北京市で「つながらない権利」に関する裁判が行われ、多くの人の注目を集めている。時間外に業務上の対応をした場合は、残業代を支払うべきだという判決が出た。中国でも「つながらない権利」に対する認識が広がろうとしていると央視網が報じた。
つながらない権利に関する判決
「つながらない権利」に対する認識が世界中で広がっている。つながらない権利とは、時間外や休暇中に電話やメール、メッセージを拒否できる権利のことだ。各企業は、従業員のつながらない権利を認める、時間外には自動応答のメッセージが返信される仕組みを導入する、適切な担当者に自動転送される仕組みを導入するなどの対応を急いでいる。
中国でこの「つながらない権利」に関する裁判が行われ、北京市第三中級人民法廷は、時間外に連絡を受けることは残業にあたり、企業側に残業代として3万元(約60万円)を支払うという内容の判決を下した。
時間外での業務対応は残業にあたる
李さん(仮名)は、2019年にあるソフトウェア開発会社に入社し、プロダクトマネージャーを務めていた。李さんは会社側と不定時勤務の労働契約を結んでいたが、会社側はどのような状況が労働にあたるのかの定義を示さなかった。これが後々、大きな問題になる。
李さんが担当するプロダクトのWeChatグループがあり、そこには李さんの他、従業員、顧客などもメッセージを投稿してくる。そして、問題が大きければ「釘釘」(ディンディン)などのビデオ会議システムで話し合いをすることになっている。李さんはプロダクトマネージャーであるため、勤務時間外でも休日でも、WeChatグループに返信をし、ビデオ会議をしなければならなくなる。
李さんは、これが時間外残業にあたるとして、2019年12月21日から2020年12月11日までに勤務日残業140.6時間、休日残業397.9時間、法定休日残業57.3時間分の残業代を請求する訴訟を起こした。
簡単な返信は残業にはあたらない?
第一審では、「簡単なコミュニケーション」であり、残業にはあたらないとされ、労働契約が不定時勤務であったこともあり、残業とは認められないという判断だった。しかし、納得ができない李さんが上告をしたところ、二審では一転して残業が認められ、残業代の支払いが命じられた。
第二審では、不定時労働勤務であっても、労働者と企業側が勤務時間に関する合意をする必要があり、労働者が同意をしていない時間に業務が発生した場合は残業と認めるべきだとした。また、技術の発展により、労働をする場所がオフィスであるか、それ以外の場所であるかは問題にならないとした。また、ソーシャルメディアによるコミュニケーションは、双方向のメッセージ交換が求められ、さらには会社側から作業指示を受け、指示書の転送、人員の配置、指揮などを行っており、「簡単なコミュニケーション」の範囲を超えており、なおかつ周期性と固定性が認められ、労働にあたるとした。
武漢市でも24時間待機は残業にあたるとの判決
昨2023年10月には、武漢市洪山区法廷は別の訴訟に対し、従業員の残業を認め、残業代5000元を支払う命令を出している。原告は2021年7月から11月まで、業務が終わって帰宅をしても、24時間待機を会社から求められ、問題が発生した場合は対応をしなければならない状態だった。実際には午前2時に、WeChatで業務に関する打ち合わせをしたこともある。
これも「周期性と固定性が認められる」として業務だと判断され、残業代の支払いが命じられた。
つながらない権利の現実と理想のギャップ
しかし、「つながらない権利」を厳密に適用することは現実にそぐわないところがある。責任者の時間外に突発自体が発生した場合は、連絡を取らざるを得ず、責任者も対応をしなければならない。そのため、時間外であってもメッセージを送ることは認め、そのメッセージに対する返信、対応は従業員が自分の裁量で行える(多くの場合は出勤後)ルールを設定する。一方、内容によって従業員がどのような状況であってもすぐに返信、対応をしなければならない場合は時間外残業として認め、規定の残業代を支給するべきだという考え方が広がろうとしている。つまり、会社は、従業員がオフィスにいてもいなくても、拘束をしている時間に対して給与を支払うという考え方だ。
しかし、具体的にどのような状況が労働にあたるのか、労働時間をどう計測するのか、難しい課題がある。中国でも、「つながらない権利」が認知されようとしている。