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北京冬季五輪の開会式。「立春」の演出を支えた武術学校の伝統技

北京冬季五輪開幕式の冒頭の演目「立春」。緑色の発光竿が揺れることで、春の芽吹きが表現された。この動きを演じているのは、武術学校の生徒400人。昨年の9月から練習に入り、直前まで練習を続けた。この演出を支えたのは、武術学校の伝統技だと北京日報が報じた。

 

武術学校の生徒たちが振った発光竿

北京冬季五輪の開幕式冒頭で演じられた「立春」。10mの発光竿が春の芽吹きを表現した印象的な演目だ。

この演技を行なっているのは、山東省の中華武術学校、宋江武術学校の生徒たち400名だ。

テクノロジーとしては、発光竿を発光させ、適切なタイミングで発光色を変えるだけ。演技としては、発光竿を指定された角度に振るだけという単純なものだが、この演技の習熟が非常に高いハードルになった。この努力が見事な演出を支えている。

この発光竿は重量が3kgほどでしかないが、半分ほど掲げたところで揺れ始める設計となっている。この揺れが起きると、下部を手で支えている演者には大きな負担がかかる。武術学校の生徒たちは、しなる長槍の扱いに慣れてはいるものの、発光竿は長槍よりも大きくしなる。このしなりが演出のポイントとなっているため、しなりを制御しなければならない。体力が必要で、なおかつ繊細さが要求される演技だ。

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北京冬季五輪開幕式の冒頭に行われた「立春」。発光竿を揺らして、春の芽吹きを表現した印象的な演出。

 

全員に異なる演技マニュアル

演技マニュアルは、総監督の張芸謀チャン・イーモウ)の演出プランに従って、北京理工大学のチームが、各演者がどのように発光竿を動かすべきかを分析し、1人1人に異なる演技マニュアルを作成した。

この「立春」の監督を務めた陶雯婷は、北京日報の取材に応えた。「このマニュアルは演者それぞれですべて違っています。移動すべき場所、他者との距離、発光竿の掲げる角度、すべて違うのです。誰かの動きを真似をするということができません」。

陶雯婷は、さらに言う。「マニュアルには、発光竿を北東方向に10度掲げるなどと書かれています。北東はどうやって知ればいいのでしょうか。さらに、10度はどうやって測ればいいのでしょうか」。

すべて、練習をしながら角度を確認し、体の形で角度を覚えていくしかないのだ。

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▲竿を振る角度、位置は全員が違っていて、全員に異なるマニュアルが配布されている。竿の指定角度は、体で覚えていく以外にない。

 

半年前から練習を始める

2021年9月、山東省で、演者全員が集められ2ヶ月間の訓練が始まった。演者は、毎日、6時間から7時間のダミーの発光竿を振る。この最初の訓練の目的は、正確な角度に発光竿を掲げることができるようになることだった。30度、90度、175度の3つの角度がつくれるように徹底的に訓練が行われた。

この基本動作ができるようになると、今度は音楽と映像に合わせて位置を移動する訓練が行われた。記憶力と体力の挑戦だったが、その間にも演出プランがたびたび変更される。そのたびに通し稽古をやり直さなければならなかった。

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https://v.douyin.com/Lx3rvSA/

立春」のメイキングを紹介した動画。発光竿を振っているのは400名の武術学校の生徒たち。昨年の9月からダミーの竿を使った練習を始めている。

 

ダミー竿と本番の発光竿の感触が異なっていた

本来は開幕式のかなり前に北京入りをし、仕上げの稽古をする予定だったが、新型コロナの感染状況もあり、演者たちが北京入りできたのは、最終チェックの2日前のことだった。

しかも、演者たちは、ここで初めて本番用の発光竿に触れることができた。そこで大きな問題が発生した。練習用に使っていたダミー竿と、柔らかさや弾力がまったく違っていたのだ。演者たちは、わずか2日間で、演技の調整を行い、最終チェックに間に合わせることができた。

開幕式最初の演目であることから、失敗だけは絶対にできない。その緊張感の中で、400名の武術学校の生徒たちは演目を成功させた。テクノロジーだけではなく、中国伝統の武術がこの演出を支えていた。