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アップルがiPhoneだけで撮影した新春映画「小蒜頭」。今年で7本目

アップルが今年の春節も恒例の新春映画を公式サイトで公開した。iPhoneだけで撮影したショートフィルムで、今年で7年目になる。映画として楽しまれるだけでなく、多くのクリエイターに勇気を与えていると映像麦客が報じた。

 

アップルが公開した7本目の新春ショート映画「小蒜頭」

アップルは毎年、中国の新年である春節に、10分から15分程度のショートフィルムを公開している。今年は「小蒜頭」(シャオスワントウ、Little Garlic)だった。ハリウッドで「アメージング・スパイダーマン」などを監督したマーク・ウェブが監督を務めた。脚本家、俳優も中国では著名な人を起用するという本格的な映画だ。これが春節の間、アップルの中国公式サイトで無料で視聴することができる。この試みは2018年から毎年行われていて、今年で7本目になる。

▲今年の映画は「小蒜頭」。鼻が丸いことにコンプレクスを感じている少女が、自分を見失い、そして自分を取り戻すまでを描いた物語だ。


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▲アップル公式チャンネルで公開されている「小蒜頭」。言語は中国語、字幕は英語のみ。

 

「自分以外の誰かになりたい」SNS時代のファンタジー

この「小蒜頭」は、鼻が丸いことを気にしている少女の物語だ。一緒に暮らしている祖父は、その少女の鼻を「ニンニクちゃん」と呼んで愛しているが、少女はその鼻のせいで人から好かれないと気にしている。学校でもいじめられたりしているが、それも鼻のせいだと思い、自分ではない誰かになりたいと願うようになる。

その願いがかなってしまった。少女は自分のなりたい人物に変身する能力を身につけてしまうという奇跡が起きた。成人した少女は、イケてる女性に変身をして都会の生活を楽しんでいた。しかし、今度は、本来の自分に戻ることができなくなってしまう。SNSにポジティブな面だけを投稿し、本来の自分を失ってしまうという現代の感覚を題材にしている。

▲祖父と二人で暮らす少女。少女は鼻が丸いことを気にし、自分の容姿にコンプレクスを持っているが、祖父はそれが愛らしいと少女に愛情を注いでいた。

▲大人になった少女に、なりたい自分に変身できる能力を身につけるという奇跡が起きる。少女は都会生活を満喫するようになる。

 

iPhoneだけで撮影された映画

このアップルの新春映画に共通をしているのは、すべてがiPhoneで撮影されているということだ。今年の「小蒜頭」は、3台のiPhone 15 ProMaxが使用された。スタビライザーなどの器具は使うものの、撮影はiPhoneだけであり、編集や特殊効果もiPhoneアプリMacBookで行われる。

中国やハリウッドの著名な映画監督が、スマホ撮影に挑戦するということも、見どころのひとつになっている。

▲撮影はすべてiPhone ProMaxで行われた。

 

変身シーンは役者が場所を入れ替える

そのため、クラシックな撮影トリックも多用される。次のシーンはその典型だ。右側の女性は少女が変身した後のイケてる女性、左側にしゃがんでいるのが主人公の少女だ。変身後の女性が本来の姿に戻るシーンを、特殊効果なしで実現している。

変身後の女性が右手を伸ばして饅頭をつかむ。この饅頭をつかむ手のクローズアップで、少女の手と入れ替えて、カメラアングルの外で、体の位置も入れ替え、元の姿に戻るというシーンを撮影している。

▲人が変身するシーンでは、2人の役者がアングルの外で体を入れ替えるというシンプルなトリックが使われた。

 

監督もiPhoneを持って走る

少女が走るシーンでは、ハリウッドの大監督が、iPhoneを手に持って、一緒に走って撮影をする。iPhoneの手ぶれ補正があるために、これでもじゅうぶん安定した映像が撮影できる。それどころか、走っている感覚を表現するために、手ぶれ補正の度合いを何度も調整して撮影し直したほどだという。

▲少女が疾走するシーンでは、マーク・ウェブ監督がiPhoneを持ち、自分でも走るというやり方で撮影された。

▲用意された3台のiPhone ProMax。この他、撮影を中断させないため、モバイルバッテリーも大量に用意sれた。

▲フォーカスを人から人へ移動させるシーンでは、指でフォーカスを指定するというiPhoneの機能そのものを使って撮影された。

▲ボールにiPhoneをガムテで貼り付けて、従来にない視点での映像づくりに挑戦するマーク・ウェブ監督。

iPhoneは小さく薄いので、どこにでも設置できる。従来にはないアングルのシーンが撮影できる。

 

中国で毎年楽しみにされているアップルの新春映画

このショートフィルムが映画館で上映をするのであれば、プロ用機材にはまだ及ばない点もあるのかもしれない。しかし、iPhoneは非常に小さく、棒の先につければ今までになかったアングルの撮影ができ、ドローンにだって装着することができる。それでいて、ウェブやスマートフォンで見る限りは、画質の問題は感じない。

多くの人は、毎年、感動させてくれたり、共感させてくれるアップルの新春映画を楽しみにしているが、学生やクリエイターたちは、毎年「このシーンはどうやって撮影したのだろうか」と考えながら、楽しむようになっている。なぜなら、同じレベルの作品は、情熱さえあれば、今すぐ自分も撮影できるはずだからだ。アップルは映画をも再定義しようとしている。