中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国社会の弱点「信用形成」を補うブロックチェーン技術。その応用事例

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 064が発行になります。

 

中国のブロックチェーン技術の産業応用が活発になってきます。大きな話題になったのが、「vol.046:デジタル人民元の仕組みとその狙い」でもご紹介したデジタル人民元です。デジタル人民元は、暗号資産ビットコインと同じように取引記録がブロックチェーンで管理をされています。

メルマガでも触れましたが、デジタル人民元の登場により、スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」が不要になってしまうということはありません。デジタル人民元はデジタル通貨であり、スマホ決済はデジタルウォレットで、「お金と財布」のように本質的に異なるものです。

アリペイやWeChatペイの中に入っているのは単なるポイントで、スマホ決済は財布や通帳の役割をしています。デジタル人民元の登場により、スマホ決済が不要になると言うのは、「日本円があるから、銀行口座が不要になる」というのと同じくらいおかしな話です。

アリペイ、WeChatペイは、飛行機や高鉄のチケット購入、タクシー配車、フードデリバリー、飲食店予約などさまざまな決済を必要とする生活サービスが使えるようになっていて、これがウォレットとしての価値を高めています。銀行口座が振り込みができたり、光熱費の自動引き落としなどの機能があるのと同じことです。ですから、近い将来、デジタル人民元をアリペイにチャージをして、アリペイのサービスを使うということになっていくでしょう。

 

しかし、アリペイ、WeChatペイの2つの決済が、決済市場を独占をしていた時代は終わることになります。なぜなら、これから銀行もデジタル人民元のウォレットを開発していくことになるからです。当面は、対面決済や送金ができる程度のウォレットですが、銀行も研究を重ね、アリペイ、WeChatペイと肩を並べられるウォレットを開発していくことになります。すると、スマホ決済(ウォレット)にはライバルが多数登場し、アリペイとWeChatペイだけで競い合う時代は終わり、どのウォレットが最も使いやすいかというウォレット競争が激しくなっていきます。

中央銀行である人民銀行が、デジタル人民元を推進しているのは、銀行の開発力を高め、アリペイやWeChatペイと競争できるようにするという狙いもあります。

しかし、生活系サービスへの対応は、銀行よりも、アリババやテンセントの方がはるかに得意です。商売に不慣れな銀行が手を出してもあまりうまくいかないでしょう。そこで銀行のウォレットに期待されるのが金融機能です。簡単に投資信託ができる機能、少額から株式や証券が購入できる機能、簡単に自動車ローン、住宅ローンが組める機能、収入や借入金を人工知能が判断をして、最も効率的な返済計画をリコメンドしてくれたり、投資と借り入れのアドバイスをしてくれる機能、年齢などのプロフィールから適切な保険商品をリコメンドしてくれる機能などが求められます。

銀行がこのようなフィンテックサービスをデジタル人民元のウォレットを中心に展開していくのに必要なのが、ブロックチェーン技術です。それゆえ、ブロックチェーン技術が重要になってきているのです。

 

ブロックチェーンについては、読者の方もよくご存知だと思いますが、一言で言えば、改竄がきわめてしづらいデジタル台帳です。ですから、金融関係の台帳だけでなく、土地や自動車、商品のデジタル台帳としても利用することが考えられています。面白いところでは、簡単にコピーができるはずのデジタル画像をブロックチェーン台帳に登録することで、この世に1枚しかないという価値を持たせ、絵画のような売買市場を作ろうというアイディアもあります。

 

ブロックチェーンの技術的な詳細については、検索をすれば、他の優れた記事がいくつも見つかるので、ここでは簡単におさらい程度に留めます。技術的な話を読むのが煩わしい方は、「改竄がきわめてしづらいデジタル台帳」という認識だけでも問題はありません。しかし、ブロックチェーンの産業応用を理解するには、ある程度の技術的概要を知っておいた方が理解しやすくなります。

ブロックチェーンというアイディアのキモとなっているのは、記録がチェーン(鎖)のように連続をしているということです。預金通帳には、残高が日付ごとに並んでいますが、あれも一種のチェーンになっています。もし、ある日の残高を改竄しても、出入金記録と以前の残高から計算し直すことで、残高が改竄されていることがわかってしまいます。

 

では、ブロックチェーンはどのようにして、記録のチェーンを作っているのでしょうか。そこで必要になる考え方がハッシュ値です。言葉は難しいかもしれませんが、考え方はシンプルです。ハッシュとは切り刻むという意味です。

