2万dpiという解像度を達成したと清華大学新聞が報じた。

 

ナノプリント技術をリードした清華大学チーム

世界中でナノプリント技術の競争が行われている。医療や電子回路基盤などの精密部品を高い精度で製造できるようになるからだ。また、小型部品の表面を極限まで滑らかにすることが可能になるため、精度が要求される部品の製造にも応用が考えられている。

一般的なナノプリント技術は100nm単位の3Dプリントができるものを指している。清華大学の研究チームは、これをさらに一桁進め、最小単位77nmのナノプリントを可能にした。

▲研究チームはデモとして、清華大学の校章をナノプリントで作成した。医療や電子回路基盤への応用が考えられている。

 

レゴのように組み立て製造する発想

一般的な3Dプリンターは、FDM方式(熱溶解積層)が使われる。樹脂を高温で溶かし、ノズルから噴き出し、一層ずつ重ねながら造形をしていくというおなじみのものだ。しかし、FDM方式では材料が高温になるため、冷える時に収縮が起こるなど、高い精度が要求される造形には向かなかった。

そこで、ナノプリントでは、紫外線に反応して固まるエポキシ樹脂などを使い、紫外線レーザーをあてて固めながら造形をしていく。

さらに、清華大学の研究チームは、基本ユニットをナノプリント技術でつくり、それをレゴのように組み立てる技術を開発した。基本ユニットを溶液中に漂わせ、接合部分にフェムト秒レーザーをあてて接合点を励起させる。これにより、他の接合点と結合させることで、立体構造を組み上げていくというものだ。プリント技術というよりも、ナノ組立て技術といった方が正確かもしれない。

清華大学の研究チームが開発した技術は、ナノプリント技術だけではなく、基本ユニットを接着することができる技術。これにより複雑な微細構造の製造が可能となった。

 

2万dpiの解像度での造形が可能になった

このような技術で、世界最先端の解像度を達成した。一般的なレーザープリンターは1インチあたり300ドットから600ドットの解像度を持っている。写植機などの光学印刷機は1インチあたり1200から2400の解像度を持っている。清華大学が開発した技術では、1インチあたり2万の解像度に相当する。この精度で微細構造が製造できるようになったことで、医療、電子などの分野を大きく進歩させることが期待をされている。

この技術は、清華大学精密機械系の孫洪波を中心にしたチームにより開発され、その成果は、「3D nanoprinting of semiconductor quantum dots by photoexcitation-induced chemical bonding」(https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo5345)として米科学メディア「サイエンス」で発表されている。

▲基本ユニットをナノプリント技術で製造し、接合させて構造に組み立ていく。

 

ホコリまみれの汚れた車をアートに変える。綿棒で書いた「ホコリ画」がSNSで話題に

ショートムービープラットフォーム「抖音」で拡散しているのが、ホコリまみれの汚れた車にアートを描くというものだ。自分の車にも描いて欲しいという申し出が殺到していると九派新聞が報じた。

 

ホコリまみれの車に描かれたアート

ある男性が始めた自動車アートが話題になっている。それは、放置されてホコリでびっしりになった車の窓に、綿棒やウェットティッシュを使って絵を描いていくというものだ。多くの人がその絵の面白さに目を惹かれ、それがホコリを画材にしていることに気がついてびっくりする。

中国は多くの地域で、春になると黄砂が降る日が続く。この時期になると、車の洗車は意味がなくなる。洗車をしてもすぐに汚れてしまうからだ。もはやあきらめて、窓だけ拭いて、車体は汚れたまま乗っている人も多い。その悩みを逆手に取って、アートにしている点が面白がられた。

▲付文豪さんの作品。左のジャムス市がコロナ禍に見舞われた時の応援メッセージは、地元で大きく取り上げられた。

 

街を美しくするアート活動

この作者は、大学を卒業したばかりの付文豪さん。父親が脳溢血で倒れたため、看病をするために、故郷である黒竜江省ジャムス市に帰り、絵画、壁画、彫刻などのアトリエを開いた。

仕事の合間に近所の枯れた街路樹、大きな石、壊れかけた壁などにアートを描くことを始めた。近所の人からは、街中の汚い風景がアート作品に変わって美しくなったと喜ばれた。

その付文豪さんは、街中にあるホコリまみれで放置されている車に目をつけた。放置車両であることが多く、近所の人にとってはじゃまであるのに勝手に処分ができない頭の痛い問題だ。付文豪さんは、そのような美しくない風景を美しくしようと思い、綿棒を使って絵画を描き始めた。

