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全面黒字化を達成したフーマフレッシュ。次の成長戦略はアウトレット。訳あり商品を半額で販売

フーマフレッシュが黒字化を達成し、次の成長戦略としてフーマアウトレットの展開を始めた。過去、フーマは都市周辺部への進出にさまざまな業態を試行錯誤する時期が続き、ようやくアウトレットという「解」を発見したと市界観察が報じた。

 

訳あり商品を半額販売するフーマアウトレット

アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)がいよいよ次の成長曲線を見つけた。フーマアウトレットだ。フーマ本体で販売する商品のうち、賞味期限が迫った商品、当日売れ残った商品、輸送中にパッケージなどに傷が入った商品をアウトレットで半額ほどの価格で販売をする。

フーマは「上に向かう、下に向かう、外に向かう」の3つの施策を進めており、このアウトレットは「上」と「下」を同時に満たすものになる。高所得者層を顧客とするフーマ本体では問題のある商品を売る必要がなくなるため、販売する商品の品質が高くなる。一方、郊外などの購買力のやや落ちる場所で展開されるアウトレット店では、今までフーマの顧客になりづらかった中所得者層を取り込むことができる。

特に、コロナ禍以降、消費者の消費動向は保守化をしており、日用品に関しては少しでも安いものを求めるようになっている。しかし、だからといって品質の落ちるものはつかみたくない。フーマというブランド力があり、商品に問題はあるもののその理由が明確であり、半額であるというアウトレットが人気となっている。

▲フーマアウトレット北京市馬家堡路店。盒馬miniなどの店舗を転換しているため、標準面積は500平米と、大型コンビニか小型スーパークラス

▲フーマアウトレットの店内。3元均一のワゴンセールが行われている。賞味期限間近などの訳あり商品であるとはいうものの、フーマ品質の商品が半額で購入できる。

 

ジャック・マーの新小売を体現したフーマフレッシュ

新小売スーパー「フーマフレッシュ」は、2016年にアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)が「純粋なECはすでに死んでいる」と指摘し、「オンライン小売とオフライン小売は深く融合し、すべての小売業は新小売になる」と宣言をした新小売の考え方に基づいたスーパー。購入の方法はスマホ注文、店舗購入の2つ、受け取り方法は30分配達、店舗受け取りの2つを、消費者の都合に合わせて組み合わせることができるもので、ユーザー体験の革新をねらったものだ。例えば、店舗に行って、海鮮や野菜などは自分の目で見て品質を確かめて購入し、重たい食用油や水などは時間指定をして宅配してもらい、食材は自分で持って帰って調理を始めるなどということができる。

 

アリペイデータの分析により高所得者地域に出店

2016年から展開が始まったフーマは、アリババのスマホ決済「アリペイ」の決済データ分析により、購買力の高い消費者が住んでいる地域に集中をして出店していった。このため、フーマの配達エリアになるということは、購買力の高い地域だと認定されたようなもので、フーマが出店すると周辺のマンション価格が上昇する現象まで起きた。

しかし、購買力の高い地域に300店舗を出店したが、その次の成長曲線を描くことに試行錯誤をすることになった。都市周辺の中所得者層は、フーマのような宅配よりも、近所のスーパーや個人商店で、少しでも安いものを自分の目で見て選ぶ傾向がある。どのような業態であれば、都市周辺部でも受け入れられるのか、その試行錯誤が続いた。

▲フーマフレッシュが出店した地域はマンション価格が上がる。この手書き広告では「フーマ配達エリア」「地下鉄駅近く」「著名小学校の学区」であることが強調されている。

北京市のフーマフレッシュの出店状況。アリペイの決済データ分析により、購買力の高い地域を選んで出店している。

 

周辺部に進出するためのさまざまな試行錯誤

2019年から試みられているのが、盒馬小駅と盒馬mini、盒馬隣里(フーマNB)などだ。盒馬小駅は2016年頃から地方都市などで利用が広がった社区団購と基本的には同じ仕組み。消費者には前日に注文を入れてもらい、翌日、盒馬小駅に配達をするので、盒馬小駅にまで取りにきてもらうというものだ。前日注文であるため、配達量が確定をするため、サプライチェーンがシンプルになる。その分、商品価格を安く設定できる。

盒馬小駅は店舗ではなく、一時保管倉庫であるため、出店コストや運営コストが非常に安くなる。これにより素早く展開することができ、フーマはこれで都市周辺部をカバーしようとした。

しかし、消費者が受け取りにくる仕組みであるため、1拠点がカバーできる範囲が狭く、黒字化が達成できる見込みが立たなかった。

盒馬miniは、コンビニ形態の小店舗で、盒馬小駅の機能の他、店頭販売も行っている。フーマNBは、盒馬小駅と宅配便の営業所を合体した業態で、さまざまな業態がテスト展開されたが、決め手に欠き、2020年の初め、コロナ禍が始まると、外出を避けるために、マンションや町内の拠点にまで配達をしてくれる社区団購が都市部でも急速に広がる。消費者がそれぞれに遠くの拠点にまで取りに行かなかければならない盒馬小駅の劣勢が明らかとなり、70店ほど展開していた盒馬小駅は、すべてコンビニ形態の盒馬miniに転換をした。