ハッシュ値は、小学校の頃に習った九去法による検算に近い考え方のものです。今は、電卓やエクセルがあるので、筆算ということはほとんどしなくなっていますが、筆算に間違いがないかどうかを簡単に検算できる方法です。

例えば、3264+7253を計算すると、答えは10517となりますが、この計算が正しいかどうかを簡単に調べられるのが九去法です。九去法では、それぞれの数字をバラバラにして、9になる組み合わせを消していき、残りをメモします。例えば、3264であれば3と6は組み合わせて9になるので、残った2と4を足して6となります。7253も同じようにして、7と2を消して、残りの5と3から8となります。答えの10517は、1と1と7が9になるので5となります。この数値だけを計算と同じ(ここでは足し算)計算をします。6+8は5+1+8=5+9と考えて、5となります。これが答えの5と一致をしているので、この計算は正しいと判断できます。もちろん、計算間違いがあっても偶然うまくいってしまうこともないわけではないので確実ではありませんが、筆算では強力な検算方法になります。

ポイントは、それぞれの数字を組み合わせて9になるたびに消していくことと、検算操作が1桁の計算という誰でも暗算できる簡単な操作になることです。

 

ハッシュ値もこの九去法によく似ています。元のデータよりはるかに小さなデータになり、計算が容易になるという特性を持っています。デジタルデータは数値の羅列ですから、そこから特定のアルゴリズムにより、桁数が決まった数値に変換したものがハッシュ値です。アルゴリズムは使いやすさなどを考えてさまざまなものが考案されていますが、計算が軽く、複数のデータが偶然同じハッシュ値になる確率が少ないものが使われます。

このハッシュ値は、動画でも使われています。動画共有サービスでは、正式な権利者が公開した公式動画のハッシュ値を計算し保存しておきます。そして、利用者がアップロードしたすべての動画のハッシュ値も計算し、先ほどの権利者のハッシュ値と比較をします。もし、ハッシュ値が同じである場合は、公式動画をコピーした権利侵害である可能性があるのです。動画そのものを比較するのは膨大な計算が必要になりますが、桁数の決まった数値であるハッシュ値を比較するのは軽い計算で済みます。ハッシュ値は、元のデータを要約した数値のような感覚です。

 

ブロックチェーンに、新しいデータを追加する場合は、2つの要素から新しいブロックを作ります(本来は3つの要素ですが、ここでは省きます)。1つはもちろん記録したいデータです。2つ目が前のブロック(記録)のハッシュ値です。ここがポイントになっています。

前のブロックのハッシュ値が、新しく追加されるブロックに使われているため、前のブロックのデータが改竄されると、ハッシュ値も変わってしまい、次のブロックに記録されている改竄前のハッシュ値と一致しなくなります。これで改竄されたことがわかり、チェーンは切断されることになります。

このハッシュ値を、次のブロックの要素のひとつとして利用することで、ブロックが繋がり、チェーンが繋がっていきます。これがブロックチェーンの「改竄されない」特性を担保しています。

 

中国では、2019年2月に「ブロックチェーン情報サービス管理規定」(http://www.cac.gov.cn/2019-01/10/c_1123971164.htm)が施行されて以来、すでに1000を超えるサービスなどの申請がありました。また、広州市杭州市、北京市上海市を中心に23の都市が、30のブロックチェーンテックパークの建設計画を発表、着手し、動きが活発になってきています。特に杭州市が積極的にブロックチェーン産業の育成に力を入れています。

さらに、清華大学北京大学浙江大学西安電子科技大学、上海財経大学、西安交通大学などで、ブロックチェーン技術関連の講座を設置し、専門の研究室の設置、企業との共同研究体制を築き、研究に力を入れるだけでなく、人材の育成も行おうとしています。

中央政府ブロックチェーンを国家基幹技術のひとつに定めたことで、にわかに銀行、大学、企業、都市政府が動き始めた印象です。

今回は、中国で、ブロックチェーン技術がどのように応用されようとしているのかをご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

 

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.061:再び注目を集める無人小売テクノロジー。非接触と人材採用がキーワードに

vol.062:突如として売れ始めた電気自動車(EV)。中国のEVシフトが本格化

vol.063:テック企業にとっての春節。テックサービスを地方と高齢者に伝播をさせる重要な時期

 

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html