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TikTokは米国で配信禁止になってしまうのか?米国公聴会で問題にされた3つのこと

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今回は、TikTokの売却問題についてご紹介します。

 

3月13日に、米国下院で「The Protecting Americans from Foreign Adversary Controlled Applications Act」(PAFACA、敵対勢力に制御されたアプリケーションからアメリカ市民を守る法律)が可決されました。上院でも可決されると、TikTokは非常に厳しい立場に追い込まれることになります。180日以内に、米国企業に売却をし、運営を完全に手放すか、それができない場合は、TikTokの米国での配信、運営そのものが禁止をされます。

TikTokの何が問題なのか。多くの日本のメディアは、中国政府への個人情報流出の問題を挙げています。昨年から、バイデン政権が、TikTokが収集した米国市民の個人情報が中国政府に渡っているのではないかという懸念から、連邦政府の機関での公用端末にTikTokをインストールすることを禁止しているからです。

もちろん、個人情報が中国政府に渡っているのではないかという疑念も問題のひとつです。しかし、PAFACAの立法趣旨は、TikTokは中国政府に有利な情報を拡散し、不利な情報を検閲することで、中国政府のプロパガンダツールになっている可能性があるのではないか。あるいはフェイク情報を拡散して米国社会を混乱させるツールになる可能性があるのではないか。だから米国企業が運営をするか、さもなくば配信停止にすべきだというものです。

議員の中で、中国政府がTikTokを通じて米国市民に対してプロパガンダ活動を今現在行なっていると考える人は少数派でしょう。しかし、中国政府がそれをやろうと思えばできてしまう構造になっていることを問題にしています。

上院でどのような結論が出るかはわかりませんが、報道によると、若い世代から「Keep TikTok」(TikTokをキープしよう)という運動が起こり始め、多くの議員が若者票を失うことを恐れて反対に回り、成立しないのではないかとも言われています。

 

みなさんは、このPAFACAという法律をどうお感じになるでしょうか。「たかが面白映像の共有アプリにおおげさすぎ」と感じる方もいるでしょう。しかし、いざという時にプロパガンダツールになりかねないものを放置していくことはよろしくないと考える方もいらっしゃるかと思います。この論点は日本も考えなければならない問題です。

日本は、すでに後者の「海外勢力のプロパガンダ活動は認めない」決断をしています。というのは新聞、テレビ、ラジオには外資の参入規制があるからです。テレビ、ラジオの場合、放送法により、外国人の持ち株比率は20%以下に制限されています。これは外国人がメディアの大株主となった場合、その国のプロパガンダを放送し、日本人の選択を歪ませることが可能になるからです。

つまり、保守的な米国人の視点からは、マスメディアと同じように、ネットサービスに関しても敵対勢力が関与できない体制をつくる必要があるというもので、そのような考え方が出てくるのはある意味自然なことなのです。

 

もし、このPAFACAが上院も通過し発効されると、TikTokはあらゆる手段を使って、この法案の取り下げ訴訟を起こすことになるでしょう。TikTokの周受資(ショー・チュー)CEOも「あらゆる法的手段を使ってTikTokを守る」とコメントしています。しかし、それが成功しなかった場合、TikTokは米国では配信停止になる可能性が非常に高いと思います。

と言うのは、「米国企業に売却」というのは簡単な話ではないからです。TikTokがすでに株式公開をしているのであれば、受け入れ企業に株式を売却することで米国企業に移管をすることができます。しかし、残念ながらTikTokは未上場なのです。そうなると、親会社の字節跳動(バイトダンス)が保有するTikTok非公開株を売却することになりますが、中国企業であるバイトダンスが、大量の株式を外国人に売却する場合、中国政府の承認を取り付ける必要があります。中国政府が素直に売却に同意するとは思えません。結局、時間切れとなり、配信停止が実行されることになります。

 

すでに、VPN(Virtual Private Network)関連の企業が動き出しています。TikTokが配信停止になると、大量の人がスマートフォン用のVPNアプリを利用することになるからです。VPNは、企業などで、遠隔地にいる従業員も企業内ネットワークを利用できるようにする仕組みです。インターネット回線上に暗号化されたネットワークを仮想的に確立し、あたかも企業内ネットワークのように利用できるようにする技術です。VPNを利用することで、海外にいても、インターネット経由で社内ネットワークに安全にアクセスすることができるようになります。

米国のVPNサービスに加入をし、VPNからインターネットサービスにアクセスをすると、あたかも米国からアクセスしているかのように装うことができます。そのため、地域制限があるようなサービスを利用するために悪用されることがあります。例えば、映像配信「Netflix」は、米国ではジブリ映画を配信していますが、日本では配信していません。そのため、日本からVPNを使って、米国のNetflixに加入をしてジブリ映画を見るという裏技が知られています。ただし、法的にも問題のある行為ですし、サービスとの契約違反にあたります。

TikTokが米国で配信停止になると、米国のティーンエージャーたちは、VPNを使って配信が停止されていないカナダやメキシコからTikTokにアクセスすることになるでしょう。

 

このPAFACAに至るまで、ショー・チューCEOは、米国の公聴会に2回出席しています。1回目は昨年2023年3月23日、下院エネルギー・商業委員会が主催した「TikTok: How Congress Can Safeguard American Data Privacy and Protect Children from Online Harms」(TikTokアメリカ人のデータプライバシーと子どもたちのオンライン被害を、議会はどのように守ることができるか)で、5時間以上に及ぶ長時間のものです。米国の行政が素晴らしいのは、その全記録をビデオとテキストで公開していること(https://energycommerce.house.gov/events/full-committee-hearing-tik-tok-how-congress-can-safeguard-american-data-privacy-and-protect-children-from-online-harms)です。あまりに長時間で、内容は同じ質問が延々繰り返され退屈であるため、ビデオ視聴することはあまりお勧めできませんが、それでも気になる人は細かく検証ができるようになっています。

もうひとつは2024年1月31日に開催された「Big Tech and the Online Child Sexual Exploitation Crisis」(ビッグテックとオンラインでの子どもの性的搾取危機)で、こちらはX、TikTok、Snapchat、Meta、Discordの5人のCEOが出席をしました。こちらもビデオが公開されていますが(https://www.judiciary.senate.gov/committee-activity/hearings/big-tech-and-the-online-child-sexual-exploitation-crisis)、やはり4時間あり、内容は同じ質問の繰り返しで退屈です。

そこで、読者のみなさんの時間を節約するために、代わりに私が視聴をして、重要な部分を抜き出し、まとめました。公聴会では様々な論点の議論が行われていますので、それを整理します。

また、米国のTikTok禁止への動きは4年前のトランプ政権から始まっています。当時からの流れを整理して、TikTokの何が問題にされているのかをご紹介します。今回は、TikTokは米国で何が問題とされているのかについてご紹介します。

 

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