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ファーウェイには定年も年齢制限もない。しかし、淘汰制度がある

ネットで広まるファーウェイの「35歳引退説」を、創業者の任正非が否定した。しかし、同時にファーウェイの研究職や管理職には厳しい淘汰制度も存在することも明らかにした。淘汰制度は、現在の中国の労働法では違法ではないが、近年、問題視もされるようになっている。企業の成長を取るか、雇用の安定をとるか、難しい段階に差し掛かっているとウォール街瞭望が報じた。

 

ネットで広まる「ファーウェイ35歳引退説」

「ファーウェイ35歳引退説」がネットに流れている。34歳、35歳の複数の元ファーウェイ社員が「年齢制限により解雇された」という訴えをSNSなどでしているからだ。このような言動に対して、ファーウェイはこれまで公式には何もコメントしてこなかった。

しかし、創業者の任正非(レン・ジャンフェイ)が、新入社員を前にした訓話の中でこの問題に触れた。

「私たちファーウェイには年齢制限はありません。各人の能力と貢献が、これからのファーウェイの戦略に適合するかどうかだけで判断をします。もし、年齢制限や定年制のようなものがあったら、私が真っ先にリストラされているはずです」。

任正非は、さらにファーウェイは病気退職についても寛容であることを説明した。病気退職をしても、配分された社員株はそのまま保有ができる。医師の証明書などは不要で、上司に申請するだけで可能だという。

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▲ファーウェイ創業者の任正非。35歳引退説を否定した。もしそんなものがあれば自分が真っ先にリストラされていると語った。しかし、ファーウェイの研究職や管理職には厳しい淘汰制度がある。

 

管理職では下位10%が自動的に淘汰される

しかし、ファーウェイはただ寛容であるだけでなく、厳しさも兼ね備えていることを説明した。

ファーウェイの従業員は「一般職」「研究職」「管理職」の3つに分類される。一般職については定年や年齢制限はなく、必要とされるのは経験のみだ。経験があれば、何歳になっても働くことができる。実際、60歳以上(中国国営企業では50歳から60歳が定年)の従業員もたくさんいる。

研究職は、社会変化に迅速に対応をするため、淘汰が行われる。ファーウェイが不要と感じた研究チームは解散させられる。解散となったチームの研究員は、自分のスキルに応じて、他のチームに加入しなければならない。どのチームからも加入を拒否された研究員は失職することになる。

管理職に関しては、成績に応じて、下位10%程度が自動的に解任され、新しい管理職が補充される。企業としての質を維持するためだ。解任された管理職は、一般職、研究職として再雇用をしてもらうか、あるいは辞職をすることになる。

つまり、一般職に関しては寛容だが、研究職と管理職に対しては厳しい仕組みが設けられている。

 

異動は公募制度によって行われる

また、ファーウェイでは、従業員の流動性を高めるため、従業員が主体的に異動をすることができる。各部署が社内公募を出し、それに従業員が応募をし、その秘密は保たれる。移動希望先の責任者が認めれば、異動が成立する。

そのため、上司によるパワハラ、セクハラ問題がまったくないわけではないが、多くの場合、従業員が主体的に異動をすることで解決する。部下が異動ばかりしてしまう管理職は、査定が悪化することで淘汰をされていくことになる。

 

ファーウェイで推奨される「之の字型成長」

ファーウェイで重要視されているのは「之の字型成長」だ。ひとつの部署で経験を積み緩やかに成長し、部署を異動することで新たな能力を開花させ、急速に成長する。そして、再び経験を積みながら緩やかに成長する。急成長だけでなく、緩やかな成長と急成長の両方が必要だと考えられている。

そのために、部署の流動性を高め、研究職と管理職には厳しい淘汰制度が設けられている。このファーウェイの考え方からすれば、ネットで言われる「35歳引退説」は、まったく意味のない愚かな施策になる。

 

中国で問題になり始めた「淘汰制度」

このような淘汰制度は、テック企業の多くが採用をしている。業務の質を高めるには有効な手法だが、一方で、個人の人格を尊重しないことになり、何より残酷な面がある。

現在の中国の法律では、従業員と企業の間の雇用契約の中で、淘汰制度が定められていて、双方が合意をして雇用をされているのであれば違法ではない。しかし、近年、「35歳引退説」や「996問題」(朝9時から夜9時まで週6日働く超過労働問題)が話題になるにつれ、専門家の間でも「淘汰制度」の是非を問う声が上がり、労働法で禁じるべきではないかという声もあがっている。

一方で、淘汰制度を廃止したところで、企業は別の理由で成績不良者を解雇するだけで効果は薄い。やりすぎると、中国企業の成長力を奪ってしまうと反対の声もある。

成長一辺倒で進んできた中国テック企業も、成熟の段階に進んでいる。今までのようにしゃにむに働くことで成長を確保するのか、あるいは別の成長の道を見つけることになるのか、分岐点に差し掛かっている。