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原神で遊ぶと死刑になる?中国で流れた北朝鮮に関するフェイクニュース。意外に進んでいる北朝鮮のゲーム事情

中国で北朝鮮に関するフェイクニュースが広まった。それは、北朝鮮スマホゲーム「原神」を遊ぶと死刑になる可能性があるというものだ。一方で、脱北者などの証言から、北朝鮮では意外にゲームが広く遊ばれていることがわかったとTapTap発現好遊戯が報じた。

 

中国で広まった北朝鮮と原神に関するフェイクニュース

中国のネット掲示板百度貼吧」などで、北朝鮮に関する2つのフェイク情報が流された。

ひとつは、中国のスマートフォンゲーム「原神」が、北朝鮮でも正式に遊べるようになったというものだ。ご丁寧にネット記事らしき画像もつけられ、それによると「朝新社の4月11日の報道によると、朝鮮国家文化委員会は、北朝鮮外資企業を参入させる計画の中で、中国製のゲーム「原神」を参入させるゲームのひとつに加えた。北朝鮮の高官筋によると、原神が米帝主義による文化覇権を打破することに寄与するという点が高く評価されたという」という解説までついている。中国のメディアが報道をした立て付けになっているが、このような報道をした中国メディアは存在しないことから、面白半分のフェイク画像であることが判明をしている。

もうひとつは、「北朝鮮の報道によると、原神を遊んだ者は死刑になる可能性がある」というもの。「朝中社の最新の資料によると、中国の二次元ゲーム「原神」には、大量の性的内容や肌の露出があり、北朝鮮の関係法令に抵触している。現在、北朝鮮政府はこのゲームに対して厳格な監督を行なっている」と内容だ。これも中国メディアが報じたかのような画像が拡散をしているが、そのような報道は存在しない。

 

北朝鮮で有名なゲーム「平壌レーサー」

このような矛盾する2つのフェイク情報が流され、それが一定程度拡散をしてしまうのは、北朝鮮でのゲーム事情がまったくわからないということが大きい。いったい北朝鮮の若者たちはゲームを楽しんでいるのか、またスマホは使っているのか。それすらも実態はよくわからない。

北朝鮮で最も有名なゲームは「平壌レーサー」だ。2012年に、金策工業総合大学とソフトウェア開発企業「ノソテック」により開発されたAdobe Flashを利用したウェブゲームだ。平壌の街並みが再現されており、金日成広場をスタートして平壌の街をタイムレースで走るというもので、タイムは記録をされ、順位も表示される。また、街中に落ちているガソリンを拾って燃料補給をしなければならない。

▲伝説となっている平壌レーサー。ウェブで遊べるFlashゲーム。


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平壌レーサーのプレイ画面。金日成広場をスタートして、ガソリンを拾いがながらタイムを競い合う。

 

90年代にはゲームセンターもオープン

この「平壌レーサー」がどのように楽しまれていたのかはよくわからないが、海外では北朝鮮のゲーム技術の遅れぶりを嘲笑する際によく引き合いに出される。しかし、北朝鮮でも海外と同じようにゲームは輸入されている。

1980年代、平壌のホテルには日本のタイトーが開発した「スペースインベンダー」が置かれていた。外国人しか遊べないことになっていたため、外国人向けのサービスのひとつだった。しかし、北朝鮮政府は、ビデオゲームの背後にコンピューター技術があることに着目をし、朝鮮コンピューターセンター、平壌情報センターなどを設立し、1991年には平壌市の万景台区に北朝鮮初のゲームセンターがオープンをした。

人気となったのは、ナムコが開発をした「サブマリン」で、次第に百貨店やレストランの一角にもアーケードゲームが設置されるようになっていった。その多くは、日本在住の北朝鮮系ビジネスマンが買い付けて、北朝鮮に送ったものだという。

▲ルンナ人民公園の中にあるゲームセンター。労働新聞が報じたもの。写真を見る限り、かなりの規模のゲームセンターになっている。

 

アリラン祭ではゲームもマスゲームの素材に

2008年には、フランスの写真家エリック・ラフォルグが、北朝鮮に2週間滞在し、ビデオゲームに興じる子どもたちの写真を撮影している。平壌市の遊園地「凱旋青年公園」の中にあるゲームセンターで、ナムコの「ファイナルラップ2」を楽しむ子どもたちの写真が有名となった。子どもたちの合宿所である「松涛園」で、1994年に台湾で製造された非公認ファミコン互換機「創造者」で遊ぶ子どもたちの姿も撮影されている。

