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バス運転手の異常や疲労をAIで検知。疲労しづらい働き方を模索する北京市のバス

北京市では1158のバス路線があり、年間31億人を輸送している。現在、車両のリアルタイム管理が行われているが、さらに、AIによる運転手の管理が始まっている。異常や疲労などを検知し、運転手の負担を減らすのが目的だと北京交通広播が報じた。

 

年間31億人を運ぶ北京市のバス

中国の首都、北京市は27路線の地下鉄路線があり、総延長727kmにも達する地下鉄都市だが、バスも重要な公共交通になっている。北京市は1つのブロックが大きいため、地下鉄の駅からだと目的地までかなり歩くこともある。その点、バス停は密に設置されているため、歩く距離が短くなることから、市民からは愛用をされている。コロナ禍で減少はしているものの、2019年には1158路線、総延長2万7632kmの路線が設定され、2万3685台のバスが年間31億3366万人の乗客を運んだ。

 

2.3万台のすべてのバスをリアルタイムで管理

この膨大なバスをどのように管理をしているのか。バスの運行を行う北京公交集団は、北京市内の某所に管制センターを設置している。2.3万台すべてのバスに、車載端末が設置をされ、管制センターではすべてのバスの状況がリアルタイムで把握できるようになっている。

この管制センターを運営する北京公交智達科技の研究開発センターの責任者である李峰巍氏は、北京交通広播の取材に応えた。

「車両の運行状況、バッテリー状況、乗客の状況などは、すべて管制センターでリアルタイムで確認ができるようになっています。バスの運行は、システムに従って行われていますが、緊急事態や予期しない状況が発生した場合は、ディスパッチャーが介入をし、手動で正常ダイヤに戻す手順を実施します」。

北京市バスの管制センター。稼働しているバスのすべての情報がリアルタイムで入ってくる。設置されている場所についてはセキュリティ上の問題から非公開になっている。

 

AIにより運転手の異常を検知

管制センターによる管理は、車両だけではなく、運転手にも及ぼうとしている。運転手が持病による発作を起こす、あるいは居眠りをするなどで乗客を危険にさらす事例が起きているからだ。また、運転中に乗客が運転手に話しかける、暴力をふるうといった事件も起きている。このような事例の発生確率は小さいとはいうものの、起きた場合には多くの乗客を危険にさらすことになる。

そこで、北京公交では5250台の車両に運転席の異常を感知する設備、6500台の車両に自動通報設備を設置した。この設備は、映像監視だけではなく、AIにより居眠り、失神、乗客の介入などの異常事態を自動的に検出をし、自動通報をし、緊急停車をするようになっている。

李峰巍氏によると、すべての車両に設置をする予定で、年内にも半数以上の車両に搭載される計画だという。

▲運転席に監視カメラを設置し、運転手の状態を把握する。運転手の失神、乗客の不当な介入、居眠りなどがAIにより検知され、緊急停車をする仕組みになっている。

 

運転手の疲労データを分析して適正配置

この設備は、運転手ごとにデータが蓄積され、運転手の適正評価にも利用される。通報、緊急停止にはならないが、システムは運転手の疲労をも判別することができる。疲労は、単に長時間乗務で生じるわけではなく、個人により疲労が起きやすい路線、時間帯が異なっている。このような分析を行うことで、各運転手を疲労が起きづらい路線、シフトに最適配置をすることが可能になる。それは、乗客の安全を守ることにもなるが、乗務員の業務ストレスを低減することにもつながる。

バスの運転手も人手不足が深刻だが、無人運転はまだまだ条件の整った路線にしか投入できない。運転手の負担を減らすことで、働きやすい職場にし、人員を確保しようとしている。

▲AIによる運転手の状態の管理が始まっている。異常だけでなく、疲労なども把握され、疲労しづらいシフトに配置するなどの改善を行うことが目的だ。