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納期は半分、業務効率は4倍。アリババの未来工場「犀牛智造」が変える服飾製造業

アリババの未来工場「犀牛智造」が服飾製造業を変えつつある。原材料の管理、工程の多くが自動化され、EC淘宝網などの売上データから売れ筋商品を予測し、多品種を従来の半分程度の期間で製造ができる。犀牛智造に生産委託をするアパレル企業はすでに200社を超えたと正解局が報じた。

 

深刻な問題となっている「若者のものづくり離れ」

3月5日、全国人民代表大会での小康集団の張興海会長の発言がネットで大きな話題となっている。それは「若者をデリバリーでなく、工場に向かわせるべきだ」というものだ。

現代の若者は、フードデリバリー、宅配やEC関連の仕事を好むようになっている。デリバリーは働く時間を自分で決めることができる自由さがあり、ECはうまくすれば大きく稼げるチャンスがあるからだ。

しかし、それにより、製造業が深刻な人手不足になっている。2020年、中国の製造業の人手不足は2200万人に達し、この5年間、毎年平均で150万人が製造業から去っている。一方で、宅配だけでも1000万人の人が働いている。この問題を放置すると、中国の製造業にとって深刻な問題になるという指摘だ。

▲アリババの子会社「犀牛智造」。社員たちの直訴で未来工場プロジェクトが始まった。

 

二重苦に苦しむ服飾製造業

改革開放政策により中国が躍進をできたのは、膨大な農村人口が都市に出てきて、工員となり製造業を支えたからだ。これが中国を世界の工場に押し上げることになった。

特に深刻なのは服飾製造業だ。服飾製造業は、人手不足に加えて、在庫問題を抱えている。服飾の流行の移り変わりは早く、ファストファッションやリアルタイムファッションと呼ばれるメーカーも登場する中で、売れなくなってしまう商品も大量に生まれている。この10年で、業界全体の在庫量は8倍に増え、毎年9000億元分の商品が死蔵在庫になっている。

 

アリババ社員発の未来工場プロジェクト「犀牛智造」

このような問題を解決するために、アリババは2017年からスマートファクトリー「犀牛智造」(シーニウ、https://www.xiniuim.com/home)の開発を進めている。このプロジェクトは、アリババの社員たちから張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)CEOに対する直訴から始まった。このままでは、中国のものづくりが終わってしまう。「未来の工場をつくる必要がある」というものだった。

このプロジェクトは、国務院が発表した「インターネットと先進製造業による工業インターネットの発展を深化させることについての指導意見」にも背中を押され、すぐに杭州市で建設が始まり、2018年3月にはソフトウェアの開発が始まった。

杭州市のスマート工場「犀牛智造」。無人工場ではなく、人とAI、ロボットが協調をする工場。管理工程が自動化されるため、多品種生産に効率的に対応できる。

 

自動化工場で少量多品種生産の効率を上げる

中国で4着の服をつくると、1着はアリババが売ると言われるほど、アリババの「淘宝網」(タオバオ)、「天猫」(Tmall)の販売力は強い。この膨大な消費データを活用して、販売予測を提供し、何をどれだけ作ればいいかをスマートファクトリーに指示を出す。少量多品種生産が効率的に行えるようになる。

一方、扱う生地にはすべてIDが割り振られ、生産する商品に合わせて、裁断から縫製までの多くの工程が自動化されている。作業効率は一般的な服飾工場の4倍以上になるという。

また、これにより、受注数の下限が一般的な工場では1000件であるものが100件程度に引き下げることができ、納期も15日から7日間に短縮ができる。つまり、売れる商品を短期間で少量生産することができる。

▲服飾製造の多くが自動化をされる。布地などにはすべてIDが割り振られ、指示をするだけで、適切な布地が使われる。

 

犀牛智造で成功した「バナナイン」

最初に犀牛智造を利用して、成功したブランドは「蕉内」(バナナイン、https://www.bananain.com)だ。2020年から、犀牛智造の工場を利用し、カジュアルウェア、レギンス、Tシャツ、さらには紫外線カットジャケットや防蚊パンツなど特殊素材、特殊加工が必要な衣類までを製造してきた。

1年後、蕉内の販売額は3倍以上になり、Tmallの下着販売ランキングで2位となり、カジュアルウェアブランドの人気ランキングでは、以前は100位以下だったが現在は7位となっている。

▲原材料管理もほぼ自動化されている。

 

納期は標準の半分、柔軟な生産計画に対応できる

犀牛智造はすでに多くの中小メーカーに納入されているが、すでに多くの成功事例が生まれ、システムの納入だけでなく、ノウハウの納入もできるようになりつつある。

その中でも大きかったのが、大手服飾メーカー「魯泰紡績」(ルータイテキスタイル、http://www.lttc.com.cn)が採用したことだった。

2020年11月に、犀牛智造の稼働が始まり、1年経った時点で、ルータイのこの導入プロジェクトの責任者、司偉炯氏はこう紹介している。「すでにヨガウェア、Tシャツ、パーカー、日除け着など10数種類の製品を生産しました。平均納期は7日から10日で、弊社の標準的な納期の半分ほどになりました。ルータイがどのような方向を目指すのであっても、このような柔軟性の高い生産ラインがあるということは大きな力になります。生産のデジタル化スマート化は歴史の突破点になると感じています」。

 

スマート工場で再びものづくり中国を目指す

現在、犀牛智造は浙江省杭州、海寧、安徽省の宿州の3カ所の産業パーク内に、8つの工場が稼働をしている。衣類の70%の品目は製造可能で、アパレルブランドの委託製造を行なっている。契約企業は中小アパレルを中心に200社を超えた。

2020年9月には、世界経済フォーラムの「灯台工場」(模範工場)に選ばれ、工信部のデジタルプラットフォームイノベーション応用事例のひとつにも選ばれている。

人手不足と不良在庫という服飾製造業が抱える問題を解決し、服飾の世界で、再び中国を「世界の工場」にする原動力となるかもしれないと期待されている。