中華IT最新事情

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無人コンビニは、家族経営の小規模コンビニから広がっていく

中国のテック好きの人々に衝撃をもたらしたアリババの無人スーパー。あるいは無人コンビニBingoboxと、中国では今、無人スーパー、無人コンビニのスタートアップが続々と生まれている。アリババの無人スーパーにTakeGo技術を提供した深蘭科技も、独自に無人コンビニを展開し始めた。しかし、狙いは大規模店舗ではなく、60平米程度の小規模で、家族経営をしている小規模コンビニだと鉛筆道が報じた。

 

消費期限の短い生鮮食料品が扱えない無人コンビニ

無人スーパー、無人コンビニには、ひとつ大きな弱点がある。それは生鮮食料品が扱えないということだ。無人コンビニといっても、レジが無人化できるだけで、商品の配送、陳列は人がやらなければならない。また、いちばん問題になるのが、消費期限の迫った商品の廃棄だ。アリババ無人販売所では、配送、陳列は1人で10店舗を担当できるが、これも生菓子やおにぎり、サンドイッチといった消費期限の短い商品を扱わないからできることで、このような生鮮食料品を扱ったとすると、1人で担当できる店舗数は一気に3店舗から5店舗程度になってしまう。

そこで、アリババ無人販売所にTakeGo技術を提供した深蘭科技では、無人コンビニ技術の販売先を、60平米程度の小規模店(平均は100平米前後)で、家族経営をしている店舗に狙いを定めている。

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 深蘭科技の基幹技術は人工知能

深蘭科技の母体となっているのは、オーストラリアのディープブルー研究院。人工知能の研究者が10人ほど集まって作った研究グループだ。10年ほど、シドニー工科大学と共同研究をし、スウェーデン西大学などとも共同研究をしてきた。

現在のCEOである陳海波(ちん・かいは)氏が、この研究院の研究内容に感銘を受け、中国で人工知能を利用した無人コンビニのシステムを開発するために、ディープブルー研究院から2人の研究員をスカウトして起業したのが深蘭科技だ。

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▲小型コンビニというよりも、大型の自動販売機といった方が適切なTakeGo店舗。ショッピングモールなどの屋内に設置することを想定している。

 

手のひらタッチで入店、そのまま商品を持って、外へGO

深蘭科技の主要テクノロジーは2つある。ひとつは、無人コンビニを運営するシステムquiXmart(中国では音をとって快猫と呼ばれている)だ。

入店は、手のひらの静脈パターン認証で行う。初回は、店舗入り口付近のパネルに手を置き、スマートフォンアプリからアリペイの口座番号などを入力して、ユーザー登録をする必要があるが、次回からはタッチするだけで入り口の自動ドアが開き、入店できるようになる。

入店後は、来店客の行動が人工知能によってモニタリングされる。買い物カゴは不要で、買うものは自分のバッグに入れて構わないし、帽子や服のようなものであれば身につけてしまっても構わない。もちろん、いったん手にとってから、購入をやめたい場合は、商品棚に戻せばいい。すべての商品には無線タグがつけられていて、このような来店客の行動から、どの商品が購入されたかを把握する。手にとっただけでは、カートに入れた状態になるだけで、そのまま移動すると購入と判断される。

もうひとつのテクノロジーが、アリババ無人販売所でも採用されたTakeGoだ。購入した商品の合計金額を提示し、来店客のアリペイ口座から自動決済をする。

このように説明をすると、非常に複雑に感じるが、要は、入り口付近のパネルをタッチ、中に入り、欲しいものを手にして外に出るだけ。その後、スマートフォンに決済の通知が届くという実にスムースな購入体験になる。

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▲入店は、手のひらの静脈認証で行う。登録後は、手のひらをタッチするだけで入店できるようになる。

 

無人コンビニ技術は、家族経営の小規模コンビニでこそ活きる

このTakeGoの技術は、アリババ無人販売所などにも採用され、飲料大手の娃哈哈(ワハハ)を通じて、無人スーパーを普及させていく計画だが、深蘭科技独自でもquiXmart店舗を広げていく計画だ。しかも、その狙いが店舗面積60平米程度で、家族経営をしている小型コンビニなのだという。

