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中国の偵察衛星が富士山を撮影。上空656kmからなぜこのような写真が撮影できたのか?

中国の偵察衛星吉林1号」が撮影した富士山の写真が他国の関係者に衝撃を与えている。上空から真下を見下ろした写真ではなく、まるで現地でドローンを飛ばして撮影したような角度の写真だからだ。吉林1号には、カメラの角度を変えて連続撮影し、合成する機能が備わっていると第一軍情が報じた。

 

中国の衛星が撮影した富士山の写真に米軍関係者が驚愕

中国の偵察衛星吉林1号」が撮影した富士山の写真に、米国の軍関係者が注目をしている。その写真は高精度とは言え、ごく普通の富士山の写真だ。

しかし、よく考えると、吉林1号の技術に驚かざるを得ないことになる。一般に、衛星から撮影した写真は上空から垂直に見下ろした角度になる。ところが、この富士山の写真は、まるで現地でドローンを飛ばして撮影したかのようだ。吉林1号の軌道高度は656km。そのような上空からどうやってこの写真を撮影したのだろうか。

吉林1号が撮影した富士山。偵察衛星から真下を見下ろした写真ではなく、まるで現地でドローン撮影したような角度で撮影されている。

吉林1号の写真は高精細なもので、富士山の登山道もはっきりと写っている。

 

カメラ角度を変えて連続写真を合成する

吉林1号は、そもそもが下側に向けたカメラを45度の角度まで傾けられる機能を持っている。しかし、45度の角度から撮影してもこのような精細な写真にはならない。

そこで、吉林1号の開発、運用をしている長光衛星技術(http://www.jl1.cn/)では、複数の写真を軌道上を移動しながら撮影し、最終的に地形データと照合させながら合成をし、側面から撮影したような写真を生成する技術を開発した。

吉林1号。すでに70機が運用され、2025年には138機のネットワーク運用が完成する。

 

偵察衛星はさほどの脅威ではない

これがなぜ、米国の軍関係者を慌てさせているのだろうか。偵察衛星は地上の状況をさまざまな手法で撮影をするため、軍事拠点なども撮影され、敵国にさまざまな情報を収集されてしまう。

しかし、これまでの偵察衛星はさほど脅威とはならなかった。なぜなら、情報を隠すことはさほど難しくないからだ。見られてまずいものは屋内に入れれば見えない。さらに地下に施設を建設すれば何をやっているかを推測することもできなくなる。さらに米国の軍事拠点には発煙装置を備えていて、偵察衛星がやってくる時刻に煙で隠すこともできる。

衛星は、軌道要素がわかれば、どの時間にどこにいるかが簡単に計算ができてしまう。偵察衛星が直下の写真しか撮影できないのであれば、対応のしようはいくらでもあった。しかし、カメラの角度を変えて側面からも撮影できるとなると、偵察衛星が撮影可能な長い軌道上にいる時は常に対応をしなければならなくなる。

▲これまでの偵察衛星の写真は真上から見下ろしたものだった。ここから建物や移動体を分析して、何をしているか推測していく。

 

今後開発が進む偵察衛星写真のAI合成技術

同様の技術は米国も開発をしている。偵察衛星を運用しているプラネット(https://www.planet.com/)の衛星「Doves」には、同様の機能があり、ウクライナ紛争では側面からの角度の写真を多数生成し、米国国防総省に提供をしている。

この技術に必要なのが、地上の高精細3Dモデルだ。あらかじめ地形データを持っていて、そこに衛星が撮影した写真をAIが適切に貼り付けていくことで、側面からの写真が合成されている。そのため、地上のあらゆる場所が側面から見られるわけではなく、あらかじめ撮影する対象を決めておく必要がある。

しかし、技術の進化は速い。特にAIの進化は速く、おそらく、世界中で、地球のどこでも自由に側面から見られる高精細写真によるモデルを生成する研究開発の競争が始まっていると思われる。グーグルアースの3D版が登場する日もそう遠くないかもしれない。

▲米国の衛星Dovesにも衛星写真から側面からの映像を生成する機能が備わっている。