中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

人型ロボットが自動車工場で働く。品質管理AIを内蔵し、人の代わりに検査を行う

UBTECHの人型ロボット「Walker S」が、NIOのNEV生産工場で研修を始めた。中国だけでなく、米国でも人型ロボットを生産工場に導入する例が増え始めてきた。工場では、人とロボットが協働して働く時代が始まろうとしていると毎日経済新聞が報じた。

 

自動車工場で働き始めた人型ロボット

優必選(UBTECH、https://research.ubtrobot.com/)の人型ロボット「Walker S」が、深圳市にある蔚来汽車(NIO)の新エネルギー車(NEV)の生産工場で研修に入った。Walker Sは、UBTECHが開発した産業用人型ロボット。人型であるため、既存の製造ラインに入って、人の代替をすることができる。UBTECHは、開発時から複数のNEV生産企業と接触をしており、自動車の生産工場に導入することを目指している。

▲Walker Sは、車のエンブレムを取り付ける作業も行なった。

 

品質管理システムを内蔵した人型ロボット

Walker Sは、NIOの生産工場で、ドアロックの品質検査、シートベルトの検査、ヘッドライトカバーの品質検査を行なっており、さらには車のロゴを車体に貼る作業もこなした。

Walker Sには、AIによる品質管理システムが搭載されていて、車のドアロックの映像を収集して、品質問題を確認し、工場の品質検査システムにOK/NGの信号を返す。

シートベルトの品質検査では、手を車内に入れ、シートベルトを下げる動作を行い、シートベルト機構に問題がないことを確認する。

▲シートベルトの品質検査では、手でシートベルトを引き出して、その映像から品質検査を行う。

▲ドアロックの品質検査では、ドアロックの映像を撮影し、それをAIで解析して、不具合がないという信号をシステムに返す。

▲工場内で移動するWalker S。移動できるため、生産ラインの状況に柔軟に対応できる。

 

日本では下火になった人型ロボット開発

UBTECHは、さまざまな産業応用可能なロボットを開発している。最も広く知られているのは、配膳ロボットで、飲食店などで、人などを避けながら、注文したテーブルまで食事を運ぶ。

人型ロボットの開発に関しては、2010年ぐらいまでは日本で盛んに試みられたが、その後、下火になってしまった。その後、2015年頃から中国の大学や企業で盛んに開発が進められるようになり、UBTECHもそのような企業のひとつで、2023年12月には香港に上場を果たすほどまで成長をした。

UBTECHでは、工業生産、商業サービス、ホームコンパニオンの3つの分野で、人型ロボットが使われるシナリオを想定して、人類を反復で退屈な労働から解放することをミッションとしている。これはテスラのイーロン・マスクCEOの考え方とも一致をする。マスクCEOは、人間とロボットの比率は2:1が適切で、最終的には100億台から200億台の人型ロボットが、さまざまな分野で、人間の代わりをすることになると予測をしている。

▲日本でもすでにおなじみになっている配膳ロボット。UBTECHの配膳ロボットでは日本の飲食店でも働いている。

▲UBTECHの案内ロボット。人や障害物を避けて移動し、話しかけると音声で施設内のガイドをしてくれる。

▲人型ロボットの特許件数の取得時期の分布。左から「ホンダ」「ソニー」「サムスン」「トヨタ」「セイコーエプソン」「ソフトバンク」。右から2つ目の優必選(UBTECH)は2015年以降、大量の特許を取得している。

 

米国でもロボットが工場で働く

自動車生産工場で、“研修”を始めた人型ロボットはWalker Sが最初ではない。米国のスタートアップ「Figure」(https://www.figure.ai/)が、米サウスカロライナ州BMW工場で1月早く研修を始めている。テスラが開発している人型ロボット「Optimus」も、テスラの自動車生産工場で稼働することを目的としている。

2010年までの人型ロボットはメカニカル技術が基本になったものだったが、現在の人型ロボットはAIを実装するのが当たり前で、高度な判断ができるようになっている。これからの工場は、単純作業は産業用ロボット、高度な作業、危険性を伴う作業は人型ロボット、繊細さを必要とする超高度な作業は人間ということになっていきそうだ。