しかし、その盒馬miniも、店頭販売と店舗受け取りであり、消費者が店舗にまで足を運ばなけれならない。さらに、盒馬小駅と比べて店舗の運営コストがかかる。これにより業績は苦しく、フーマは都市中核部では成功しているものの、周辺部に進出をする決め手に欠く状況が続いた。

▲盒馬miniなどの出店場所。都市郊外をカバーする業態として、盒馬miniや盒馬小駅、フーマNBなどの業態が試されたが、いずれもうまくはいかなかった。

▲都市周辺部をカバーする業態として、コンビニ+社区団購の盒馬miniが試されたが、黒字化は難しく、縮小をしている。

▲社区団購+宅配便営業所という業態のフーマNB。NBはNeighborの略。都市周辺部にどのような業態が最適なのか、試行錯誤が続いた。

 

唯一成功したフーマX

その中で、唯一成功をしたのが、盒馬X会員店(フーマX)だ。コストコのようなホールセールクラブで、箱買いなどの大量購入をすると非常に安く購入できるというもの。都市周辺部に出店をし、成功はしたものの、これは都市周辺部市場に進出をしたとは言えない。なぜなら、都市住人が週末に車でやってきて、大量買いをする店であって、周辺の中所得者層の取り込みはできていないからだ。

▲郊外にある会員制ホールセールクラブ「フーマX」。コストコのように大量買いをすると安くなる仕組み。業績は好調なものの、都市周辺部をカバーする決め手にはならなかった。

 

事業部の整理とコスト削減

2022年初め、フーマの侯毅(ホウ・イ)CEOは、社内メールで、フーマフレッシュのすべての店舗での黒字化が達成できたことを告げ、2022年の目標はフーマ全体での黒字化であることを公表した。つまり、主力事業のフーマフレッシュは黒字化をしているのに、都市周辺部をカバーするための盒馬miniなどの業態を試行錯誤しているため、その投資でフーマ全体では赤字になっていた。

そして、2022年9月に内部組織の大きな改革を行なった。内部組織を3つの事業部に整理をした。フーマフレッシュ本体を担当する「盒馬鮮生事業部」、盒馬X会員店を担当する「盒馬MAX事業部」、フーマアウトレットを担当する「盒馬NB事業部」の3つだ。つまり、これからのフーマは、高所得者をフーマフレッシュ、中所得者をフーマアウトレットでカバーをし、それに加えて盒馬X会員店があるという体制にしていく。

また、それ以外の盒馬miniなどの業態は整理をしていき、それに伴うリストラを行うことで、フーマ全体のコストを下げる。

さらに、これまで、地域により異なるサプライチェーンが商品を供給していたが、これを全国で統一をした。5つの配送センター、8つの卸調整センター、100の地域倉庫、110の配送幹線に集約をし、物流コストも大幅に軽減をした。

もうひとつがPB(プライベートブランド)商品の積極販売だ。2019年のコロナ前の時期のPB商品の販売割合は全体の10%程度しかなかった。その後、販促活動を積極的に行うことで認知度が上がり、PB商品の販売割合は35%にまで達している。「チェーンスーパー経営状況報告2021」(中国チェーンストア経営協会)によると、中国の大手100チェーンのスーパーでのPB商品の販売割合は4.3%でしかない。PB商品をウリにしているホールセールクラブの「サムズクラブ」が35%であり、フーマはスーパー業態でありながら、ホールセールクラブ並みのPB販売率に達している。

 

黒字化を達成して次の成長へ

このようなコスト削減施策により、2023年1月、侯毅CEOは、社内メールで、フーマ全体の黒字化を達成したことを報告し、いよいよフーマの第2の成長が始まると告げた。

フーマ本体の商品品質を上げることで「上に進み」、フーマアウトレットで「下に進み」、サプライチェーンを全国規模にしたことで新規のサプライヤーも取り込んで「外に進み」に体制が整った。

 

アウトレットだけではカバーしきれない周辺市場

しかし、早くもフーマアウトレットによる戦略に疑問視をする声も上がっている。フーマアウトレットは、その商品をフーマ本体に頼っている。賞味期限や傷ものなど、商品力が落ちた訳あり商品をフーマフレッシュからアウトレットに運んで販売するからだ。調査機関による、商品供給量などからの推測によると、フーマフレッシュ5ー6店舗に対して、フーマアウトレット1店舗というのがベストな割合になるという。

フーマフレッシュは現在約300店舗で、高所得者地域は限られているため、これ以上の大量出店は難しい。すると、フーマアウトレットは50店舗から60店舗が最適バランスになる。しかし、すでにフーマアウトレットは40店舗の出店をしてしまっている。早くも天井が見えてきてしまっているのだ。

フーマアウトレットの商圏を広げる何らかの工夫か、あるいはフーマアウトレットとは別の業態も活用をしないと、都市郊外部をカバーすることは難しい。フーマの第2の成長が始まったことは確かだが、まだまだ試行錯誤をする必要があるようだ。