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チーターよりも速く走る軟体ロボット。プラント内の設備点検などに応用が可能

オーストリアヨハネス・ケプラー大学で軟材料の研究をする毛国勇(マオ・グオヨン)の研究チームが、高速で疾走することができる軟体ロボットを開発した。体長ベースでは、チーターやF1カーよりも速く走行することができるとQbitAIが報じた。

 

体長ベースでチーターよりも速く走る軟体ロボット

この軟体ロボットは高速で走行をすることができる。前肢と後肢を動物のチーターのように使い、70体長/秒の速度で走ることができる。チーターは25体長/秒、F1カーは50体長/秒なので、体長ベースでは、チーターやF1カーよりも速く走ることができる。さらに、この動作を応用することで、泳いだり、段差を登ったり、障害物を越えることも可能だ。

この研究成果は、ウェブの学術雑誌である「Nature Communications」に「Ultrafast small-scale soft electromagnetic robots」(https://www.nature.com/articles/s41467-022-32123-4)として発表されている。

▲軟体ロボットの走行は、チーターの走り方を模倣している。

▲電流電圧を変えることで、速度の調節も可能。

 

電流を流すと電磁弾性体が変形をして走る

この電磁弾性体によるマイクロロボットは、弾性のある基盤に液体金属でコイルをプリントすることによってつくられる。このコイルに電流を流すことで、基盤そのものが歪むため、この動きをうまく利用すると、動物のような動きを模倣させることができるようになる。

▲軟体ロボットの製造方法。電磁弾性体に液体金属でコイルを描き、電流を流すことで電磁弾性体が変形することを利用している。

 

異なる弾性材を貼り合わせることで伸びと縮みを実現

しかし、このような弾性材による小型ロボットは以前からも研究が進められていたが、適切な弾性材が見つからないため、反応が遅く、曲げる力も弱く、実用性に欠いていた。

毛国勇は弾性材を二層構造にすることでこの問題を解決した。あらかじめ曲げられた状態の弾性材とフラットな弾性材を貼り合わせた。フラットな弾性材が電磁弾性により曲がると、曲げられている弾性材の力が解放され、速く、力強く、全体が曲がることになる。

これを利用することで、チーターなどの動物が前肢と後肢を使って疾走する動作を模倣できるようになった。

ヨハネス・ケプラー大学で軟材料の研究をする毛国勇氏。軟体ロボットは、プラントの設備内点検やガス管、水道管の内部点検に利用ができるという。

 

速く走るには足の素材にも工夫が

また、地面に設置する足の素材も工夫が必要だった。摩擦が大きいほど、ロボットは速く走れることになる。紙、木材、金属、プラスティックなどの平面に対し、大きな摩擦力を示す素材探しが行われた。

弾性素材が展開する時、後足は設置をし、前足が浮くことで、前足が伸びていく。前足が着地をすると、弾性素材は収縮するサイクルに入り、前足が固定されて、後足が浮き、後足を引きつける。このようにして前進をするが、前足と後足をタイミングよく、接地、浮くという動作をさせるため、足をL字型にして実現している。

▲地面と設置する足の素材も走りには重要だった。L字型の足にすることで、走りが安定をした。

 

段差を乗り越え、ジャンプもする

実用性を高めるには、障害物を乗り越えたり、段差を登る必要も生まれる。この場合は、障害物や段差の前で通常よりも体を強く圧縮させ、それを解放することで、障害物や段差をクリアする。体を強く圧縮させることで、それを解放する時に大きな力が生まれ、ジャンプに近い動作ができる。

▲障害物を避けて走ることも可能。

▲段差を乗り越えることができる。

▲2枚の電磁弾性体を貼り合わせることで、伸びと縮みの動作が可能になり、走ることができるようになった。

▲電磁弾性体を組み合わせると、ゴルフボールを運搬し、投げることも可能になる。

 

バッテリーを搭載することで移動場所も広がる

この最初のロボットは、外部電源に頼るため、導線がついた状態で走行する。このため、移動できる範囲に制限がある。そこで、研究チームはロボットにバッテリーを搭載し、自由に行動できるロボットも開発した。バッテリーの重みにより、速度は2.1体長/秒と遅くなるが、制約のない行動が可能になった。

▲バッテリーを搭載すると、走る速度は遅くなるが、導線が不要となるため、自由に移動できるようになる。

▲バッテリーを搭載し、自由に泳ぎ回ることも可能になった。

さらには泳ぐことも可能に

このバッテリー搭載ロボットは、泳ぐこともできるようになった。水面に浮かぶことができ、4.8体長/秒の速度で泳ぐことができる。

どのようなことに応用ができるのかはこれからのことだが、設備内の点検などに利用できるのではないかと考えられている。