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身分証がスマホに入るスーパーSIMカード。公式身分証のデジタル化で、生活が大きく変わる

国家規格のデジタル身分証に対応したスーパーSIMカードの提供が始まっている。身分証がスマホに入ることで、交通、決済、出入管理などがすべてスマホだけで可能になる。生活の利便性を大きく向上させることになると中国江蘇網が報じた。

 

携帯電話が身分証になるスーパーSIMカード

携帯電話キャリアの江蘇移動は、国密セキュリティチップを搭載したスーパーSIMカードの販売を始めている。スーパーSIMカードは、国家規格のセキュリティチップを搭載することで本人確認が行え、これによりスマートフォンを身分証明証の代わりにすることができるようになる。公式の身分証明ができることにより、スマホ社会保険カードや交通カードとしても利用できるようになる。

現在、江蘇省で623万枚のスーパーSIMカードを発行し、アクティブ利用者は349万人になっている。同様のスーパーSIMカードは他省でも販売が始まっている。

 

方法が多すぎる公共交通の乗車の仕組み

最も利便性が高くなるのが、バスや地下鉄の乗車だ。公共交通の乗車の仕方には、今まで4種類の方法があった。

ひとつは現金で、バスで現金を払う、地下鉄では切符やトークンを買うというものだ。現在は、この方法を使う人はほとんどいなくなっている。

2つ目は、プラスティック製の交通カードを使うというもの。NFCによるタッチだけで乗車ができるため利便性は高く、扱うリテラシーも不要だが、事前にチャージをしておく必要がある。また、常に携帯をしておく必要もある。

3つ目は、スマホ決済による乗車。QRコードをかざして乗車をする。事前にアプリを起動して乗車コードを表示する必要がある。また、スマホのバッテリーが切れてしまうと乗車することができなくなる。

4つ目は、NFCに対応したApplePayなどを利用する方法。タッチだけで乗車ができるが、事前に優先カードなどの設定をしておく必要がある。

▲バスの乗車もタッチをするだけで、自動的に乗り換え割引や年齢割引などが適用される。

 

スマホタッチだけ地下鉄やバスに乗れる

スーパーSIMカードによる乗車は第5の方法で、NFCによるタッチ乗車になる。また、アプリのようなものを事前に起動しておく必要はなく、スマホをカードのようにタッチさせるだけでいい。さらに、スマホのバッテリーが切れても、微電力で動作するため、ほとんどの場合、乗車処理ができる。

無錫市で日常的にバスに乗る蔡其旼さんは、新しい決済手段が登場するたびに試してきたが、最終的にスーパーSIMカードに落ち着いたという。「最初は交通カードを使い、それからアリペイ、ApplePayと使ってきました」。

しかし、交通カードは持ってくるのを忘れてしまったり、乗車前にバッグのどこに入れたのかを忘れて慌てることがあった。アリペイは便利だったが、乗車前にQRコードを表示しておく煩わしさがあった。ネット接続が不安定な場所ではQRコードがすぐに表示されないこともある。また、スマホのバッテリーがなくなると、使うことができなくなる。

ApplePayは非常に便利だったが、海外の仕組みであるため、無錫市の乗り換え割引などの割引制度に対応をしていない。

結局、スーパーSIMカードによる乗車に落ち着いた。スーパーSIMカードは国家の規格であるため、このカードで300都市の地下鉄、バス、フェリーなどに乗車することができる。事前にその場所の交通カードアプリかミニプログラムをインストールして、決済方法との紐付けを行う必要はあるものの、わずか数分で行うことができ、必要な書類などもないので、高鉄に乗っている間にできてしまう。出張や旅行で非常に便利に使える。

 

