中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アディダスの中国市場の低迷。5四半期連続の減収の理由は、技術開発、ウイグル綿問題、過剰在庫問題など

アディダスの中国市場での売上が5四半期連続で減少するという厳しい状況になっている。コロナ禍だけが理由ではなく、ローステッドCEOもアディダス自身の失策を認めていると界面新聞が報じた。

 

アディダスが中国での売上減少

アディダスが中国の地方都市の店舗の調整を始めている。アディダスの2022年第2四半期の営業収入は55.96億ユーロ(約8200億円)となり、前年同期比は10.2%の増加となったが、純利益は3.09億ユーロ(約450億円)となり、24.2%の減少となった。中国地区での営業収入は第1四半期、第2四半期ともに35%の減少となり、連続5四半期の減少となった。

アディダスのカスパー・ローステッドCEOは、中国地区での売上減について尋ねられ、新型コロナの感染拡大という要因以外にアディダス自身が失策をしたと素直に認めた。

アディダスは、スポーツ用品からスポーツファッションに近づける戦略をとった。これにより、アディダスはアパレルブランドのひとつに近くなり、ナイキのような特別感を失ってしまった。

 

差が開くアディダスとナイキ

アディダスのグローバルでの最大のライバルはナイキだが、2021年全年のアディダスの営業収入が212.34億ユーロ(約3.1兆円)であるのに対し、ナイキは467億ドル(約6.8兆円)となり、アディダスは半分以下の規模になってしまっている。

両社は市場の大きな中国市場でも火花を散らしたが、ナイキはスポーツ用品という明快なポジションで活動をするのに対し、アディダスはスポーツファッションという曖昧なポジションをとった。

中国の消費者の経済力があがり、高性能スニーカーを買うようになったが、それはファッションよりも先に「性能」だった。スニーカーとしての性能を支える技術があり、その技術がファッションとしての価値ももつという構造になっている。スポーツ特化したナイキは、スニーカーのスポーツ性能を高めるために新技術を投入していったが、ナイキは技術ではなくデザイン的なファッション性を志向したために一般のカジュアルシューズの中での選択肢のひとつになってしまった。ナイキのような特別感がなくなってしまったのだ。

アディダスの隘路は大幅割引のセールしかなくなっている。全品5割引セールが常態化をしている。

 

技術イノベーションが止まっているアディダス

2015年からスニーカーのコレクションをしている頼宇さんは、界面新聞の取材に応えた。「100足ほどのスニーカーを所有していますが、ここ数年、アディダスを買うことは少なくなりました。最近のアディダスは、ナイキはもちろん国内ブランドと比べてもスタイルが古く、技術にもイノベーションがありません」。アディダスで買う価値のあるのは、もはやスタンダードとなったアディダスオリジナルスーパースターシリーズかYeezyシリーズしかなく、変わり映えがしないため、手が出ないという。

アディダスは、スニーカーの狭間に陥ってしまっている。高収入の人たちは、新技術を投入し続ける高価格のナイキを購入する。一方、収入の少ない人たちは技術的な性能はなくても低価格の国産スニーカーの中からデザインのいいものを選んで買う。アディダスは最新技術は投入されず、デザインも定番となってしまい、どちらの層からも手を出しづらい状況になっている。

しかも、国産ブランドが技術の領域でも成長をしている。国内のトップメーカーである「安踏」(アンター)は、この数年で2600件の特許を申請し、世界20カ国に60以上の研究機関を設置し、200名以上の研究者を抱えている。今後5年で、40億元以上の研究費を投入するとしている。

アディダスで今でも人気なのは、オリジナル・スーパースターとYeezyのふたつ。しかし、デザインはずいぶん前から変わっていない。

 

ウイグル綿問題で苦しい立場に立たされたアディダス

アディダスは中国市場では広告に力を入れてきた。中国の芸能人と契約をし、大規模な広告展開をしてきた。しかし、ウイグル綿の問題で、この戦略が裏目に出た。ウイグル人が綿の収穫に強制労働を強いられているという疑惑が世界を駆け巡り、多くの企業がウイグル綿の扱いを停止をした。しかし、ウイグル綿の収穫はウイグル人にとって貴重な現金収入となっており、結果はウイグル人の生活を苦しめることになった。中国政府は「強制労働は存在しない」という立場であるため、アディダスと契約をしていた芸能人たちは、ウイグル綿を拒否するアディダスとの契約を解除した。

このことが話題となり、アディダスは中国の利益を損なうブランドとして認知されるようになってしまった。それまで大々的に広告展開をしていた分、悪いイメージも強く定着してしまうことになった。

 

コロナ禍による過剰在庫問題も

製品が売れなくなったが、その前にアディダスは過剰在庫の問題を先に解決しなければならくなっている。2019年の在庫は48.5億ユーロ分にも達しているが、キャッシュフローはわずか8.73億ユーロでしかない。

その状態のところに2020年の新型コロナの感染拡大が始まると、輸送が大きく滞り、在庫は35%増加し、55億ユーロ分にまで膨らんでいる。近年、アディダスは生産工場を中国から東南アジアに移転をしている。生産地を消費市場から離したことが完全に裏目に出た。

一般に、スニーカーはデザインから生産、店舗に並ぶまでに18ヶ月ほどかかる。現在のアディダスは輸送力の問題からこの期間が2週間から3週間ほど長くなっていると言われる。わずかな増加だが、在庫に与える影響は大きい。なぜなら、2週間入荷が遅れるというとことは、次の新製品もスケジュール通りに発売されるため、実質的な販売期間が2週間短縮されるということだ。新製品が入荷をすると、古い製品の多くは動かない在庫になってしまう。

この問題を解消するために、アディダスの店舗ではほぼ毎日のように大幅割引をしたセール品が売られている。

アディダスは、中国市場で全方位に課題を抱える状態となっている。しかし、解決する方策は見あたらないか、時間がかかるものばかりだ。中国という大きな市場を失いかねない緊迫をした時期を迎えている。