中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

サドルの下からお金がざっくざく。現金の存在感が増す無現金都市

自転車ライドシェア大手のofoが、面白いキャンペーンを行った。自転車のサドルの裏に1元硬貨を入れておくというものだ。この硬貨を発見した人は、ofoの自転車が1元で1ヶ月使い放題になる。つまり、無料で1ヶ月使えるというものだ。しかし、硬貨だけを集める人が続出し、北京の駐輪場はゴールドラッシュ状態になっているとIT之家が報じた。

 

市民生活に定着をしてきた自転車ライドシェア

中国各都市で浸透をする自転車ライドシェア。駐輪場に止めてある自転車を、スマートフォンで解錠して、利用料はスマホ決済というレンタル自転車だ。日本の報道では、盗難や破損、放置という負の面ばかりが強調されるが、それはごく一部の話であり、多くの都市が駐輪可能な場所を区画するなどの対応を行い、状況は落ち着いてきている。倒産する自転車ライドシェア企業も出てきているが、それは自然な淘汰プロセスであり、大手のofo、Mobikeは市民生活に定着をしたと言ってもいいだろう。

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サドルの裏に1元硬貨を入れておくキャンペーン

そのofoが、面白いキャンペーンを行った。8月23日から27日までの5日間、自転車のサドルの裏に1元硬貨を入れておくというものだ。毎日1万枚が入れられ、5日間で5万元(約83万円)規模のキャンペーンとなる。

サドルの裏を探って、この1元硬貨を発見した人は、そのままその自転車を使うと、1元で1ヶ月自転車が使い放題になる権利が与えられる。1元硬貨を手にしているのだから、要は1ヶ月無料で使い放題キャンペーンということになる。

ところが、当然と言えば当然なのだが、サドルの裏に入れられた硬貨は、誰でもとることができるため、大量にofo自転車が止めてある駐輪場に行って、硬貨だけを漁るという人が続出した。駐輪場はちょっとしたゴールドラッシュの状態となり、硬貨を大量発見した人は、SNSのウェイボーに写真を上げ、それがまた人を引き寄せるというお祭り騒ぎになった。

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▲サドルの裏に貼り付けられた1元硬貨。見つけた人は、自転車が1ヶ月乗り放題になるというキャンペーン。

 

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▲最も拡散した写真。たかだか100元程度のことなのだが、なんとも言えない満面の笑顔。現金には何か特別なものがある。

 

SNSで拡散することが狙いのプロモーション

この件に関して、ofoは特にコメントを発していないが、硬貨だけを取られて、自転車は利用されないということは、おそらく想定していただろう。ofoの自転車を使ってもらえれば最高だが、それよりも、ofoの名前が拡散し、中にはこの件で初めてofoの自転車に手を触れてみた人も多いはずだ。ofoの狙いは、その1元でofoを利用してもらうということよりも、この楽しい騒ぎがSNSで拡散することによりofoの知名度をさらに高め、なおかつofoの自転車に触れてもらうことだったに違いない。

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▲1元は日本円で16円程度。見つけたからといって、大した金額ではないのだが、なぜか微笑んでしまう。みな、写真を撮ってSNSにあげたくなる。極めてうまい、そして中国でなければ成立しないバイラルマーケティングだ。

 

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▲硬貨だけ集める人が続々と登場。駐輪場はゴールドラッシュの現場となった。

 

無現金都市だからこそ、存在感が増す現金

中国では、無現金都市化が進んでいる。ほとんどのサービスが、スマホ決済で利用できるようになり、現金を持ち歩かない人が増えている。多くの人が、スマホを落としたり、電源がなくなった時のことを考え、50元紙幣をカバンなどに入れておき、あとは財布を持たないという。実際、今の中国の大都市で、現金決済をしているのは地方出身者と外国人旅行者がほとんどになってしまっている。

しかし、だからなのか、今度は現金の存在感が増している。今回のofoのキャンペーンにしても、「ofoの自転車を利用すると、毎日1万人に1ヶ月無料使用権があたる」でも同じことだが、それではここまで話題になることはなかっただろう。わずか1元とは言え、現金であることが人を惹きつけたのだ。最も拡散した写真の女性は満面に笑みをたたえているが、手にしているのは数十枚の硬貨、つまり数十元程度のことなのだ。現物の硬貨であるということが気持ちを高揚させている。

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割引クーポンではなく、紙幣をホチキス止めした街頭チラシ

最近、中国で時々見かけるのが、街頭で配布しているレストランのチラシに、1元紙幣がホチキスで留めてあるというもの。通常は、1元分のクーポンが印刷されているところを、現実の1元紙幣をつけてしまう。そのチラシをもらった人は、そのレストランに行かずに、別のことに1元を使ってしまうかもしれないが、レストランにとってはそれでいい。多くの人が拒否せずにチラシを受け取るし、SNSに投稿され、大きな話題となる。

街角に大量の1元効果が入った箱が置かれるというシェアリング硬貨の現象も起こったりしている。無現金都市化が進むと、かえって人は現金に惹き寄せられるようだ。それは単なるノスタルジーなのか、それとも硬貨や紙幣には電子マネーにはない何かがあるのか。現金には、特別なポテンシャルがあるのかもしれない。

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