中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

新規参入が続く生鮮食料品EC。黒字はわずか1%。95%が赤字。

生鮮食料品をネット販売する生鮮EC、また店舗と生鮮ECを融合した新小売スーパーの新規参入が続いている。しかし、その中で黒字になっているのはわずか1%で、95%は赤字になっていると楽居財経が報じた。

 

中国のEC販売額は115兆円

1月21日、中国国家統計局は、2018年の全国の小売消費の統計を公開した。これによると、小売総額は全体で38兆0987億元(約630兆円)。このうち、EC販売額は9兆0065億元(約150兆円)で、2017年から23.9%の伸びとなった。

EC販売額のうち、サービスやデジタルコンテンツを除いた実物消費のEC販売額は7兆0198億元(約115兆円)で25.4%の伸び。消費全体の18.4%を占める。内訳は、飲食品33.8%、服飾品22.0%、日用品25.9%となる。

 

さらにECを成長させるためには生鮮食料品

ECがめざましく伸びているが、一方で小売全体の伸びは9.0%にとどまっている。ECが伸びているといっても、小売全体を押し上げているというよりは、従来店舗で購入していたものをECで買っているという置き換えによりECは伸びていると推測できる。

中国の場合は、膨大な人口を抱える地方都市でECが成長しているため、全体の伸び率も高いが、大都市部ではすでにECの伸びが止まっている。そのため、各ECは肉や野菜といった生鮮食料品のEC販売に力を入れている。鮮度、品質などの個体差が大きい生鮮食料品は、自分の目で確かめてから買いたいという人が多いため、EC宅配は伸び悩み、実店舗販売が強かった。ECから見れば、未開拓のカテゴリーであり、それだけにうまくEC化ができれば、大きな成長が望める。

 

成長し、成長が期待される生鮮食料品EC

上海商情情報センターが公開した「生鮮EC発展状況報告」によると、生鮮ECの市場規模は2012年に40億元(約664億円)だったものが、2016年には950億元(約1.5兆円)となり、2017年には1000億元(約1.6兆円)を突破した。さらに、2018年上半期だけで1051.6億元となり、2018年全体では2000億元を突破することが確実になっている。

また、中商産業研究院が公開した「2018ー2023年中国生鮮EC市場規模及び発展将来性分析報告」によると、2017年の生鮮ECの市場規模は1418億元(約2.3兆円)であり、今後3年間は毎年49%の成長をしていくと予測されている。この計算によると、2020年の市場規模は4690.67億元(約7.7兆円)となる。

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▲フーマフレッシュの店内。新鮮な海産物が目を引くが、ただの海鮮スーパーと見てしまうと、フーマフレッシュのビジネスの本質を見誤る。EC売上比率は60%を超えている「店舗(倉庫+プレゼン)もあるEC」がフーマフレッシュの本質だ。

 

新小売スーパーが続々と登場。しかし…

このような生鮮ECの伸びを睨んで、次々と展開されているのが新小売スーパーだ。新小売スーパーはオンラインとオフラインを融合したスーパーで、普通のスーパーのように店舗で買い物をすることもできるが、スマートフォンアプリから注文をして30分配送をしてもらうこともできる。店舗を販売拠点ではなく、積極的にショールームと倉庫として活用することで、消費者の「自分の目で品質を確かめたい」「重い荷物を持って帰るのは面倒」という要望を両立させている。

最もうまくいっているのはアリババの「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)で、すでに全国に100店舗を開業し、EC売上比率60%、単位面積当たりの売上は既存スーパーの4倍近くになっている。「新小売」という言葉はアリババが提唱しているオンラインとオフラインを融合した新しい小売形態のことだが、他社も新小売に相当する考え方を打ち出して、新小売スーパーを展開している。ECサイト「京東」は「7フレッシュ」、家電量販店「蘇寧電器」が母体となった「蘇鮮生」(スーフレッシュ)などだ。また、生鮮食料品専門のECサイト「毎日優鮮」「京東生鮮」などもある。

 

生鮮食料品ECのうち、黒字はわずか1%

しかし、このような生鮮EC市場はハードルが高い。中国電子商務研究センターが公開した「2016-2017年度生鮮EC死亡リスト」によると、すでに14の生鮮EC企業が倒産をしている。

また、中国農業生鮮EC発展フォーラムが公開した統計によると、全国の生鮮EC業者は4000社以上あるが、黒字化を達成できているのはわずか1%、採算ラインぎりぎりが4%であり、88%は赤字で、7%は巨額損失を出しているという。

 

冷蔵配送網の構築コストが大きなハードル

死屍累々という形容が適切な生鮮EC市場だが、それでも新規参入が続いている。中国農産品EC連盟が公開した「2018年中国農産品EC発展報告」によると、生鮮ECの市場浸透率はわずか3%でしかない。つまり、97%の農産品は店舗などで買われている。つまり、生鮮ECは広大な未開拓空間が広がっているのだ。

生鮮ECの最大の問題は、冷蔵配送網のコストだ。生鮮食料品は配送中も温度管理が必須で、冷蔵配送車などが必要になる。このコストを吸収するために、高価格の高級品を扱わざるを得ない。しかし、そのような高級食材を購入する富裕層の数は多くなく、配送経路は長くなり、ますます配送コストが上昇するという問題を抱えている。

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スマホから注文が入ると、スタッフが商品をピックアップして専用バッグに入れる。このバッグはリフトで天井レールに上げられ、配送スタッフが待つバックヤードに送られる。ピックアップ5分、配送20分、手渡し5分の30分配送を実現している。

 

30分配送は、配送網構築コストを抑えられる

この難題を解決したのが、フーマフレッシュの30分配送だ。フーマフレッシュは30分で配送するものの、配送地域は店舗から3km以内の近隣に限られている。30分であれば、冷蔵車ではなく、通常の保冷箱の配送が可能になる。しかも、消費者にとってみれば30分は「待っていられる」時間。不在による再配達もほとんど生じない。しかも、自宅からの徒歩圏内に店舗があるため、商品の品質を自分の目で確かめることもできる。調査会社「アイリサーチコンサルティング」のアンケート調査でも、消費者の45.5%が「生鮮食料品の1時間以内の配送」を希望している。

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▲上海のフーマフレッシュの出店地図。3km圏内の配送地域をモザイク状に配置して、市内全体をカバーするように出店計画を進めている。

 

地域密着の分散型出店、店舗を配送拠点にすることが鍵

上海財経大学電子商務研究所の崔麗麗執行所長は、楽居財経の取材に応え、生鮮ECの現状は厳しいものの、近い将来春を迎えると見ているという。その鍵は、地域密着の店舗を倉庫として利用することだという。

新小売スーパーはまさに地域密着の店舗であり、倉庫であり、ショールームになっている。今後、このような新規の新小売スーパーの参入が続くだろうし、より小規模な新小売宅配コンビニのような業態も生まれてくると見られている。

黒字の生鮮ECが1%しかないというのは、これ以上ない悪い数字だが、それを冬至だと考えれば、春が訪れるのもそう遠くないのかもしれない。

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