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バスの中で飲み物を売る、朝食を売る。経営難に直面した深圳バス集団の試み

深圳バス集団の路線バスで飲み物や朝食が販売をされている。観光路線では飲み物を、オフィス路線では朝食の販売を始めた。乗客からは好評だが、経営難に苦しむ深圳バス集団の業績回復の一手になるか注目されていると深圳特区報が報じた。

 

地域バスの運営が危機に瀕している

中国の各地のバスが経営難に陥っている。給料の遅配が起きている地域もあり、経費を削減するため減便、路線休止などが起きている。主な理由は2つある。ひとつはコロナ禍により、感染の不安から密室度の高いバスが避けられ、コロナ禍が終わってもその習慣が定着してしまったことだ。多くの人が地下鉄を利用するようになっている。

もうひとつはタイミング悪く、2019年にバスの運営が、中央政府から地方政府に移管をされたことだ。それまでは国営企業だったために、中央政府が運営補助金を支給していたが、2019年以降は地方政府が補助を行なうことになった。ところが、すぐにコロナ禍が始まり、地方政府はバスだけに補助金を出すわけにはいかなくなり、額が大きく減らされた。これによりどの地域のバスも運営が厳しくなっている。

▲全国のバスの乗客数。コロナ禍で大きく減少し、それが戻らなくなっている。

 

車中で飲み物を売る深圳バス

深圳バス集団は、路線バスの車内での物販を始めた。車内に冷蔵庫を置き、ペットボトル飲料の販売を始めたのだ。冷蔵庫を開けて、自分で飲料を取り、冷蔵庫に貼ってあるQRコードをスキャンして、スマホ決済で払うという完全セルフ方式だ。

バスの中は飲食は禁止されている。それなのに飲み物を買う人はいるのか。このバスは大梅沙海浜公園行きで、この海浜公園は散歩や浜遊びができる観光スポットになっている。露店もたくさんあり、飲み物はいくらでも買えるが、観光地価格であるために高い。そのため、市内のコンビニで買って持っていく人が多かった。そこに目をつけてバスの中でコンビニ価格での販売を始めた。

▲バスの車内に冷蔵庫が設置され、飲み物が販売される。常温の飲み物も用意されている。

▲飲み物は自分でとって、自分でQRコードで支払う完全セルフ式。車内で飲むことは禁止をされている。

▲飲み物を販売しているバスには、「販売している」というサインボードが掲げられている。観光路線で飲み物の販売が行われている。

 

オフィス路線では朝食も販売

また、オフィス街に向かう路線では「深圳バス食堂」として朝食の販売サービスも始めている。深圳バス集団は、朝、オフィス街に向かう路線に、予約制バスを運行している。前日までにチケットを購入する必要があるが、購入できれば必ず座れるというものだ。

この予約制バスのチケットは、WeChatの「優点出行」ミニプログラムから購入できるが、このチケットを購入する時に、朝食を注文することができるようになっている。朝食は専用バッグに入られ、封がされているため、バスに乗った時に受け取り、それを持ってオフィスに行き、朝食を取ることができる。

中国では、朝を自宅で食べず、オフィスに行く途中でコンビニで買っていくか、朝食店による人が多いため、時間の節約になると好評だ。現在は5種類のメニューがあるため、1週間毎日メニューを変えることもできる。

▲「深圳バス食堂」で販売される朝食。専用バッグに入れられ、そのままオフィスに持っていくことができる。

▲朝食は5種類用意されているので、1週間毎日違うメニューを食べることもできる。

▲深圳バス食堂の広告。メニューは豆漿かお粥がベースになっている。いずれも8元(約160円)という安さ。

▲朝食は毎日早朝からつくられ、各バスに運び込まれる。

 

値上げができないバスの生き残る道

バスの運賃は2元から3元という低価格であり、公共交通という立場からも簡単に値上げをすることはできない。地下鉄もバスよりわずかに高い程度なので、バスが値上げをすると、多くの人が地下鉄を利用するようになってしまう。バスは売上を増やすためにできることが限られているのだ。

深圳バスは、移動だけを提供するのではなく、移動の目的に合わせたサービスを提供することで、この壁を打ち破ろうとしている。ネット民の間では、自分の街でも始めてほしいという声が多い。