コロナ禍で緊急避難的に生まれたシェアリング従業員制度が広がり始めている。地方政府が主催をし、プラットフォームを構築、従業員の雇用条件などが不利にならない仕組みの構築が始まっていると観察者網が報じた。
コロナ禍から生まれたシェアリング従業員制度
シェアリング従業員の仕組みが再び広がろうとしている。シェアリング従業員は、従業員が一時、別の企業に出向して働くという仕組み。元々は、2020年のコロナ禍で、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が始めたものだった。
最初の感染拡大は、2020年の春節にあたっていた。ところが、フーマフレッシュでは、例年、春節時期には都市の消費者が故郷に帰ったり、旅行に出かけるため、売上が落ちる。そのため、従業員のシフトを調整して出社するスタッフ数を通常の7割に抑えていた。そこに新型コロナの感染拡大がぶつかり、多くの消費者が旅行を取りやめ、外出も控えるようになったため、いきなりフーマフレッシュに莫大な需要が発生をした。本来は、「注文から30分で配送」だったが、対応することがまったくできず、一部の店舗では翌日配送に切り替えるところも出るほどだった。
一方で、飲食店は休業をしているために、多くのスタッフが自宅待機状態になっている。そこで、北京市のフーマフレッシュ紅蓮店は、休業を決めている飲食チェーン「雲海肴」に独自に打診をし、自宅待機になっている従業員をフーマフレッシュに出勤をさせてほしいというシェアリング従業員制度が始まった。この仕組みは、他の飲食チェーンからも申し出があり、最終的にはホテル、映画館、百貨店、ショッピングモール、レンタカーなど32の企業が参加をし、累計で2500名以上の従業員がシェアリングされた。
うまい仕組みだが、雇用制度面での課題も
これは非常にうまい仕組みだった。フーマフレッシュでは急激な需要に対応ができるようになる。出向させる企業は、コロナ禍による休業を決めていたが、自宅待機であっても従業員に給与を支払わなければならない。それがフーマフレッシュが給料を払ってくれるため、倒産の危機を回避することができる。従業員も自宅待機では給与支給額が少なくなり、リストラの不安もあるが、フーマフレッシュで働ければその不安もなくなる。フーマフレッシュ、参加企業、従業員ともにメリットがあるWinWinWinの仕組みだった。
ただし、雇用のあり方としてはさまざまな問題がある。出向元企業と出向先企業では給与水準や待遇も異なっている。この時は、フーマフレッシュの給与、待遇が適用されたが、あくまでも臨時的な措置だとして、シェアリングをするのは希望者のみで、期間も最大3ヶ月とし、出向元企業の申し出があればすぐに従業員を戻すというルールだった。
雇用の季節変動を吸収する
その後、このシェアリング従業員制度を広げようという動きが生まれた。特に製造業のように季節性の強い業界からの要望が多い。例えば、玩具製造業では掻き入れ時のクリスマスに向けて年の後半は大量の従業員を必要とするが、年の前半は人が余ってしまう。もし、年の前半に従業員を必要としている企業があれば、そこに従業員をシェアリングすることで人件費コストを抑えることができる。従業員は年を通じて需要が高い職場で働けるため、トータルでの報酬は増える。労働人口が減少をしている中国に必要な仕組みだという声が高まっていった。
2022年11月、北京地区のフーマフレッシュでは人手不足の問題から、このシェアリング従業員制度を正式にスタートさせた。また、河北省では、季節性変動の大きい製造業が多いこともあり、河北省が主導してシェアリング従業員プラットフォームを構築し、現在800社が参加するようになっている。このプラットフォームに参加をするには、社会保障などの標準ガイドラインに従う必要があり、従業員はどこの企業に行っても同じ社会保障を継続できるようになっている。さらに、企業秘などの保護についても契約書類を整備し、シェアリングによって企業秘が漏洩しない仕組みを整えた。
派遣労働と変わらないという批判も
しかし、批判もある。最も大きな批判は「派遣労働と変わらないのではないか」というものだ。派遣先の企業は、シェアリング従業員に直接給与を支払うのではなく、派遣元の企業に送金をする。そして、派遣元の企業から従業員に対して給与の支払いをする。つまり、従業員はどこに企業で働いても、所属先の企業から給与の支払いを受けることになる。
この時、派遣元の企業が“非常に小さな”額の管理費を徴収することが認められている。本来は、給与支払いや従業員の健康管理などにかかるコスト分だが、ここで利益を出そうと考える企業が出てきて、建前は製造業だが、実態は人材派遣会社ということにならないのか。つまり、偽装された労働者派遣やアウトソーシングにならないのかと不安視する声がある。
人力資源社会保障部(人社部)では、シェアリング従業員制度によって派遣元企業が利益をあげることを明確に禁止をしているため、派遣会社とは一線を画しているが、“非常に小さな”額の管理費で利益をあげる方法はいくらでもある。
支持をする声もある
一方で、支持をする声もある。電子デバイスのライン工は、とっくに勝手にシェアリング従業員になっているというのだ。電子デバイス製造業では、忙しい時期と暇な時期がある。iPhoneのような大型の新製品の発売時期が迫ると、EMS企業はもちろん、そこに部品を納入する製造業も大忙しとなる。このような繁忙期には、一定のノルマを達成するとボーナスが支給される。しかし、閑散期にはこのようなボーナスは支給されない。そこで、ボーナスが支給される時期をねらって、複数の工場を渡り歩くライン工は少なくない。
しかし、給与面に関しては増えるものの、社会保障などに関しては転職を繰り返すため非常に不利な状況に置かれている。シェアリング従業員制度があれば、このような社会保障面の待遇改善につながるというものだ。
政府が主導をして、社会保障などの標準化ガイドラインを定め、多くの企業がこのガイドラインに従い、シェアリングにより利益を得ようとする偽装企業をプラットフォームから排除する監督を行うことで、企業の人件費を抑えながら、従業員の給与、待遇を改善することが可能になる。
福建省福州市人社局は、1ヶ月以上のシェアリング従業員を行なった派遣元企業には1人あたり500元の補助金を支給する制度を始めた。この補助金を受けるには、政府主導のプラットフォームに参加をし、給与や社会保障がどうなっているかを明確にする必要がある。補助金を支給することで、監督をしようという試みだ。中国で、新しい形の雇用形態が広がろうとしている。