▲付文豪さんは、街を歩いてホコリまみれの汚い車を発見した。たまたま綿棒を持っていたため、絵を描き、街を少しでも美しようとした。それが話題になった。

https://v.douyin.com/koLJrR7/

付文豪さんが、抖音で発信している動画。この動画が話題になったことで、本業にも依頼が大量に舞い込むようになった。

 

たまたま持っていた綿棒が画材に

付文豪さんは、ハルビン理工大学の芸術学院で絵画を専攻した。5、6歳の頃に絵を描くのが好きになり、それ以来、ずっと絵を描き続けてきた。

そして、生まれた街である黒竜江省ジャムス市でアトリエを開いた。アトリエのショートムービーの公式アカウントもつくり、自分の作品を発表していくと反応があり、なんとか本業のアートの依頼で生活がしていけるようになった。

放置自動車アートもアトリエの公式アカウントでショートムービーを配信してみたところ、大量に拡散されて、大きな話題となった。

付文豪さんは、転んで膝を擦りむいて、薬局で綿棒と消毒液を買った帰りに、汚れた車を見つけて、アートにすることを思いついた。たまたま持っていた綿棒で絵が描ける。そこで、「崖の上のポニョ」の宗介とポニョの絵を描いたのが始まりだ。

この車の持ち主は邢さんという人だった。彼女は最近仕事が忙しく、1月ほど車を使っていなかった。絵は断りなく描かれてしまったが、彼女はものすごく喜び、しばらくは洗車をしないまま車に乗っていた。しかし、半月後にやはりホコリが積もって、絵がほとんどわからなくなってしまったため、ようやく洗車をしたという。

▲最初に書いたポニョの絵。持ち主は喜び、絵が消えるまで洗車をせずに乗っていた。

 

1000台の車に絵を描く活動

付文豪さんが絵を描いた車のショートムービーを配信するようになると、あちこちから「私の車にも書いてほしい」「これからそっちにいくので書いて!」という声が寄せられるようになった。付文豪さんは、このような声に応えて、合計1000台の車の絵を描くことを目標に掲げた。1台の絵を描くのにかかるのは10分ほどで、求める人には無料で絵を描いている。

▲付文豪さんは、黒竜江省ジャムス市在住のアーティスト。街を美しくする活動を行なっていて、汚れた車を面白くしようと考えて、ホコリで絵を描き始めた。

 

動画が話題になり、本業にもいい影響が

これが本業にもいい影響になった。シャッターに絵を描いたり、駐車スペースに絵を描く依頼は以前からこなしていたが、その依頼が大量に入るようになったのだ。このような仕事は絵の複雑さにより600元から2000元で引き受けている。付文豪さんは子どもの頃から好きだった絵を描いて生活をしていけるようになった。

▲付文豪さんの本業は、ガレージなどの絵画制作。本業の方も注文がたくさん入るようになった。

▲付文豪さんは駐車スペースにペイントをする仕事もしている。

 

 

月探査機「嫦娥5号」の月面サンプルから水を発見。中国研究チームが月面の水の存在を示す直接的な証拠を得ることに成功

2020年12月に月から帰還した月探査機「嫦娥5号」が持ち帰ったサンプルから水が直接発見された。これで月に水があることがゆるがない事実となったと老粥科普が報じた。

 

中国チームが月面サンプルから水を発見

月面に水はあるのか。この問いに中国科学院地球化学研究所の研究チームが、月探査機「嫦娥5号」が月面から持ち帰ったサンプルを分析をし、水を直接的に検出した。このサンプルは、2020年11月に長征5号で打ち上げられた嫦娥5号が月面サンプルを自動採集し、12月にサンプルを持って地球に帰還したもの。

発見した水分は170ppmにも達し、科学者が予測するよりも大量なものだった。

▲月探査機「嫦娥5号」。2020年12月に地球に帰還し、月面サンプルを持ち帰った。このサンプルの分析により、水が発見された。

 

月面の水を発見できなかったアポロ計画

以前は、月面は昼には120℃になり、大気圧はほぼ0になるため、水が存在してもすぐに蒸発をしてしまい、さらに太陽光が直接あたるために、水素分子と酸素分子に分離をしてしまうと考えられていた。

しかし、望遠鏡による月面の観測では、月の南極付近に明るい光点が見えることから水があるのではないかと考える専門家もいた。

この問題を決着できるチャンスは、1968年から1972年まで行われた米国のアポロ計画だった。6回の月面着陸で、12名の宇宙飛行士を月面に送り、大量の月面サンプルを持ち帰った。持ち帰った土壌サンプルは合計380kgにもなる。