なぜ、中型コンビニ、大型コンビニではなく、小型コンビなのだろうか。答えは、無人コンビニは、小型コンビニでこそ、多くのメリットが生まれるからだ。

先ほども触れたように、コンビニの仕事は、発注、陳列、商品管理、精算という業務があるが、quiXmartとTakeGoを導入しても、省力化できるのは精算業務だけで、発注、陳列、商品管理は人手でやらなければならない。中型以上の3人体制のコンビニの場合、精算業務が不要になれば、3人のスタッフを2人か1人に減らすことはできるかもしれないが、それだけだ。結局、発注、陳列、商品管理の業務をするために、1人は常駐に近い状態で対応しなければならない。つまり、無人コンビニ技術を導入するよりも、セルフレジを導入した方が、導入コストを抑えつつ、ユーザー体験を向上させることができる。

 

コンビニ経営者を重労働から解放してくれる無人コンビニ技術

ところが、夫婦で経営する小型コンビニの場合、quiXmart導入の効果は大きい。店舗は1人体制で運営できるが、夫婦2人が12時間交代で対応しなければならない。365日24時間営業が基本なので、夫婦は休暇を取ることができず、労働環境としてはかなり厳しいものになっている。

当然、交代スタッフを雇用せざるを得ないが、その教育は夫婦経営の経営者にとってはなかなかハードルが高い。極端な話、売上金をくすねられないか、商品を横流しされないかなどの心配もしなければならない。そのため、多くの夫婦経営の小型コンビニでは、夫婦のいずれかが常駐をし、補充スタッフに店をまかせ、その間にバックヤードで発注作業をするなどということになっている。

これでは、新たな店舗を出店する計画など実行に移しようがない。これが、quiXmartを導入するとどうなるか。スタッフを雇用する必要がなくなるのだ。売上金を盗まれることも、商品の横流しについての不安もなくなる。販売データは、スマートフォンでどこからでも見られるようになるので、どこにいても発注作業をすることができる。陳列、商品管理は、配送の時間に合わせて店舗に出向き、そこでこなしてしまえばいい。

小型店舗の場合、生鮮食料品を扱わないのであれば配送は1日1回、生鮮食料品を扱ったとしても1日3回が標準だ。配送に合わせて陳列、商品管理の作業は1時間程度で済むから、夫婦の労働時間は一気に減少することになる。また、陳列、商品管理だけであれば、スタッフを雇っても、教育もしやすい。経営者が休暇を取れるようになるし、新たな店舗展開を考える時間の余裕も生まれてくる。

 

小型コンビニは、大型の自動販売機になっていく

深蘭科技では、60平米の店舗にquiXmart、TakeGoを導入するのに必要な費用は、約10万元(約160万円)であるとしている。

すでに今年の6月には、上海市宝山区に6平米のキャラクターグッズのミニ店舗を開設している。ぬいぐるみという消費期限のない商品のみなので、陳列、商品管理という業務ではなく、補充という感覚で店舗運営ができる。経営者は、新規店舗の展開計画や、商品ラインナップを考えることに集中できることになる。

quiXmartはこのようなミニ店舗、小型コンビニに狙いを定めて、拡大をする戦略をとっている。すでに現在、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、北欧、日本、米国、オーストラリア、シンガポールなどから問い合わせがきているという。

既存の中型、大型コンビニ、スーパーは無人というよりも「レジなし」を志向し、購入体験を向上させることを狙っている。「無人」にするよりも、「人」が丁寧な接客をすることで、さらにユーザー体験を向上させようとしている。一方で、小型コンビニは完全無人化をしていくことになる。要は、日本人の感覚で言えば、大型の自動販売機になっていくのだ。

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上海市宝山区に開店したquiXmart店舗。TakeGo店とは異なり、既存のミニコンビニを改装したもの。今後、夫婦経営の小型コンビニに、quiXmartとTakeGoの技術を活かした無人コンビニを展開していく予定だ。

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