宅配企業大手の順豊(SF Express)が外売(フードデリバリー)に参入をした。企業向け外売に特化をし、事前に予約をもらって、順豊の配送網を活かして、定時に配送するというサービスだ。飲食市場の33%を占める「社食」をねらいにいっていると電商報が報じた。
外売に今さら参入する宅配大手「順豊」
外売の領域では、美団(メイトワン)が強く、それを餓了麼(ウーラマ)が追いかけていて、もはや参入する余地はないかのように見える。いわゆるレッドオーシャンだ。
順豊は1993年に創業した宅配企業。2019年の営業収入は1121.93億元(約1.7兆円)となり、グローバル配送も行う。15機の航空機、1.2万台の車両を保有し、29万人が働いている。中国郵政に次ぐ、物流大手だ。
その順豊が外売に参入をした。しかも、条件を満たした利用者全員に500元のキャッシュバックを行う大盤振る舞い。そこまでして、順豊はなぜ外売に参入したいのか。
▲順豊は、バイクから貨物飛行機まで、さまざまな手段を組み合わせて配送する宅配企業であるため、個別注文から大量注文まで対応できる。これを活かして、企業向外売「豊食」サービスを開始した。
23兆円の企業配食市場をねらう豊食
順豊の外売「豊食」(フォンシー)がねらうのは、企業顧客だ。社食を持っている企業は多くはない。多くのホワイトカラーが、近所の食事に出る、外売を注文する、コンビニなどで買ってくるという方法で食事をとっている。
また、弁当を配達してくれる業者もいるが、安いが遅い、まずい、メニューが選べないなど従業員からの評判はよくない。
しかし、2019年の飲食市場4.6兆元(約70兆円)のうち、弁当市場は33%の1.5兆元(約23兆円)もある。豊食はこの遅れている市場をとりにいっている。
▲従来の外売では、電動バイクによる配送が基本であるため、大量注文が入ると、仲間の配送員を集めて、手分けをしなければならない。機動力は高いが、大量注文には向かない仕組みになっている。
昼食、夕食のピーク時にも定時に一括配達
豊食は、専用アプリではなく、エンタープライズ向けWeChat、一般向けWeChatのミニプログラムとして提供されている。また、ディコス、ピザハット、吉野家、雲海肴など主要な飲食チェーンに対応。従業員は自分の好きなメニューを注文することができる。
美団、ウーラマでも好きなメニューを注文することができるが、昼食時などのピーク時には配達に時間がかかることが多い。特に企業で大量注文をした場合は時間がかかる。電動バイクによる配送が主体なので、大量注文になると、手が空いている配送員を集めなければならないからだ。
しかし、豊食では、朝食(7時半まで)、昼食(10時半まで)、午後茶(14時まで)、夕食(17時まで)の予約をしておくと、それぞれ9時、12時、15時、18時に一括配送をしてくれる。
また、飲食店への発注も効率化をされている。キッチンごとの作業量を考え、大量注文の場合は、近隣の店舗に発注を割り振り、作業量を均等化して、配送時間に間に合うようにする。
つまり、従業員から見れば、好きなメニューが選べて、時間にきちんと届くことになる。配送については、順豊の宅配ネットワークを活用する。
また、決済は従業員個人のWeChatペイから行うことになるが、WeChatペイは電子領収書にも対応しているため、企業が一定割合や全額補助をする場合も、精算を自動化することも可能だ。
ここを強みとして、豊食は1.5兆元の巨大市場をとりに行こうとしている。
▲朝食、昼食、午後茶、夕食を指定された時間に注文しておくと、定時に配達してくれる。たくさんのメニューから選べて定時にきちんと配達されるのが、豊食の強みになっている。
▲大量の定時注文に対しては、貨物車などで対応をする。
シェアを伸ばすには時間がかかるとの指摘も
しかし、超えなければならない課題も存在する。
ひとつは企業の弁当には既存の業者が入っていて、そこにはさまざまな特殊事情がある。例えばグループ企業の飲食企業を利用する、価格面で大きな優待を得ているなどだ。そのため、業者の切り替えには躊躇する企業も多い。優れているからといって、すぐには業者を切り替えない。シェアをとっていくには時間がかかる可能性がある。
もうひとつは、強力なライバルがすでに存在することだ。美団は、深圳、上海、北京などの大都市で「安心ビジネスランチ」サービスを提供し、コロナ終息後に大きく利用企業数を伸ばしている。また、ウーラマも以前から「企業ランチ安心配達」を提供し、すでに9000軒の飲食店をメニューに加えている。
もうひとつの問題は飲食品の価格だ。企業での食事は、「安いが美味しくない」と評判は悪いが、では、「高いが美味しい」ものを選ぶかというとそうはならない。多くの人が、味よりも価格を重視し、短時間で食べて仕事に戻りたいと考える。その時、著名飲食チェーンをメニューのような割高に見えるランチを選んでもらえるかという問題もある。豊食を使わずに、コンビニで軽食を買って、昼食を済ませてしまう人は一定数出るだろう。
企業配食は、外売の最後の処女地とも言われていた。順豊の参入により、この領域での競争が激化することになる。