中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

新型コロナ感染拡大で注目を浴びた11ののテクノロジー(下)

新型コロナウイルスの感染拡大で、中国はさまざまなテクノロジーを一気に投入した。位置情報から感染リスクを自動計算する感染コードも200都市以上で採用されている。投入されたテクノロジーはそれだけはなく、今後も新しい日常の中で定着をしていくものがたくさんあると伝感器技術が紹介している。

 

07:マスク顔認証+体温測定

中国では顔認証が普及をし始めていたが、感染拡大により多くの人がマスクをつけるようになったため、顔認証ができないという問題が起きていた。マスクを外せば認証できるが、認証センサーのある場所は人が密になりがちで、そこでマスクを外すことは大きなリスクがある。

また、駅、空港、地下鉄などの公共施設では、入る前に体温測定を義務付けたところも多い。しかし、これも体温計を額に当てるため、検査員と対象者が近づかなくてはならない。

そこで、赤外線サーモグラフィーでリモートで体温測定ができ、同時にマスクをつけていても顔認証ができるシステムが広く普及した。センサーとは5G回線で結ばれ、監視員は離れたところにいて、体温が高い人を発見した通知を受けたときだけ現場に行けばいいようになっている。

顔認証、体温測定のために、センサーの前に立ち止まる必要はなく、歩いて通過をすればいいので、入館者が滞留をして密になることも避けられる。

上海地下鉄2号線では、荷物の安全検査と体温測定が行える仕組みが、各改札の手前に導入された。

最も広く使われるようになった百度のシステムでは、1分間に最高200人の体温を測定することができ、測定誤差は±0.3℃になっている。

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▲空港などで導入されたのはサーモグラフィー。利用客は普通に歩くだけで体温が測定され、規定体温以上の人がいるとアラートが発生される。センサー部分は5Gワイヤレス接続されているので、監視員は距離を保って監視ができる。

 

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▲マスクをしていても顔認証ができ、同時に体温が測定できるシステムも広く導入された。防犯と防疫を同時に行う。

 

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▲上海地下鉄2号線の駅には、体温測定通路が設置された。乗客は、荷物をX線検査装置に預け、ブースの中を通過する。それで体温が測定され、地下鉄駅構内に入ることができる。

 

08:AI新型コロナ診断

アリババダモアカデミーは、肺のCTスキャン画像から新型コロナウイルス肺炎であるかどうかを機械学習により判別するシステムを開発した。

人間が診断をするには、CTスキャン画像を300枚は見る必要があり、熟練した医師でも15分はかかる作業。それが人工知能はわずか20秒で、96%の精度で判定ができる。このシステムは、16省市の26カ所の医療機関にすぐに採用され、その後、全国100カ所以上の医療機関で使われている。

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▲アリババダモアカデミーは、肺のCTスキャン像から機械学習で新型コロウイルスであるかどうかを判定するシステムを開発し、多くの医療機関に提供した。20秒で判定ができ、96%の精度が出せる。

 

09:ドローン消毒、ドローン配送

工業団地など、広い地域の消毒作業は多数の人手が必要になり、作業員の感染リスクも高い。そこで、深圳の龍岡工業パークでは、ドローン噴霧による消毒作業が行われた。工業パークは60万平米の広さがあるが、2時間で消毒作業が終了した。

また、物流企業の順豊では、ドローン特別チームを結成し、隔離地区への物資輸送をドローン輸送で行なった。

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▲すでにドローン配送は、杭州市などで営業免許を取得し、営業運用が始まっている。武漢市では、宅配企業の順豊などが、隔離地区への物資輸送にドローンを活用した。

 

10:全自動マスク生産機

戦闘機「J-20」を生産している成都飛機工業集団では、自社技術を使って、全自動でマスクを生産する設備を16日間で開発した。医療機関で使用する三層マスクを生産することができ、1分間で100枚のマスクを生産することができる。4月末には、この生産設備が24台製造される計画で、そうなると1日に300万枚を生産することができるようになる。

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▲全自動マスク製造ラインを開発したのは、戦闘機などを製造する成都飛機工業集団。主に医療機関などの公的機関にマスクは納入された。

 

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成都飛機工業集団は、全自動でマスクを生産するラインを16日間で組み上げた。1ラインで、1分間に100枚のマスクを生産することができる。合計24ラインが稼働した。

 

11:投影式血管可視化装置

感染拡大期間、医療機関はかつてないほどの人手不足に陥り、引退をした医療従事者の復帰、医学生看護学生の現場投入なども行われた。その中で、意外に手間をとり業務効率を下げている作業が点滴だ。

目で血管の位置を見て、穿刺しなければならないが、血管が細い人、太っていて血管が目では確認しづらい人、複数回穿刺をしているなどの場合は、血管の位置が確認できず、何度もやり直しをすることになり、時間もかかり、患者の身体的負担も大きい。

そこで、西安中科微光影像技術の投影式の血管可視化装置が医療機関で広く使われた。赤外線を当てて、その反射から静脈の位置を識別し、それを可視光で皮膚に投影するというものだ。医療従事者にとっては、あたかも皮膚の上に血管の位置が図示されているかのように見えるので、安全、簡単、迅速に血管穿刺ができることになる。

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▲点滴の穿刺は、経験がない施術者だと失敗も多く時間がかかる。元医療従事者、医療系学生なども新型コロナウイルス対策に駆り出されたため、スキルの低い医療従事者の効率を高めるために、この装置が利用された。

 

ここで紹介したテクノロジーは、新型コロナウイルスの感染拡大により生まれたものというわけではなく、以前から開発されていたものがほとんどだ。中国だけのテクノロジーというわけでもなく、どこの国にも同様のテクノロジーはすでに開発をされている。

しかし、中国が他国と大きく異なるのは、感染拡大という時期にこういう新しいテクノロジーをどんどん実戦投入してしまうということだ。中には小さな混乱が起きていることもあるだろうが、「ないよりは全然ありがたい」と考え、小さな混乱には目をつぶる。そして、その混乱の経験は、アフターコロナ後の運用に活かされている。国難を新しいテクノロジーを投入する好機と考えているのではないかと思えるほど、各地でさまざまなチャレンジが行われている。

そして、今、中国は以前とは異なる「ニューノーマル」(新日常)を作ろうとしている。