部屋の中で人は何をしているか。Wi-Fiルーターを使って、遠隔で、部屋の中で人が何をしているかを再現する技術がカーネギーメロン大学の研究チームによって開発されたと量子位が報じた。
Wi-Fiルーターだけで、部屋の中を覗き見する
このWi-Fiを使って、部屋の中の人の姿を再現する技術を開発したのは、カーネギーメロン大学のジャーチ・ゲン、ドン・ホワン、フェルナンド・デ・ラ・トーレの3人のチーム。
もちろん、カメラなどは必要なく、必要なのは2台のWi-Fiルーターのみだ。
研究チームの目的は、プライバシーを保護するためのものだ。老人介護施設や一人暮らしの高齢者の自宅などでは、医療を目的とした行動観察が必要になるが、カメラを設置する方法ではプライバシーが確保できない。
レーダーを使えば、対象者の姿勢や行動は把握でき、なおかつ映像は得られないため一定程度のプライバシーは守れるが、レーダーは費用面で現実的ではない。そこで、安価なWi-Fi電波を利用することを思いついた。
ノイズになっていた遅延波を利用して人体を認識
このセンシングには、電波反射データ(CSI:Channel State Information)を利用する。
従来のWi-Fi電波はアンテナからデバイスに電波が届くだけでなく、壁や室内の障害物に電波が反射をして届く電波もある。このような反射波は、遅れてデバイスに届くために、従来はじゃまなノイズとなり、転送速度の低下を引き起こしていた。
しかし、現在のWi-Fiでは、複数のアンテナで複数の電波を受信できるMIMO(マイモ、Multi Input Multi Output)により、遅れて届く遅延波も積極的に利用することで、転送量をあげる(=速くなる)ことが可能になっている。
この遅延波の状態(CSI)は、部屋の中の障害物の位置的な変化により変化をする。
そこで研究チームは、CSIの状態の変化をAIで解析することで、障害物の状態の変化を再現する技術開発に成功した。部屋の中で変化をする障害物とは多くの場合、人だ。
複雑な姿勢、多人数にはまだ限界も
そのために、研究チームは、24の人体の部位とCSI信号を関連づける畳み込みネットワークモデル(CNN:Convolutional Neural Network)を構築し、学習を進めた。
ただし、現状では弱点もある。学習が進んでいない姿勢を人体をとった時は認識に失敗する。また、3人以上になると、複雑になりすぎて、認識に失敗することがある。しかし、研究チームは、学習をさらに進めることで解決ができると考えているという。
介護施設、病院などの応用に期待
また、Wi-Fiルーターの置き場所にも条件が生じるなどの問題もあり、利用しているWi-Fiルーターを利用することは難しく、監視専用のWi-Fiルーターを設置する必要がある。
しかし、Wi-Fiルーターは非常に安価な機器となっているため、介護施設や病室などで姿勢を監視し、容態の急変や徘徊、転倒などで自動アラートを出したり、トイレに行く回数などを自動記録するなど、プライバシーを一定程度守りながら、必要な監視をすることが可能になると期待されている。