中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

身分証、顔認証を採用し、厳格化されるコンサートチケット転売。それでもなくならない主催者とダフ屋の奇妙な関係

中国文化観光部は、コンサートなどでは身分証、顔認証などで本人確認を行い、チケットの転売を防止するように通知をしている。しかし、そこまでしてもダフ屋はなくならない。主催者とダフ屋の間のもちつもたれつの関係があるからだと界面新聞が報じた。

 

身分証情報の入力が必要なコンサートチケット購入

中国のポップスター「周傑倫」(ジェイ・チョウ)のツアー「カーニバル」が2022年12月から開催されている。シンガポールを皮切りに、マレーシア、オーストラリア、香港と回り、現在は中国大陸の各都市を回っている。このうち、上海ツアーでは、ダフ屋を排除するため、実名でのチケット購入/入場システムが導入された。

チケット販売を担当したのは大麦、猫眼、票星球の3つのプラットフォーム。いずれで購入する場合でも、購入する時に身分証の情報を入力する必要がある。

▲中国で人気にあるポップスター、ジェイ・チョウの全国ツアー「カーニバル」では、身分証と顔認証による入場を行い、チケットの転売を防いでいる。

 

厳しくすれば不便、緩くすれば転売が起きる

しかし、どこまで個人認証を行うかは、来場者の利便性との兼ね合いで難しいものがある。2023年5月に西安市で開催された「好好好想見到你」では、個人認証を厳格化した。チケットの転売、譲渡はできず、入場する時にはチケットと身分証の提示が必要になり、一致をしない場合は入場ができない。その代わり、一致をしないチケットは、その場で返金に応じるという仕組みだった。

9月に天津で開催されたコンサートでは、購入時には身分証の情報を入力する必要があったが、入場する時はチケットだけで入場ができる仕組みだったため、ダフ屋が横行をし問題となった。他人のチケットでも入場ができるからだ。アリーナの2000元のチケットが10万元で転売されるなど、他の購入者からも苦情が寄せられるほどだった。

 

身分証提示と顔認証でダフ屋を排除

昨年2023年9月、文化観光部と公安部は「演出市場の健全と秩序を促進する大型営業の演出活動のガイドライン強化について」という通知を出し、5000人以上の営業イベントでは個人認証を行い、ダフ行為を排除するべきだとした。

そこで、ジェイ・チョウの上海コンサートでは、入場時にも身分証と顔をスキャンして、チケットの持ち主が本人であるかどうかを確認する仕組みが採用された。これで、チケットを購入した本人以外入場することができなくなり、ダフ屋を排除することができるかと思われた。

▲人気のあるイベントのプラチナチケットでは、ダフ屋を徹底排除することができる。しかし、人が入らない一般のイベントではダフ屋もイベントを成立させることに貢献をしているという難しい面がある。

 

ダフ屋の新たな手口は代理購入

しかし、新たな違法サービスが横行をしてしまった。それは代理購入だ。チケット購入希望者から事前に身分証情報を伝えてもらい、チケット販売が開始されると、スクリプトでチケット購入をする。依頼者の身分証情報を入れ、顔情報はクラウドに保存されているため、これで依頼者本人のチケットを購入することができる。依頼者は何の問題もなく、入場できることになる。

上海コンサートでは、スタンドが780元、980元、1280元の席があるが、これを代理購入してもらうための手数料は1600元かかる。1280元の席を確保するには、手数料とチケット代を合わせて、2880元が必要になる計算だ。最も高いアリーナの2380元のチケットを代理購入してもらうためには、2700元の手数料が必要になる。

 

主催者とダフ屋のもちつもたれつの関係

ジェイ・チョウのように集客力の高いアーティストの場合は、ダフ屋を排除する手立てを厳格にしていくことができる。しかし、主催者側にもダフ屋を排除できない理由がある。文化観光部と公安部の通知では「席数の85%のチケットを公開販売しなければならない」というガイドラインが定められている。残りの15%は、内部チケットとして関係者に販売をされたり、贈呈されることになる。この内部チケットがダフ屋のターゲットになっている。

多くの場合は、招待チケットをもらった人が、コンサートには興味がなく、小遣いを稼ぐためにダフ屋に転売をしてしまうが、人気のないコンサートでは、売上をあげるために、関係者には配布せずに、最初からダフ屋に販売をしてしまうことがある。また、客入りが悪いコンサートでは、一般席のチケットであっても、ダフ屋に転売をしてしまい、ソールドアウトの告知を出し、消費者を刺激してから追加販売を行うという手法も使われている。

つまり、ジェイ・チョウのようなプラチナチケットの世界では、ダフ屋は、ファンのジャマばかりをする悪質な犯罪者だが、ごく一般的なコンサートではダフ屋はコンサートを成立させることに貢献もしていることになる。

SNSでは「主催者とダフ屋が結託をして実質的なチケット価格を釣り上げている」と非難する人もいるが、結託をしているというよりも、主催者とダフ屋はあうんの呼吸で呼応をしてチケットをさばいているのだ。そのため、主催者はダフ屋に対して強力な手段を取ることができない。ダフ屋を絶滅させてしまえば、自分が困ることになるからだ。

この主催者とダフ屋の奇妙な関係が、ダフ屋排除を難しくしている。