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絶好調だったスマホケースメーカーも試練の時。スマホ市場の低迷が波及

スマホをつくるより、スマホケースをつくった方が儲かるとまで言われ、絶好調だったスマホケースメーカー。それが2022年に入ってスマホそのものが売れなくなり、存続の危機を迎えていると媒体が報じた。

 

2022年に入り、スマホ出荷が失速

スマートフォンの出荷台数が、2022年に入って低迷をしている。グローバルでもQ1で前年比11%、Q2で9%下落している。中国はより深刻で、中国信息通信研究院の発表によると、2022年の上半期(1月から6月)までの出荷台数は1.36億台となり、前年同時期から21.7%の下落となった。

このような状況により、各スマホメーカーも生産調整を始めている。サムスンは2022年の生産量を3000万台減らすことを決定し、3.1億台の生産予定を2.8億台に引き下げた。アップルもQ2に増産をする計画だったが、その増産計画を取りやめた。中国メーカー各社もだいたい2割程度、生産計画を引き下げている。

▲調査会社Canalysのスマホ出荷統計。2022年に入って、前年割れが続いている。中国市場はより深刻で、上半期は21.7%の減少となった。

https://www.canalys.com/newsroom/worldwide-smartphone-market-Q2-2022

 

深刻な影響を受けているスマホケースメーカー

スマートフォンの売れ行きが渋くなると、それに関連する業種も直接の影響を受けることになる。最も影響を受けているのは、スマホケース産業だ。2020年、スマホケース製造業の傑美特科技(ジエメイター、JAME)は、この業界で始めて、2020年に深圳証券取引所に上場をした。上場時の株価は94元であったものが、現在は17元程度まで下落をしている。

▲百花繚乱のスマホケース。中国ではスマホをつくるより、スマホケースをつくった方が儲かるとまで言われるほど需要が高かった。

 

スマホをつくるより、スマホケースをつくった方が儲かる?

錘子科技(スマーティザン)の創業者であり、網紅としても人気の高い羅永浩はかつてこう語ったことがある。「スマホを製造販売するよりも、スマホケースを製造販売した方が儲かる」。実際、年間の出荷量300万個程度の典型的なスマホケースメーカーでは利益率が20%から30%にもなる。さらに近年ではDIYキットにして消費者がオリジナルのスマホケースをつくれるようにしているものも多く、これになると利益率は70%から80%にもなる。一方、スマホメーカーの利益率は厳しい競争により年々低下をしていて、羅永浩の言葉はまったくの冗談とも言えなくなってきている。

しかも、スマホケースを頻繁に変えることも一部の若者の間で流行をした。ある95后(95年以降生まれ、20代)は、毎週のようにスマホケースを変える。スマホケースはミルクティーと同じ程度の価格であり、気軽に買ってしまい、気分を変えることで楽しんでいるのだという。

調査機関NPDによると、スマホユーザーの75%以上の人がスマホケースを使い、25%の人は複数のスマホケースを所有している。これにより、無数のスマホケースメーカーが登場した。

 

総崩れとなった受託製造のスマホケースメーカー

しかし、元となるスマホの販売が不調になると、スマホケースの販売も影響を避けられない。

傑美特は、創業以来順調に業績を伸ばしてきたが、次第にODM/OEMの割合が上がっていった。ODM/OEM割合は2018年には71.2%にも達している。

その最大顧客となっているのが華為(ホワウェイ、ファーウェイ)だ。ファーウェイは自社ブランドで販売するスマホケースを、2014年から傑美特に製造委託をしている。その割合は、当初は、傑美特の全売上の8.2%だった。しかし翌年は20.15%となり、2019年には45.57%にもなった。しかし、そこで米国による制裁が始まり、ファーウェイは5Gスマホの製造が困難となり、販売数が激減をした。当然ながら、ファーウェイに大きく依存していた傑美特も大きく業績を落とすことになった。

このようにスマホケースの製造委託をしているのはファーウェイだけでなく、シャオミ、OPPOvivoも同様に製造委託をしている。これにより、スマホケースメーカーは大きく成長をしたが、今回の販売数低迷で大きな痛手を受けることになった。

 

一方で、iPhoneスマホケースは絶好調

一方で、好調なのが、iPhoneに特化したスマホケースメーカーだ。iPhone12、iPhone13の販売は中国でもグローバルでも好調で、それにともないスマホケースも好調に売れている。

今年の春節時期に、香港を拠点とするCASETiFY(https://www.casetify.com/ja_JP/)は、天猫(Tmall)に旗艦店を開店した。若い世代の間ではそれ以前からCASETiFYの製品は知られていて、開店当日に100万元以上の売上を上げた。

CASETiFYのスマホケースは300元から500元もし、かなり高価だが、それでもデザインが楽しく、人気となっている。

▲CASETiFYのDIYスマホケース。キットに入っている立体シールなどを貼って、自分だけのオリジナルケースを作れるキット。価格も高いが、それでもよく売れ、しかも利益率が高い商品になっている。

 

ハイエンドしか生き残れない中国市場

スマホケースの世界でも、CASETiFYのような高価格帯でありながらデザイン的に面白い高級スマホケースが売れるようになり、価格競争をする一般的なスマホケース業者は生存空間が乏しくなっている。

これはスマホ市場そのものとまったく同じだ。中国でもスマホで利益を得ることができているのは高価なハイエンド機であるiPhoneが中心になっている。低価格のミドルクラスからエントリー機は、常に価格競争にさらされ、利益幅がどんどん小さくなっている。中国のハイエンド市場は、アップル、ファーウェイ、サムスンが競争をしていたが、サムスンが撤退をし、ファーウェイが米国による制裁により製造が困難となり、アップルの一人勝ちになっている。

スマホケースでもiPhoneに特化をした高級スマホケースを扱っている業者以外は、生き残りが難しくなっている。

 

山塞携帯を生き延びてきたスマホケースメーカーの第2の危機

2011年、深圳市の電気街「華強北」(ホワチャンベイ)では、大きな変革が起きていた。それまで無許可製造の山塞(シャンジャイ)と呼ばれる携帯電話が大量に売れ、華強北の活気を生んでいたが、しかし、中国でiPhone4が発売になると、一気にスマホ時代となり、1年でほとんどの山塞携帯電話メーカーが倒産をした。その多くがスマホケース製造に転換し、現在のスマホケース産業を築いてきた。このような時代を生き抜いてきた低価格スマホケースメーカーが再び淘汰される時期を迎えている。