貧困地区として知られた永和県にAI訓練センターが設置されたことにより、町の経済が変わった。出稼ぎに行く必要がなくなり、地元で子どもと一緒に暮らすことができ、都市よりも高い給料がもらえるからだと暸望智庫が報じた。
大量の人手が必要な「AIの先生」
優れたAIを開発するには、優れた大量の教師データが必要になる。ネットからは大量のデータが得られるが、それはそのままでは役に立たない。人間が中身を見て、それが何のデータであるのか、タグづけをしてやらないと、AIは学習をできない。人間が正解を教えてやらないと、AIは何も学習できないのだ。
この教師データを、すでに存在する既存の教師データに頼ることもできる。現在では多くの教師データが公開され、誰でも自由に利用できるようになっているからだ。しかし、そのようなパブリックな教師データを利用しているだけでは、ごく標準的な性能のAIしか開発できない。AIをビジネスとして成立させるには、突出した性能が求められ、それを開発するには、自力で教師データをつくる必要がある。それには大量の人手が必要になる。
貧困地区に設置されるAI訓練センター
現在27歳の王丹丹さんは、山西省永和県呂梁山で生まれ育った。貧困地区と呼ばれる永和県は人口5万人ほどで、ここで高校を卒業したあと、省都である太原市にあるフォクスコンの工場で働いた。そこである男性と知り合い、結婚をして、子どもが生まれた。子どもを永和県にある実家に預け、夫婦は太原市で働く。それがこの地域での普通の人生だった。
しかし、2019年に国家衛生健康委員会の主導でアントグループと中国女性発展基金会が始めたデジタル産業貧困解消プロジェクト「AI豆計画」により、人生が大きく変わった。このプロジェクトにより、永和AI豆デジタルセンターが呂梁山に設立され、王丹丹さんは実家に戻り、人工知能訓練士になった。
この永和AI豆デジタルセンターには、現在158人の従業員がいて、そのうちの135人が女性だ。それまで太原市に出て働いても月収は2000元前後であり、住まいも確保しなければならなかったが、永和AI豆デジタルセンターは実家から歩いて通うことができ、月収は4000元を超える。子どもと一緒に暮らすこともできる。
女性の働き方改革も一気に進む
永和県は中国の発展から取り残された街で、2018年に永和から太原への高速道路が開通するまで、平屋の建物があるだけだった。多くの人が、この地方独特の穴居住宅「ヤオトン」で暮らしていた。
ヤオトンは、夏は涼しく冬は暖かく快適な住宅だと言われるが、それは自然の状態での話であり、エアコンが完備した近代的なマンションの快適さには及ばない。若い世代はやはりヤオトンを出て、快適なマンションに住みたがる。
しかし、永和県で暮らす限り、それは望みようもなかった。永和県にも仕事はある。しかし、長続きしないのだ。都市からさまざまな企業が、安い労働力を求めて拠点を設置するが、数年で、より賃金の安いところに引っ越したり、自動化を進めたりしてしまい、仕事はなくなってしまう。しかし、永和AI豆デジタルセンターは国家主導プロジェクトであるため、高給の仕事が継続されることは確実だ。
これにより、働き方も大きく違ってきた。母親が多い永和AI豆デジタルセンターでは、従業員からの要望で夕方休憩が設定された。午後4時半になると、従業員は休憩をもらい学校に子どもを迎えにいく。そして、センターの会議室で宿題をさせる。従業員が交代で監督をする仕組みも整え、午後6時に仕事が終わると、従業員の母親は子どもをつれて帰宅をする。
AIが貧困を解消する
永和県の街も変わってきた。出稼ぎに行っていた女性が街に戻ってきて、この街としては高給をもらっている。これにより、街の中に飲食店やスーパー、美容院、化粧品店が増えてきた。さらにジムまででき、永和AI豆デジタルセンターの多くが会員となり利用をしている。
永和AI豆デジタルセンターの女性従業員たちは、昼間はAIをトレーニングし、休日には自分をトレーニングする。AIが貧困地区の経済を救おうとしている。