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ECサイトのファッションモデルは、この世に存在しない人かも。急速に広がる生成AIモデル

ECの世界ではもはや生成AIがあたりまえに使われている。多国展開するECでは、モデルの人種を現地国に合わせる必要があり、今までは撮影コストがばかにならなかった。しかし、生成AIツール「WeShop」を使うと、一瞬でモデルを変えることができると毎日経済新聞が報じた。

 

EC業界ではごくあたりまえに生成AIを使う

生成AIが生成した画像、映像は、クリエイターの仕事を奪う、心がこもっていないなどの理由で、一部の人からは拒否感をもたれている。確かにアートというのは、人間がその作品をつくるプロセスも芸術作品の一部であるため「人間がつくった」と言われながら、実は生成AIによるものだとしたら、騙された気分になるだろう。そのため、生成AIによる画像は、その旨を記載すべきだとする規制が始まっている。

しかし、ECの世界ではもはや生成AIが多用をされるようになっている。商品写真は芸術作品ではなく、商品の魅力を伝えることが目的だ。そのため、以前からPhotoShopなどを使ってレタッチをするというのは常識になっている。ECのアパレルモデルはほんとうはもっと太った人かもしれない。でも、PSで腰を削ってくびれを出す。ほんとうは目尻に皺があるかもしれない。でも、PSで滑らかにする。そのようなことはごく当たり前に行なわれてきた。そのような世界にいる人にとっては、生成AIはPSと地続きの技術であり、使うことに罪悪感や疑問などない。

▲元の写真からモデルを変更し、背景をつけることが可能になっている。

 

アマゾンやShopifyも利用する生成AIツール「WeShop」

2023年、陳琪はこのような状況を捉えて、ECやEC出品業者に生成AIツールを提供するWeShop(https://www.weshop.ai)を起業した。当初は、女性向けEC「蘑菇街」でテストを繰り返し、その後、出品業者に向けての販売を始めた。

WeShopのツールは、AI Model ShootingとProduct Shootingの2つがある。AI Model Shootingは、商品の服を着たモデルの写真から、商品の服をクリックして指定すると、後は自由にモデルと背景を変えられるというものだ。Product Shootingでは、商品を指定すると、背景を変えることができる。

この他、4つのツールも用意されている。Remove Background(背景除去)、Image Enhancer(高画質化)、Image to Image(2Dイラストの3D化)、Text to Image(テキストからの画像生成)だ。

すでに多くの出品業者に利用されているようで、WeShopの顧客リストには、アマゾン、Shopify、Shopee、Lazadaなどの名前があがり、利用者数は世界で25万人以上になっている。

▲使い方は極めて簡単だ。製品写真を読み込んで、Editをクリック。

▲画像から残したい部分(衣類)を選んでクリック。範囲指定などは必要なく、クリックで衣類を選んでいける。

▲生成したいモデルを選ぶ。

▲次に背景を選んでいく。

▲これで選んだモデルと背景を使った映像が生成される。

 

▲もはやモデルによる撮影も必要がない。オリジナルはマネキンでも、生成AIがモデルと合成してくれる。

 

海外展開するECでは、モデルを現地人に差し替える

商品の服を着たモデルの写真を撮影し、そのモデルを生成AIで別人にする。これはアパレルECにとっては大きい。なぜなら、今アパレルメーカーで1つの国でしか販売をしないようなところはやっていけない。国際的な越境ECなどに参入をし、海外でも販売する必要があるのだ。

海外で販売する場合、モデルを母国の人にするか現地の人にするかでは、現地の人を採用した方が圧倒的に売れ行きはよくなる。しかし、多数の海外国に展開する上で、すべての国で現地モデルによる撮影をしていては、薄利のECでは利益が出なくなる。そこで、生成AIを使って、現地のモデルに差し替えるのだ。

さらに進んで、WeShopでは、元の写真が人間でなく、マネキンでもかまわない。このマネキンを人に差し替えることができる。今後は、人間のモデルすら不要になり、マネキンで商品写真を撮影し、それを各国のテイストにあった商品写真に変換をしていくということが行われるようになる。

この世界でも、人間の仕事がAIに奪われるということが始まりそうだ。

▲マネキン撮影した衣類の写真から、生成AIで各国の人種のモデルを合成する。海外展開するECでは、モデルに内国人を使うか外国人を使うかで、売上に大きく影響するからだ。

▲WeShopを起業した陳琪。中国内のECでテストを繰り返し、オンライン販売をするとすぐに広がり、アマゾンやShopifyなどでも利用されている。