高齢者優待なども自動判定

現在、江蘇省でスーパーSIMカードによる乗車を利用している人は165万人。月の利用回数は92万回と、これから普及をする段階だ。2022年1月からは、南京市、南通市で高齢者用乗車と学生用乗車の機能の提供を始めた。スーパーSIMカードで乗車をすると、60歳以上は半額、70歳以上は無料になる。また、小中学生も半額になる。スーパーSIMカードは、身分証と紐づいているので特別な申請を行わなくても、年齢情報を見て、自動的に割引を行ってくれる。

▲スーパーSIMカードのアプリ。設定用に必要なだけで、ほぼすべてのことがスマホタッチだけで済むようになる。

 

スマホがマンションの鍵にもなる

スーパーSIMカードは公共交通の乗車だけでなく、家の鍵としても利用ができる。特に利用が進んでいるのが、マンションの敷地に出入りをするための門の鍵だ。従来は守衛がいて、顔を見て、住人であれば通し、外部の人であれば来訪申請書を記入してもらうということをしていた。しかし、大規模マンションになると、守衛が住人の顔を記憶することは不可能で、住民パスを提示する、住民カードをタッチしてもらう、顔認証システムを導入するなどの工夫がされるようになった。

この問題も、スーパーSIMカードへの置き換えが始まっている。出入りする時にスマホをタッチしてもらうだけでよくなる。すでに江蘇省では4679ヵ所のマンション、住宅地区がこのスーパーSIMカードによる出入管理を始めている。

南京市鼓楼鐘阜路2号のマンションに住んでいる張さんと管理会社の陳主任は便利であるばかりでなく、安全性が高まったと感じていると言う。

張さんはそれまで出かける時に、マンションから発行された住民カードを持ったかどうかを何度も確認していた。「もし、忘れたとすると、守衛さんに頼んで門を開けてもらうしかなくなります。その時には身分証明証が必要です」。身分証明書まで忘れてしまうと守衛は絶対に通してくれない。顔を知っていても門を開けてくれない。それが規則だからだ。出かける時に忘れた場合は自室に取りに戻ればいいが、会社に忘れた時などは会社まで取りに戻らなければどうにもならない。それが現在は、スマホをタッチすることで出入りできるようになり、非常に便利に感じているという。

管理会社の陳主任は安全性が高まったと感じている。それまでの住民カード方式では、場合によっては貸し借りをしてしまう人がいる。正規のカードを持っているのに、外部の人だと判断し、呼び止め、身分証を確認するというのは簡単ではなく、トラブルの元にもなる。それがスマホであれば、貸し借りをすることはまずないのでマンションのセキュリティを大きく向上させるという。

 

大学では学生証として活用

このスーパーSIMカードは、大学でも活用が始まっている。徐州江蘇師範大学では学生証としてスーパーSIMカードを利用している。大学への出入管理、図書館カードとして活用するだけでなく、決済機能もあるため、学食での決済、学内売店での決済にも利用されている。

現在、江蘇省では30の大学、専門学校で、このスーパーSIMカードが活用されている。

 

身分証のデジタル化が進む

中国では、さまざまな場面で身分証が必要になる。特に出張をする際に身分証を忘れてしまうと、まったく身動きがとれなくなるため、自宅に取りに戻る以外なくなる。特急列車、高鉄、飛行機に乗る時には身分証の提示が必要であり、ホテルにチェックインする時にも身分証の提示が必要だからだ。

そのため、身分証は常に携帯をするが、今度は紛失の心配をしなければならない。紛失をしても再発行はしてもらえるものの、それまでの間、身分証なしで生活しなければならなくなる。

それがスーパーSIMカードであれば、デジタル身分証として利用できるため、身分証を持つ必要がなくなり、紛失をする可能性も、身分証に比べればはるかに低くなる。

また、スーパーSIMカードは公安部の第一研究所が提供しているCTIDプラットフォーム(Cross-industry Trusted ID)のネット身分証システムに基づいているため、中国全土でデジタル身分証として利用することができる。医療機関、ホテル、治安監視、ネットカフェなど、身分証が必要なところのほとんどが、すでにCTIDに対応をしている。