中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

台湾人の6割が「現状維持」を望む。独立と統一の間で引き裂かれてしまっている台湾人

台湾の国立政治大学選挙研究センターでは、1994年から毎年、台湾独立/統一に関する意識調査を行なっている。2023年の調査では、「現状維持」61.1%、「独立」25.1%、「統一」7.4%という結果になったとフォーカス台湾が報じた。

 

台湾人の6割が「現状維持」を希望

「台湾有事」という言葉を毎日のようにメディアで目にするようになっているが、当の台湾人たちはどう感じているのだろうか。

台湾の国立政治大学選挙研究センターでは、1994年から台湾独立/統一に関する意識調査を行なっている。これによると、最も多かったのは「永久に現状維持」の33.2%だった。さらに「現状を維持して後に決定」27.9%を加えると、61.1%が現状維持派だった。

独立派は「どちらかというと独立」「独立」を合わせて25.1%、中国との統一派は「どちらかというと統一」「統一」を合わせて7.4%となった。つまり、多くの人が、曖昧な形での現状維持を望んでいることになる。

▲台湾の国立政治大学選挙研究センターによる意識調査。香港の民主化運動で独立派が上昇したことを除けば、現状維持が主要な意見であることは変わっていない。

 

独立も統一も選択したくない台湾人

台湾人の立場に立つと、独立か統一かを決めることは簡単ではない。台湾人は独立と統一の間で引き裂かれてしまっている。

中国との統一に賛同ができない理由は、中国の国家優先の統治体制に組み入れられることは誰もが嫌うからだ。1947年に台湾政府が成立をした時、実態は軍事政権であり、言論の自由などなかった。そこから、多くの民主化運動を経て、多くの人の血を流しながら、現在の自由な社会を手に入れてきた。中国と統一をするということは、時代を逆戻しすることになり、自由のために命を落としてきた先人たちに合わせる顔がなくなると考えている。

中国と統一をする場合でも、高度な自治区など、現在の台湾の社会体制が維持されることが絶対条件だと考えている人が多い。しかし、香港の現状を見ていると、それが叶えられないことがはっきりとしている。これにより、2018年から「どちらかというと独立」が急上昇をしている。

 

独立できない2つの理由

では、中国と袂を分かつことができるかというと、それも難しい。ひとつは経済問題だ。中国市場に進出をしている台湾企業は少なくない。有名なのはカップ麺の康師傅、豆漿の永和大王、スナック菓子の旺旺、メガネの宝島メガネ、電子機器製造の富士康(フォクスコン)など、大陸の中国人たちが中国企業だとすら思い込んでいる台湾ブランドがたくさんある。独立を強行すれば、このような中国でのビジネスを失うことになる。

もうひとつ大きいのが、儒教的な考え方に基づく、自分たちのルーツの問題だ。台湾には、福建省などの中国から移住をした人たちが多く、儒教の考え方では、先祖の霊を祀ることが何よりも重要だとされる。そのため、台湾人でも、中国にある先祖の墓参りをしたいと考える人は多く、歳を取ったら中国に移住して墓を守りたいと考える人もいる。中国と袂を分かってしまうと、それができなくなる。

これは心の問題であり、日本人でも故郷に実家があることが心の拠り所となっている人は多い。都会に生活基盤を築いても、どこか漂泊しているような虚しさを感じることがある。それと同じで、中国の社会体制がどんなものであれ、中国とのつながりを完全に断ち切ることはできないという感情がある。

 

それでも備えは進める台湾

現状維持を望む人が多い台湾だが、台湾有事をまったく考えていないわけではない。台北市政府は2023年7月に市民に対し、「台北市全民国防応変パンフレット」を配布した。そこでは、人民解放軍という言葉は使われていないものの、敵軍が空襲をした場合にどう避難をすべきかが分かりやすくまとめられている。

しかし、ある市民からの指摘で、敵軍の軍服を紹介した図版が誤っていることが発覚をし、訂正版を配布する事態となった。人民解放軍の古いタイプの制服に基づいた図版を載せてしまったのだ。切迫感に欠ける話だが、ここに「現実的だとは思えなくても備えはしておく」という台湾人の考え方が見える。

台湾人の考え方は「現状維持」。ただし、台湾有事のリスクが0でない限り、可能な対応はしておくというのが台湾の考え方だ。周囲が「台湾有事」と騒ぎ立てるのは、当の台湾人にとっては「現状維持」が難しくなる困った状況なのかもしれない。

▲台湾有事に備えて、台北市では敵軍が攻めてきた時にどう行動すればいいかをまとめたパンフレットを配布している。「中国」「人民解放軍」という言葉は使われていないものの、敵軍が攻めてきた時にどう行動すべきかがわかりやすくまとめられている。

▲パンフレットには敵軍(人民解放軍)を識別するために、制服などのイラストが掲載されていたが、市民の指摘により、古いタイプの制服が掲載されていたことが発覚をした。現在では訂正版が配布されている。