中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

家を持つことを拒否する人々。屋台で暮らす人、会社で暮らす人、ノマドで生きる人

中国の住宅価格は突出して高くなっている。住宅価格が下がり始めているとは言え、まだまだ住宅ローンや家賃は多くの人にとって負担となっている。そのため、家を持つことをやめてしまう人が現れ始めている。そのような3人に一条が話を聞いた。

 

家を持つことを放棄した人々

中国の住宅価格は下がり始めているとはいうものの、大都市の中心地ではほとんど下がっていない。一方、大都市には仕事がある。報酬のいい仕事はあるものの、それ以上に、大都市での住宅価格や賃貸料の負担が大きい。そのため、若い世代ではシェアハウス、シェアルームはごく普通のことになっている。

一方、家を持つこと、借りることを放棄してしまった人もいる。一条では、家を持たない3人の青年に話を聞いた。

 

屋台に住む碼さん、34歳、ソフトウェアエンジニア

私は江蘇省の小さな町の出身で、2014年から上海で、ゲームプログラマーをしています。2年ほど前から、賃貸住宅から出ることを考えてきました。家賃が毎月5000元もして、ほんとうにコストパフォーマンスが悪いからです。プログラマーには35歳危機という言葉があります。35歳を前に、自分の生き方を確立したいということもありました。

今年2024年の初め、賃貸住宅の契約期間が満了したこともあって、私は屋台に住むことにしました。屋台はネットで2100元で買いました。問題はどこに止めるかです。上海の中心部で地下鉄駅に近く、水と電気、トイレ、食事のできる場所が近くにあることが条件です。すると、ある人が個人所有の月極駐車場を紹介してくれました。条件をすべて満たし、駐車料金は月500元です。

▲碼さんが購入した中古の屋台。碼さんはこの中で暮らそうと考えた。

▲改装前の屋台。ひどい状態で、碼さんもほんとうにここで暮らせるのか不安になった。

 

ゲーミングハウスに改造

次に、屋台の改造を始めました。古い屋台なので、あちこちが痛んでいます。まず、全面に防水処理を施し、隙間は接着剤や発泡充填材で埋めました。改装費は3000元ほどで済みました。

中は狭いので一般的な家具を置くことはできません。レイアウトアプリを使って、シミュレートをしながら、デスク、ゲーミングチェアー、折り畳みベッドを買いました。また、私は映画が好きなので、プロジェクターとスクリーンも購入しました。

近くには公衆トイレがあり、ジムの会員となり、体を鍛えるのと同時にシャワーを使います。当初、食事はデリバリーがほとんどでしたが、IHコンロを買い、自炊もするようになりました。

▲改装した室内。ゲーム中心の生活で、夜は逆側から折りたたみベッドが出せる

 

課題は夏の暑さ

やってみると、意外と生活は快適で、以前賃貸していた場所よりもオフィスに近いため、朝は30分ほど長く寝ることができます。最も快適なのは騒音を気にしなくてよくなったことです。映画を見たり、音楽を聴いたり、ゲームをする時は、以前は隣への騒音を気にしなければなりませんでしたが、今は周りに誰もいないので、気にすることなく音を出すことができます。

困るのは、たまたま駐車場にきた人が不思議がって、覗き込むことぐらいです。鍵をかけて、外には「カメラにより監視中」という掲示を貼りました。それで、覗き込まれることはほぼなくなりました。

屋台はガラス張りで、昼間は暖かく、暖房はほとんど使う必要がありません。夜もベッドに入ってしまえば、暖房は必要ありません。ただ、夏は厳しいのではないかと考えています。今から、どうやってエアコンを設置しようかと検討をしているところです。

家には特別の意味はないと思います。自分が安心できる場所であれば、そこが家だと思います。

▲偶然にもガラス窓が多いため、温室効果で冬は暖かい。問題はこれからやってくる夏の暑さだという。

 

会社に住む劉さん、35歳、起業に失敗

私は河南省出身の35歳です。起業に失敗をし、北京でセールスの仕事をしています。子どもたちは、両親と一緒に実家で暮らしています。私は、会社に寝泊まりをしています。

昨年9月に現在の会社に職を得た時、北京市内で適当な賃貸住宅が見つからず、会社と相談をして、しばらくの間、会社に寝泊まりすることになりました。しかし、そのことを恥ずかしく思っていたため、退勤時間になると同僚と一緒に帰るふりをして、どこかで食事をし、誰もいなくなる9時か10時に会社に戻って寝ていました。

最初は、ダンボールを敷いて、その上にマットを敷いて寝ていました。

▲会社に寝泊まりする劉さん。生活としては快適だが、夜一人になると寂しさが襲ってくる。

 