メーデーに開催されるアリラン祭では、マスゲームビデオゲームが描かれたこともある。一見、コンピューターを操作する子どもに見えるが、画面の内容は明らかに落ちものパズルゲームだ。

平壌市の遊園地「凱旋青年公園」の中にゲームセンターが設置されている。ナムコの「ファイナルラップ2」を楽しむ子どもたち。

▲子どもたちの合宿施設「松涛園」で、台湾で製造された非公認ファミコン互換機「創造者」で遊ぶ子どもたちの姿も撮影されている。

メーデーに開催されるアリラン祭のマスゲームでは、コンピューターを使う子どもたちが描かれたが、その画面は明らかに落ちもの系ゲームだったことが話題になった。

 

意外に広くゲームが楽しまれている北朝鮮

北朝鮮は、韓国や西側諸国の映画、音楽、書籍などは厳しく統制をするものの、ゲームに関しては意外に寛容で、誰でも自由に遊べるという環境ではないにしても、都市の子供たちはある程度触れることはできているようだ。当然ながら、そのような恵まれた子どもたちは、都市の高官などの子息が中心であると思われていた。

しかし、2018年にデイリーNKは、衝撃的なインタビューを掲載した。14歳の脱北者チョン・ヒョミンのインタビューの中で、彼はこう答えたのだ。「北朝鮮にいた時に有名なビデオゲームはだいたい遊んだことがある。グランドセフトオートV(GTA5)、FIFAサッカーゲーム)などだ。友人たちはだいたい海外のゲームで遊んでいる」。つまり、脱北をしなければならないような境遇の子どもたちでも海外ゲームを楽しむ環境が手に入る状態になっている。

また、別の脱北者によると、街中にはネットカフェがあり、電力不足になると禁止令が出たり、利用価格は非常に高価であり、海外のウェブへのアクセスは禁止されているなどの制限はあるものの、そこでゲームを楽しむことができ、「エイジオブエンパイア」「カウンターストライク」「DOTA」の3つが人気だったと証言している。

さらに、北朝鮮政府の機関紙「労働新聞」には、平壌のルンナ人民公園にゲームセンターが設立されていることが報じられている。金正恩書記長がこのゲームセンターを視察して、ソフトドリンクスタンドを置く必要があること、ゲーム機の配置を変えることなどを指摘していったという。

平壌市内にあるゲームショップ。ゲームのアプリストアはなく、このような店舗で購入し、直接スマホにインストールしてもらう。

 

韓国の風船作戦がゲーム普及に貢献

しかし、庶民はインターネットの海外アクセスが禁止されている北朝鮮で、彼らはどうやってゲームソフトを手に入れているのだろうか。

韓国は2004年から風船作戦を行なっている。累計200万個以上の風船を38度線から空にあげ、北朝鮮領内に侵入をさせている。風船には、韓国の暮らしぶりがわかるように音楽や写真などがつけられれている。この中にUSBメモリも含まれており、北朝鮮のデジタル少年の間では、このUSBメモリがお宝となった。海外から持ち込まれたゲームのコピーは、水面下でUSBメモリにコピーされ、デジタル少年の間でゲームソフトが広まっていったのだ。

 

アプリは店舗で購入する

北朝鮮でも2017年頃から北朝鮮スマートフォンの普及が始まっている。西側のようなオンラインのアプリストアはないものの、平壌市の中にはオフラインのアプリストアが複数存在している。ここでアプリを購入し、自分のスマホにインストールをしてもらうことができる。

さらに、ヒット商品となったスマホアリラン151」は、多数のゲームがプリインストールされていることがウリで、デモ映像からはマリオギャラクシーなどが遊べることがうかがえる。

平壌市内のスマホショップ。たくさん並べてあるが、よく見ると5機種ほどであることがわかる。


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▲人気のスマホアリラン151」の紹介ビデオ。複数のゲームがプリインストールされている。

 

北朝鮮で広く普及したスマートフォンアリラン151」には複数のゲームがプリインストールされていた。

 

国境近くで、韓国のWi-Fiを使ってインストール

2019年に発売されたハイエンド機「平壌2425」は、Android8.1搭載、MediaTek MT6771(8コア、2.0GHz)、メモリ4G、ストレージ32Gというもので、現在のエントリーモデルレベルだが、原神を遊ぶことはできなくはない。38度線近くまで南下をすれば、韓国側のWiFi電波をキャッチすることも可能で、そこで原神などの海外スマホゲームをインストールすることができる。確認はされていないが、北朝鮮にも原神を遊んだことがある人はいてもおかしくない。