日本、中国のスマートフォン市場からサムスンの存在感が薄れて久しい。しかし、世界全体でみると、サムスンのGalaxy S9は、アップルのiPhone 8やiPhone Xと競うぐらい売れ始めている。いったい、世界のどこで売れているのか。調査会社Counterpointの調査によると、欧州や中東アフリカ、南米などでサムスンの強さが目立ち始めている。
「高いけど高性能」から「高いのにそこそこの性能」に
日本と中国のスマートフォン市場でのサムスンの存在感の低下が著しい。韓国の中央日報は「日中韓の国民は、自国の技術の方が優れているという自負心があり、お互いの製品を排斥する傾向がある」と論評しているが、韓国市場はそうなのかもしれないが、少なくとも日本と中国にそのような傾向はあったとしても微々たるもので、市場の統計数字にはほとんど影響しないレベルだ。
サムスンのスマートフォンが売れない理由は単純で、サムスンは「高いけど高性能」のアップルと「手頃な価格でそこそこの性能」の中国ブランドの中間にポジションをとっているため、「手頃な価格で高性能」と消費者の目に映ることもあったが、ちょっとしたことで「高いけどそこそこの性能」になってしまう危険性があった。
それがアップルがiPhone XやiPhone 8というヒットがでて、中国市場ではシャオミー、ファーウェイなど、日本ではファーウェイ、ソニーなどの追い上げが激しく、サムスンは居場所を失った。
日本でも中国でもサムスンの販売シェアはトップ10ランキングから圏外へ消え去っている。
世界全体では復権しているサムスン
ところが、Counterpointのスマホ販売調査「May 2018 : Global Top Selling Smartphones」によると、世界市場ではサムスンが完全復活をしている。
機種別売上で首位はiPhone 8であるものの、2位がGlaxy S9 Plusとなり、iPhone XやシャオミーRedmi 5Aを抑えている。
同じ調査の4月分では、Galaxy S9 PlusとS9が1位、2位を独占している。
日本と中国では、サムスンのスマホを使っている人を見かけることも少なくなっているほどだが、世界的にはiPhoneよりも、あるいはiPhoneと同じくらい売れているのだ。
▲Counterpointによる2018年5月のスマートフォン世界ランキング。サムスンが強い。4月分ではGalaxy S9と同Plusが1位、2位を占めていた。
拮抗するアジア圏
いったいサムスンはどこで売れているのか。
アジア地域での販売額シェアを見てみると、僅差でファーウェイが首位になっているものの、サムスン、アップルを含めて、主要ブランドは拮抗している。日本と中国で存在感の薄いサムスンも、東南アジアでは売れているためだ。
米国ではアップルが強く、サムスンも2位につけている。韓国のLG、中国のZTE、レノボがそれに続く。「高いけど高品質」の順にほぼシェアを握っている形だ。
▲アジア圏ではどのブランドも拮抗している。しかし、日本と中国ではサムスンの存在感が薄れている。
▲北米ではアップルが強いが、サムスンもよく売れている。
欧州では弱いアップル、強いサムスン
ところが、アジア、北米地域以外では様相が違ってくる。欧州ではサムスンが圧倒的に強い。HMDはノキアの元幹部が経営する携帯電話メーカーで、現在はノキアブランドのスマートフォンの販売も行っている。欧州では、消費者保護のルールが厳しく、日本や米国の一部でも行われている「実質機種代ゼロ円プラン」のようなものがやりづらい。メーカーが販売店に対して、インセンティブ(販売助成金)を渡すことにも規制が強いので、割引販売もしづらい。そうなると、iPhoneはかなり高価な端末になってしまうのだ。その代わりに、「手頃な価格で高性能」に見えるサムスンが支持されている。
▲欧州ではアップルよりもサムスンが強い。中国ブランドも浸透し始めている。
南米、中東、アフリカはサムスンが強い
南米、中東、アフリカでも事情は同じだ。極めて高価なアップルは嫌われ「手頃な価格で高性能」のサムスンが売れている。
日中市場では存在感が消えたサムスンだが、欧州、南米、中東、アフリカといった地域ではまだまだ輝いている。
▲南米ではサムスンが強く、アップルが弱い。
▲中東、アフリカではサムスンが圧倒的に強い。
サムスンのライバルはアップルではなく中国ブランド
しかし、これは以前の日中市場とやや似ている。中国市場では「iPhoneは高いから」という理由でサムスンを選ぶ人が多かった。機種代ゼロ円が当たり前の日本市場では「iPhoneという独自OSよりは、Androidがいい」という人たちがサムスンを選んでいた。しかし、以前サムスンを選んでいた人たちが、より安く性能が向上してきたファーウェイ、シャオミーなどの中国ブランドに移動している。
南米、中東、アフリカでもいずれ、中国ブランドが浸透してくれば、サムスンの存在感は低下していくことになるかもしれない。
サムスンはブランド戦略として、アップルを強く意識している。それは、アップルのライバルであることを広く知らしめ、「手頃な価格で、アップルと同じ高品質」であることを強調したいのだと思われる。このマーケティング戦略は間違っていないと思うが、サムスンが本気で警戒しなければならないのは、ファーウェイやシャオミーなのだ。この10年、勢いのあった韓国電子産業も大きな曲がり角を迎えている。
▲サムスンが公開したアップルに対する比較広告。「iPhoneでダメなところも、Galaxyなら大丈夫」というものだが、むしろiPhoneユーザーに受けている。iPhoneユーザーにとっては「あるある」の指摘ばかりなのだ。最後に登場するiPhone X発売の行列に並ぶ男性の髪型にご注目。
▲同じく比較広告の続編。前編ほどの切れ味はなくなっている。サムスンはアップルを意識して、ライバル関係にあると印象づける戦略をとっているが、本当に警戒しなければならないのは、シャオミーやファーウェイの中国ブランドだ。
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