出張には洗濯物を持っていく

しかし、意外と快適で、しばらくの間だけではなく、ずっとここでもいいのではないかと思えるようになりました。会社に相談するとかまわないというので、防湿マットレスなどを買い込み、本格的に暮らすことにしました。朝は6時には起きて、マットレスを倉庫にしまい、窓を開けて換気をして、掃除をして、同僚が出勤してくるのを待ちます。同僚は何も不思議に思っていないようです。

困るのはシャワーと洗濯です。近くに公衆浴場があるため入浴はそこに行きますが、洗濯ができません。私の仕事はセールスで、週に1回か2回は出張があります。少し荷物になりますが、出張の際に使った下着や靴下を持っていって、宿泊先のホテルで洗濯をします。

▲仕事が終わると、他の従業員と一緒に退社し、帰宅するふりをする。夜遅く会社に戻ってそこで寝る。

 

深夜のライブ配信で寂しさを癒す

私は2011年に社会に出て、最初はホテルに勤めました。ホテル営業の仕事を覚えたので、2019年に起業をしましたが、しばらくするとコロナ禍が始まり、完全に失敗してしまいました。今でも借金が残っているため、節約できるお金は節約しなければなりません。

会社での生活は快適ですが、やはり夜一人で寝ていると、寂しさで心が押し潰れそうになることもあります。そんな時は、小説の朗読を聞きながら、考えないようにして寝るしかありません。

寂しさから深夜にライブ配信をするようになりました。視聴してくれる人は多くはありませんが、同じように孤独な人がたくさんいることに癒されています。ずっと北京にいたいとは思いません。早く借金を返済して、故郷に帰りたいと思っています。

 

ノマド生活をするDiさん、29歳、コンサルタント

私は、四川省出身の29歳です。アモイで大学を卒業した後、英国に留学をし、現在はコンサルタントをしています。仕事の中心は中東であるため、もともと、国内、国外を飛び回っていました。

仕事は忙しく、毎日15時間以上働いています。仕事をしたら寝るだけです。当時は賃貸をしていましたが、ただ寝るだけに帰るのは無駄ではないかと思うようになりました。そこで、1年間、家を持たない実験をしてみたのです。すると、ほとんど問題がありません。出張が多いので、大半は出張先のホテルに泊まります。それ以外の日は、実家に帰ったり、友人の家に行ったり、それもない時は市内のホテルに自費で泊まります。まったく問題はありません。

ノマド生活を続けるDiさん。マンションを賃貸していた時とノマド生活をしている現在と生活スタイルはほとんど変わらない。

 

ノマド生活が断捨離につながる

唯一の問題は、家財道具をすべて持ち歩かなければならないため、大型のスーツケースをいつも持ち歩かなければならないことですが、その不便さが、私の生活をシンプルにしてくれました。以前は、自分が好きだった趣味があり、ハイヒールが10足以上あり、服もたくさんありました。引越しをする時には、大量のゴミを捨てることになります。

今は、物を買うと、それを持ち歩かなければならなくなるため、不必要なものは買わなくなりました。すると、「あれが欲しい、これも欲しい」という物欲もだんだん消えていくのです。買うものの数が少なくなった分、優れた品質のものを買うようになっています。

▲必要なものは持ち歩いて移動する。そのため、余計なものは買わなくなり、断捨離が進んだ。

 

趣味のものはレンタルスペースに

ただし、冬場は問題が出ます。コートのような厚手の服は、スーツケースではかさばるのです。また、私はスキーが趣味ですが、そのスキーの装備や服なども持ちあることはできません。そこで、スキー場に行くのに便利な場所に、レンタルスペースを借りて、そこにスーツケースに入らないものを置いています。

また、銀行口座を開く時も困りました。定まった住所がないからです。しかし、住宅ローンを組むような時は銀行口座がないと困るかもしれませんが、もはや日常生活では銀行口座などつくらなくても問題がないことがわかってきました。昔つくった銀行口座だけでじゅうぶん間に合っています。

▲いつでも移動ができる体制であるため、1日でも暇ができると自然景観が豊かな場所に出かける。旅行をするという感覚ではなく、今日はここに泊まるという感覚だ。

 

定住すべき時までノマド生活を続ける

今の生活は快適です。以前も、賃貸住宅を借りても、仕事の都合で1年ほどで引っ越すことになり、自宅に帰ることは年の内半分もなく、ただの倉庫になっていました。よく考えれば、昔も今も生活はあまり変わっていないのです。

ただ、友人が家を買い、そこに定住をして、きれいなインテリアを入れ、猫を飼ったりしているのを見ると、羨ましく思うことはあります。しかし、今はこの生活でいいと割り切っています。計算してみると、家を持たないことで、年間20万元は節約できるため、それを投資信託に投資をしています。定住すべき時がきたら、定住をすることになると思います。