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生成AIでつくった画像に著作権はあるのか?中国で初の生成AI画像の著作権裁判の結果

中国で初めての生成AIによる著作権裁判の判決が下された。北京インターネット裁判所は、生成AIにも知的創造活動があることを認め、著作権が存在し、保護されるべきだという判決を出したと極目新聞が報じた。

 

生成AI画像を無断使用したら権利侵害になるのか

2023年2月、原告の李さんは生成AI「Stable Diffusion」を使って画像を生成し、SNS「小紅書」(シャオホンシュー、RED)に公開した。ここまではよくあることだ。しかし、被告の劉さんは「百家合」で、自作の詩「三月の愛、桃の花の中で」を公開した。この時に、李さんの発表した画像を無断で使用したのだ。しかも、小紅書では画像をダウンロードすると、小紅書の名前と投稿者のIDがスタンプされる。劉さんはこれを取り除いて使用し、出典なども明記しなかった。

原告の李さんはこれを発見し、自分の画像が無断使用されていることから、5000元の賠償と謝罪を求めて、裁判に訴えた。

▲原告の李さんが生成AIでつくった画像。李さんは、この画像をつくる上で使用したプロンプトに独創性があり、著作権法で保護されるべきだと主張した。

 

論点は生成AIの独創性

中国の著作権法第3条では、著作物とは、文学、芸術、科学の分野のおける独創的で一定の形で表現できる知的な成果物と定義されている。問題は、この生成AIによる画像が著作物にあたるかどうかだ。誰でも簡単につくれるもので、そこに独創性はないのであれば著作物とは呼べず、法律でも保護されない。つまり、他人が出典を明記せず使ったとしても文句は言えない。しかし、生成AIにも独創性があり、著作物と呼べるのであれば無断使用などから保護されることになる。

 

生成AIはプロンプトに独創性がある?

裁判の経過によると、李さんは生成AI「Stable Diffusion」を使って、夕暮れの中の少女の写真風画像をつくろうと、アートタイプを「リアルな写真」「カラー写真」とし、「日本のアイドル」のモデルデータを使い、三つ編みの髪型や肌の状態、目の状態などの細部を試行錯誤しながらプロンプトに入力をしていった。さらに「クールなポーズ」「フィルムシミュレーション」などのスタイルを入力し、「夕暮れ」「ダイナミックな照明」などのプロンプトを決定していった。原告の李さんは、画像は生成AIが生成したものだが、そのためには人物の設定、プロンプトの選択、順序の整理、パラーメーターの設定などの作業が必要で、独創性はあり、著作物にあたると主張した。

原告側は、スマートフォンで撮影する写真を例に挙げて説明した。スマホで撮影する写真はもはやカメラアプリがさまざまな調整を行う。シーンを認識して、適切な色合い、明度などを調整し、最近では人物を美しく変換したり、余計なものを削除をする機能もある。フィルムで撮影される写真と比べれば、さまざまな加工がシステムにより自動的に行われる。しかし、それでもスマホで撮影された写真は著作物として認められ保護されている。生成AIで生成した画像も、程度の差はあれ、スマホ写真の延長線上にあるものだと主張した。

 

保護されるべきは画像ではなくプロンプト?

北京インターネット裁判所は、この主張を認め、被告の劉さんに500元の賠償と、24時間以内の謝罪を求める判決を下した。

今回の判決は、被告の劉さんが画像に表示されるスタンプをわざわざ削除して使用していることから、盗用の意図があったことになる。そのため、多くの人が判決そのものには納得をしているが、生成AIによる画像を著作物と認めた点についてはさまざまな議論がある。李さんの知的作業や独創性というのは、画像にあるのではなく、プロンプトにあるのではないかという意見が多い。つまり、保護されるべきなのは画像ではなくてプロンプトなのではないかという主張だ。

しかし、それが正しいとすると、画像はコピーし放題ということになってしまう。また、プロンプトに独創性があるといっても、音楽のように無限の可能性があるわけではなく、偶然似通ったプロンプトを入力するということはたびたび起こることになる。法律の専門家は、生成AI時代にあった著作権法を構成する論理を構築しなければならなくなっている。