当初、このサンプルを分析した研究チームは、「月面サンプルから水を発見した」と発表したが、その後に、この声明は取り消された。サンプルが汚染されていることがわかったからだ。

当時は、土壌サンプルの分析手法が確立してなく、分析チームはサンプルを通常の室内に置き、簡単な手袋をするだけで触り、マスクもしていなかった。このため、空気中の水分や人の呼気に含まれる水分がサンプルに付着した可能性を否定できず、この貴重な発見は取り消されることになった。

アポロ計画の後期になると、サンプルの扱いは厳格化をされたが、帰還船が海洋上に着水をし、これを船に回収するという方法であったため、サンプルを完全密封することができず、地球の大気に触れてしまう可能性を否定できなかった。

このような技術的限界から、米国は「月面に水がある」直接的な証拠を見つけることはできなかった。

最初に「月の水を発見した」と主張したのは、ソビエト連邦だった。1978年に発表された論文で、ルナ24号が持ち帰った月面サンプルから水が発見されたことが公表されたが、その含有率が0.1%という高いものであったため、西側諸国の科学者たちは相手にしなかった。

アポロ計画の月面サンプルの分析作業の様子。簡便な手袋だけでマスクもしていない。当時としては常識的なものだったが、サンプルが人によって汚染されてしまった。

 

インドと米国が月の水の間接的な証拠を得る

2008年、インドの月面探査機「チャンドラヤーン1号」には、NASAが開発した鉱物分析装置が搭載され、水分子の一部であるヒドロキシ基(-OH)特有の波長を、南北両極付近で観測し、間接的な証拠ながら、月面に水があるという強い証拠を得ることに成功した。

ただし、ヒドロキシ基が観測されたといっても、それで水が存在することの証明にはならない。そこでNASAは空飛ぶ天文台と呼ばれるSOFIA(The Stratospheric Observatory for Infrared Astronomy、成層圏赤外線天文台)を使った観測を行った。ボーイング747を改造した移動天文台で、高度4.1万フィートの成層圏を飛行しながら、赤外線を観測するというものだ。この分析から、月面から水分子特有の波長を観測することに成功した。

これで、月面に水があることはほぼ間違いのない事実となった。

▲インドの月面探査機「チャンドラヤーン1号」は、月面の鉱物分析を行い、ヒドロキシ基(-OH)特有の波長を南北両極付近で観測した。これが最初の水の存在を示す間接的な証拠となった。

 

50年前の月面サンプルからは水は発見できず

しかし、このような観測はあくまでも間接的な証拠であり、サンプルから直接水を観測することが何よりも望ましい。2022年3月、NASAは、アポロ17号が採集をし、50年間完全密封されていた月面サンプルを開封した。しかし、残念ながら、このサンプルから水は検出されなかった。

そして、嫦娥5号のサンプルから水が検出され、ようやく月に水があることが直接的に証明をされた。

▲米国の研究チームは、2022年に50年前のアポロ17号が持ち帰った月面サンプルを開封して分析したが、水は発見できなかった。

 

月の水は太陽由来

中国科学院の研究チームは、サンプルの分析から、この水は太陽由来のものであるという説も発表した。太陽は巨大な水素の塊で、水素イオンを太陽風として周囲に放出している。この水素イオンは電荷を帯びているため、地磁気のある地球などでは地球表面まで届くことはない。しかし、地磁気のない月では月面に到達し、鉱物に含まれている酸素イオンと結びつき、水分子ができると考えられている。

嫦娥5号が持ち帰った月面サンプルの分析では、大量の化合した形態の水が発見された。

 

砂漠よりもさらに乾燥している月面

ただし、想像よりも大量の水が月から発見されたといっても、すぐに月に畑をつくって作物が育てられるということにはならない。地球上で最も乾燥した砂漠地帯でも、土壌には1%程度の水が含まれている。月の170ppmというのは、科学者が想像しているよりも大量だったというだけで、乾燥した砂漠の1/100程度にすぎない。

また、この水は水として遊離しているのではなく、通常は鉱物の中にヒドロキシ基として化合物の形になっている。この化合した水を取り出すのは簡単なことではなく、少なくとも生物が直接水を利用することはできない。

しかし、それでも、砂漠だらけの乾燥した衛星と考えられていた月に水があることが確定したことは大きな期待をもたらしてくれる。米NASAは、アルテミス計画を進行中で、2024年に宇宙飛行士が月面に降り立つことになる。当然、水の発見は大きな任務のひとつとなる。アルテミス計画により、さらに月の水について、新たな事実が解明される可能性は高い。