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中国のGDP統計は信頼できるのか。日本とは異なる中国GDP統計の仕組み

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今回は、中国のGDP統計の信頼性についてご紹介します。

 

このメルマガの読者の方々は、中国ビジネスに関われているか、個人的に興味を持たれているなど、なんらかの形で中国に関わりがある方が中心だと思います。そういうみなさんですから「中国のGDP統計は水増しがひどくて信用ができない」という話は、いつも頭のどこかに引っかかっていると思います。

その水増しが、根拠のない中傷であるなら無視をすればいいのですが、きちんとした経済学者などの専門家が、エビデンスを元に指摘をしている例もたくさんあります。しかし、よく考えれば当然のことですが、そのような研究に対して検証をした上で反論をする研究者もいます。アカデミックな世界では、何ごとにも両論あるのがあたりまえのことです。しかし、メディアは、ニュース価値のある片方の見解を大きく報道し、それに対する反論はニュース価値がないので、あまり報道をしません。

例えば、シカゴ大学の経済学者、ルイス・マルティネス氏による研究などは、最近のメディアのお気に入りになっています。マルティネス氏は、米国海洋大気庁が運用している気象衛星の夜間写真から、各国の夜間照明の明るさを数値化して、それを公開されているGDPと比較をするという研究を行いました。その結果、非民主的国家では夜間照明の明るさとGDPに大きな乖離があるということわかったというものです。つまり、中国のような非民主的な国家はGDPが経済実態を表していない=改竄が行われているのではないかという疑いがあるわけです。しかも、この研究の結果では、日本のGDPは過小評価されている、つまりもっとGDPが高くてもおかしくないはずという結果になっていますので、「中国のGDPは水増し、日本のGDPはもっと高くておかしくない」ということになり、一部の方にとっては自尊心をくすぐられるため、記事としての価値が生まれ、さまざまなメディアで報道をされています。

 

https://www.epochtimes.jp/2022/11/123245.html

▲「中国、GDP3割水増しか。米シカゴ大学の最新研究が指摘」(大紀元)など、マルティネス氏の研究はさまざまなメディアで報道されている。

 

しかし、素人の私にもこの研究(というよりメディアの取り上げ方)に疑問を感じます。そもそもGDPと夜間照明の明るさは、相関すると言えるのでしょうか。マルティネス氏の研究は、まさに「夜間照明の明るさとGDPに相関があるのか」を研究テーマにしています。相関があるかどうかを調べるための研究ですが、メディアでは相関がある前提になっていて、中国のGDP統計はおかしいという結論だけを強調しています。

この問題については後ほど触れますが、重要なのは、中国のGDPと日本のGDPが同じものだと思ってはいけないということです。その歴史も違いますし、データの取り方も違いますし、構造も違っています。それなのに、私たちはついつい日本の物差しで中国を判断してしまいがちです。そして、それを中国の欠点、中国のダメなところだと頭ごなしに決めつけてしまいがちです。そのような実例は、みなさんもたくさん見聞きをしていることと思います。

 

GDPを水増しする」と言っても、実際は水増しも簡単ではありません。ごく簡単な思考実験にお付き合いください。あなたは毎月、家族に対して、自分の給与の実額と月ごとの成長率を発表しなければならないとします。水増しするにはどうしたらいいでしょう。

先月の月給は20万円でしたが、今月は21万円になりました。月の成長率は、21/20-1=0.05で、5%成長ということになります。また、これを年率換算すると、(1.05)^12-1=0.796=79.6%ということになります。毎月5%ずつ給料が増えていったら、年間では80%近くも給料が増えることになります。最新の日本の四半期GDPは2023年4-6月期で、前期比1.2%でしたから、年率換算をすると(1.012)^4-1=0.049=4.9%ということになります。

さて、このような数字を、水増ししてよく見せて、家族から誉められたい。どの数字をどのぐらい水増しすればいいでしょうか。今月の給料を22万円だと偽ってみます。すると、成長率は10%に増えます。しかし、問題は来月です。来月は21万円であることが予想されるため、来月の成長率は21/22-1=-4.6%とマイナス成長となり、家族からは冷たい目で見られることになります。つまり、額を水増ししても、どこかでつじつまが合わなくなってしまうのです。

最も賢い方法は、実は水増しするのではなく、低く申告することなのです。今月の給料は21万円でしたが、申告は20.5万円にし、0.5万円はへそくりに入れてしまいます。そして、今月の成長率は20.5/20-1=2.5%だと低く申告をします。これで来月が21万円と変わらなくても、着実な成長をしていると主張をすることが可能になります。

つまり、GDPをよく見せるには、水増しをして実額を高く申告するのではなく、低く申告をして、成長が続いているように見せる方が賢いのです。そのため、中国のGDPが高い時に「水増しをして高く見せている」と批判をするのは簡単ですが、ほんとうにそんなことをやったら、それ以降、つじつま合わせに四苦八苦をする羽目になります。

 

GDPというのは経済指標ですから、他のさまざまな経済指標と相関があります。最もよく知られているのが貿易統計です。しかも、貿易統計は水増しをしてしまう中国政府の統計ではなく、水増しや改竄など間違ってもしない日本政府や米国政府の中国輸出入統計を使うことができます。このような研究、検証は盛んに行なわれていますが、この方面から中国のGDP統計に疑義があるという話は出てきていません。これもあとでご紹介しますが、むしろ中国のGDP統計に問題がないことを示す材料として使われています。

もし、中国政府がGDP統計をよく見せるために、水増しや過少申告をしたら、このような西側統計との整合性があっという間に取れなくなってしまうはずです。

 

一般に、中国のGDP統計に対する疑義には次のようなものがあります。

1)中国の四半期GDPは安定をしていて変動が少ない。日本のGDPはもっと変動をしている。人為的な調整をしているのではないか。

2)各省、直轄市が発表する地域GDPを合算すると、国のGDPと一致しない。

3)中国のGDPは期が終わるとわずか15日で発表され、早すぎる。GDPは複雑な加工統計であり、その作業には数ヶ月かかるのが常識だ。

4)エネルギー消費統計とGDP統計が相関をしない。そんな国は他にない。

5)夜間照明などによる分析から、中国のGDPは高すぎると指摘されている。

6)中国在住のアナリスト、ビジネスパーソンの実感からして、中国のGDPは高すぎることが多い。

 

このような問題をひとつひとつ検証をしていきます。この他にも、さまざまな疑義とそれに対する議論が専門家の間で行なわれていますが、その多くは統計学上の学問的な議論になります。そのような専門領域のことは、私も正確に理解することが難しいですし、みなさんにとってもそこまで知る必要は薄いのではないかと思います。

しかし、先ほども触れましたが、中国のGDPと日本のGDPは名前は同じでも、さまざまな面で違いがあります。その違いを知っておかないと、中国経済を見るときに誤りを犯すことになります。そこで、今回は、統計学の学術的な議論については省略をさせていただき、日中でGDPが異なることに起因する疑義についてご紹介していきます。また、今回の目的は、日本のGDPと中国のGDPのどこに違いがあるかを知っていただくことです。

 

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vol.201:トラフィックプールとは何か。ラッキンコーヒーのマーケティングの核心的な考え方