新たな自動運転カテゴリー「レベル2+」が注目されている。代表的なのはテスラのFSDと百度のANPだ。そのANPが3.0にアップデートされ、百度が公式映像を公開した。2023年内にも量産が始まると新出行が報じた。
注目を浴びる新カテゴリー、レベル2+
米中のさまざまな企業が、完全自動運転(レベル5)を目指す中で、脚光を浴びてきているのがレベル2+と呼ばれる新しいカテゴリーの自動運転だ。通常のレベル2は人が主体になる運転アシストで、追い越しをしたい、クルージングをしたい、縦列駐車をしたいという時に人が車に命令をして、部分的自動運転を実行する。その運転操作が終わると、操作は人に戻される。
一方、レベル3の自動運転は、一定条件下では、車が主体となって自動運転を行うが、条件から外れる場合には、車の方が人に運転介入を要求する。
レベル2+というカテゴリーは、国際的に認められているものではないが、車が主体となって自動運転を行うが、人が監視をし、自動運転の操作に問題を感じたら、人が主体的に介入をして修正を行う。条件から外れる場合は、車から運転介入を要求するということもある。
テスラはこのカテゴリーの自動運転として、FSD(Full Self-Driving)のβ版を提供している。まだアップデートをしている最中で、目標としているのは完全自動運転だが、まだまだ実現できていない。例えば、側道の一時停止の標識を認識してしまい、本道では停止をする必要がないのに一時停止をしてしまうことがある。このような場合、後続車の迷惑になるため、人がFSDを解除して、手動運転をし、問題が解決されてから再びFSDをオンにするということをしなければならない。
▲テスラのFSDに関しては、βテスターが毎日のように試乗動画を公開している。
L2+は個人所有と親和性がある
L4またはL5の完全自動運転は、百度はすでに600台のロボタクシーを中国各都市に走らせ、乗客を乗せる試験営業を始めている。しかし、完全自動運転の自動車を個人が購入することは考えづらい。価格が高くなることもあるが、所有をする意味がなくなるからだ。完全自動運転車は、社会が保有をし、シェアリングをするスタイルが適している。必要な時にスマホで呼んで、目的地に着いたらリリースをすればいい。準公共交通として活用されることになる。
一方、L2+自動運転は、個人所有の車に搭載が可能になる。つまり、市場性がある。また、アシスト機能を寄せ集めた一般のL2自動運転機能に比べて、L2+自動運転は市場での競争力がある。そのため、百度ではロボタクシーなどのL4自動運転技術の開発で得られたノウハウを活かして、L2+自動運転のANPも同時に開発し、商品化を目指している。
百度のANPが3.0にアップデート
百度(バイドゥ)は、このカテゴリーである自動運転「ANP」(Apollo Navigation Pilot)を提供しており、3.0にアップデートされ、その公道走行試験の映像を公開している。公式映像であるため、優れたシーンだけが集められているとは言うものの、この映像を見ると、ANPがかなり高いレベルに達していることが読み取れる。
1)交通信号を認識する能力
交通信号を認識し、その指示に従った運転ができるのは、自動運転ではあたりまえの機能だが、実は、この機能の実現は簡単ではない。なぜなら、交通信号には一定の基準はあるものの、実際には都市によりさまざまなバリエーションがあるからだ。これを交通信号だと判別する能力が必要になる。
公式ビデオを見て、多くの人が驚いたのが、交差点に置かれた臨時交通信号をきちんと交通信号と認識して、その指示に従ったことだった。
このようなことができるのは、すでに百度のロボタクシー600台が各都市を走りながら、さまざまな情報を収集していることがある。そのバックグラウンドがあるために、ANPはレアな状況にも対応ができるようになっている。
2)迂回をする能力
狭い道路で、なおかつ路肩に駐車車両がいる場合、対面する車が互いに譲り合いながら走行するというのは人間でもよくある光景だ。この実に人間らしい運転操作もANPは実現をしている。
狭い道路で、対向するオート三輪が、左折専用車線に入るため、センターラインを超えて走行してきた。違法な運転であり、危険でもある運転だ。ANPはその動きを予測し、徐行をして、路肩に寄って、譲り合いながら走行を続けた。
3)悪質な運転に対する対応
多くの人が驚いたのが、マナーの悪い運転に対する対応だ。中国では、後ろから追い上げてきて、近距離で前に割り込むように入ってくるという悪い運転マナーがよく見られる。割り込まれる方が意地になって譲らず、接触事故を起こすというのも、中国では典型的な事故のパターンになっている。
しかし、ANPはそのような割り込みに対して、減速をして譲った。ANPはLiDARなどを使わず、画像情報だけで自動運転を実現しているが、360度の画像情報を取得している。これにより、後方から追い上げてくる車を認識し、行動を予測し、危険を回避することができている。
4)ETCを通過する
専門家の多くが驚いたのが、ETCの通過だ。人から見ると、ETCの通過はたいして難しい運転操作には見えないが、自動運転のロジックとしては簡単ではない。なぜなら、ETCレーンと有人料金所レーンを見分け、ETCレーンだと判断したら徐行をし、バーを認識して、それが上がったら加速をする。さらに、その後が難しい。車線のない自由な道路となり、なおかつ、道路幅が狭められていき、最終的に本道の2車線、または3車線に収斂しなければならない。この間、他の車の行動予測をし、自身の経路を計画していかなかなければならない。
よく、「高速道路は自動運転に適している」と言われるが、それはあくまでも本道をクルージングしている部分の話であって、料金所やパーキングは、自動運転にとって難易度が高い。それをANPは実現をしている。
5)高速道路で追い越しをする
高速道路を走行中は、遅い車を自動的に追い越しをする。この時、ANPは大型トラックにフォーカスをする。大型トラックは走行速度が遅いことが多いためだ。
6)長いトンネルを通過できる
長いトンネルも、多くの自動運転にとって難所となる。測位衛星の信号が完全に失われるため、正確な測位ができなくなるからだ。多くのL2自動運転では、地図からトンネル情報を読み込んで、トンネルに入る前に、人に運転介入を求めてくることになる。
しかし、ANPでは、長いトンネルでも自動運転を継続できる。しかも、ビデオの中では工事による車線規制にも対応をしている。
ロボタクシーで情報収集、ANPに還元
もちろん、このビデオは百度が制作をしたもので、優れた部分をアピールすることが目的であるため、ANPに残された課題には触れられていない。そのため、まだまだ解決しなければならない問題も多々あるはずだ。しかし、百度はロボタクシーをすでに走らせ、そこでさまざまな道路環境の情報を日々取得をしている。その結果、一般者向けのANPを開発している。しかも、LiDARというレーザーレーダーを使わずに、画像情報だけでこれだけの自動運転を実現していることは評価をされて然るべきだ。
百度は、今年2023年に、このANPを搭載した自動車の量産を始める予定だ。