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バス専用レーンの運用をめぐって揺れる北京市。上海市や海外ではユニークな試みも

ピーク時にバスだけが走行できるバス専用レーンの運用をめぐって北京市が揺れている。専用にするか優先にするか、週末は開放すべきかで議論が起きている。他都市の試みも参考にしながら、北京市は週末開放を始めることにしたと北京日報が報じた。

 

中国都市ではバスも便利な移動ツール

中国の都市内の移動は、地下鉄が最も便利だが、意外にバスも使える。バスは地下鉄よりも駅の間隔が短く、目的地のすぐそばに止まってくれる。市街地の1ブロックのサイズが大きい中国では、どこに行くのにも歩く距離が長くなりがちで、バスは非常に便利な乗り物だ。本数も主要路線では地下鉄なみか、それ以上に多く走っている。

路線が複雑であるため、以前はその都市の暮らしに慣れていないと利用が難しかったが、今では地図アプリがあるために、簡単に利用することができる。

また、バスは渋滞の影響を受けやすい欠点があるが、北京市では1997年にバス専用レーンが導入され、主要路線は渋滞の影響を受けずに済む。

▲本線は渋滞をしているが、バス専用レーンはがらがらというのはよくある光景。マイカー利用者からは不満の声もあがっている。

 

イカー利用者からは不評なバス専用レーン

バス専用レーンは、7時から9時、17時から19時のピーク時のみというのが一般的で、北京市の設置道路は、合計で839kmに達している。しかし、マイカーのドライバーからは、評判が悪かった。バス専用レーンはがらがらなのに、通常の車線は渋滞でぴくりとも動かないという光景がよく見られるからだ。

特に週末になると、ショッピンモールの駐車場に入る車、出る車が渋滞の原因となることもあり、せめて休日だけでもバス専用レーンを解除してくれないかという声が多かった。

 

メリットを享受する人数で考えるとバス専用レーンは不要

もちろん、マイカーの人はバス専用レーンをよく思わず、バスを使う人はバス専用レーンをありがたく感じる。問題は、社会の視点でどちらのメリットが大きいかだ。

次の写真は、土曜日の15時、天壇東路を南方向に進む道だ。この先の交差点の信号待ちで、多くの車が行列をしている。一方、右端のバス専用レーンはがらがらだ。

一般車を数えてみると、60台から70台がいる。一方、バスは20分の間に異なる路線のバスが6台通行した。つまり、1回の信号待ちが3分とすると、この60台の車の利用者数と1台のバスの利用者のどちらが多いかを考えればいいことになる。1台の車に平均2人が乗っていると考えると、約120人の人が信号待ちをしていることになる。これは1台のバスの乗客数よりも明らかに多い。

バス専用レーンを一般車が使ってもよくなれば4車線となり、80台の車が並ぶことができる。すると、40人増えて、160人が利用できる。つまり、バスに40人以下の乗客しか乗っていないのであれば、バスに専用レーンを利用させるよりも、開放をしてしまった方が合理的なのだ。

これがバス専用レーンを主張する人たちの理屈だ。

▲土曜日の15時、天壇東路を南方向に進む状況。3つの一般車線はこの先の信号で渋滞をしているが、バス専用レーンにはバスは走っていない。

 

バスの定時運行は地域社会にとって必要

一方、バス専用レーンを支持する人たちは、異なる視点に着目をしている。それはバスの定時運行率が高くなるということだ。バスは有益な都市公共交通だが、最大の問題は渋滞に巻き込まれて、定時運行ができなくなるということだ。バスで行くと、何時に着くのか読めないということが、市民をバスから地下鉄利用に誘導してしまう。

バスの定時運行率が下がると、利用者が減り、運行本数の間引きや路線の廃止をせざるを得なくなっていく。悪いスパイラルに陥って、バスはどんどん不便な移動ツールになり、バス路線も縮小をしていくことになる。

バスは、高齢者や障害者などの交通弱者にとっては、利用がしやすい移動ツールだ。社会の多様性を保つためからも、バスという移動手段を確保するのは地域社会の義務であるもという考え方だ。

 

週末開放、深夜開放を望む声が

バス専用レーンを廃止しろとまで主張をする人は多くないが、週末は開放をしてほしいと考えている人は多い。平日は、バスで通勤をする人も多く、バスの乗客数も多いが、週末は乗客数が大きく減るからだ。

また、時間制限ではなく、24時間バス専用レーンが設定されている道路もある。しかし、バスの運行は24時間ではない。まったく意味のない規制だと、近隣住民からはバス専用レーンをバスの運行時間の間だけに制限するように陳情がされている。

 

運用が難しいバス優先レーン

このような「週末のバス専用レーンの開放」問題は、以前から議論されてきた。また、バス専用レーンではなく、バス優先レーンに変えることも専門家から提案をされている。

優先レーンでは、一般車は通行はできるが、バスがきた場合は車線を変更して譲らなければならない。しかし、ほんとうにうまくいくのだろうかという人もいる。バスが後ろからきた時に、本線が渋滞をしていれば、車線変更をして譲ることも難しい場合もある。そのことを言い訳に、どうどうと居座る悪質な車も出てこないとも限らない。

中国の法律では、バス専用レーンについては定義をされているが、優先レーンについては定義されていない。そのため、専用レーンに侵入をした自動車は、交通監視カメラで自動的にナンバーが読み取られ、200元の罰金(減点なし)の請求が自動的にいくようになっている。そのため、多くのドライバーが専用レーンには入らない。しかし、優先レーンは規定がないために、罰則を設定することができず、警官が注意をすることぐらいしかできない。

▲バス優先レーンの場合、自動車はバスがきたら譲らなければならない。しかし、本線が渋滞をしていると、譲りたくても譲れないことが多くなる。

 

上海市では、バス専用レーンにも制限

上海市では、この専用レーン問題をある程度解決している。まず、バス専用レーンは「空き座席が20席以上のバス」は通行することができない。普通のレーンを通らなければならない。がらがらのバスに専用レーンを使わせないことで、公平感を確保しようとしている。また、週末と祝日にはバス専用レーンは開放をされる。バス専用レーンはあくまでも通勤のための措置なのだ。

上海市では、空き座席が20席以上のバスは、バス専用レーンを走行することができない。また、週末はバス専用レーンが開放される。

 

海外ではHOVの考え方でうまくいっている

バス専用レーンの問題は、「バスを優先する道」と考えてしまうと解決ができない。限りある道路という資源を使って、最大の移動人数容量を達成するにはどうするべきかと考える必要がある。

フランスや米国の都市では、HOV(High Occupancy Vehicle、高積載車)レーンという考え方が採用されている。例えば、HOV3+であれば、3人以上乗っている車は専用レーンを通行することができる。バスであっても乗客が少ない時、回送時は利用することができない。また、マイカーを使う人も複数人が集まって、相乗り通勤をすることになり、路上を走る自動車数が抑えられる。

北京市では、今年2023年6月1日から、バス専用レーンの週末開放を始めた。今のところ、大きな混乱はなく、おおむね好評のようだ。

▲米国などで一般的なHOV優先方式。車種に限らず、3人以上乗っている車だけの専用レーンが設けられている。