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捜査が難航する違法宝くじサイト。被害者はQRコードを介して広がっていく

違法宝くじを運営する集団の摘発が続いている。違法宝くじは、QRコードを介して、友人知人関係とは関係なく、被害者が広がっていくため、全貌を把握する捜査は難航をする。しかし、刑法が改正され、ようやく摘発が進むようになったと中国新聞週刊が報じた。

 

マルチ商法の手法を取り入れた宝くじ賭博

四川省西昌市公安は、2022年末、宝くじ賭博を運営する集団の摘発を行った。驚くべきはその広がりだった。全国18省の100人以上が捜査対象となり、最終的に19人を逮捕した。これでも小規模な賭博運営集団であり、現在の賭博は、マルチ商法の手法を取り入れているため、大きな広がりを持つのが特徴になっている。

この賭博は、カンボジアに出国をした中国人により運営をされている。そこで宝くじプラットフォームを運営し、中国内で”顧客”を見つけて、宝くじを買わせる。それだけではない。会員になると専用のQRコードが発行される。このQRコードを知り合いに見せてスキャンさせると、宝くじサイトにアクセスができるようになる。そして、その知り合いが宝くじを購入すると、購入金額の0.4%が紹介者に入る仕組みになっている。

つまり、「公的な宝くじよりもはるかに当選確率が高い」ということをうたい、「紹介者を増やせば、紹介料がもらえ」、「高額の賞金を手にすることができる」というロジックで、カモを集めているのだ。

▲西昌市公安がカンボジアで逮捕した違法宝くじ運営集団の一人。マルチ商法の手法が取りいられているため、国内被害者は18省にもわたっていた。

 

知人地縁とは無関係に広がるマルチネットワーク

このQRコードを介して紹介者を広げていくという手法が捜査を困難なものにしている。従来のマルチ商法では、友人関係を伝って被害者(加害者でもある)が広がっていった。そのため、一人を摘発すれば、芋づる式に逮捕の網を広げていくことが可能だった。

しかし、QRコードは、現実に友人に見せて勧誘をすることもあるが、多くの場合はSNSなどで拡散をする。それも「違法な宝くじ」として紹介する人はほとんどなく、「高収益の副業」「新たなビジネスチャンス」などというタイトルに偽装をされるため、運営側が規制をかけるのも難しい。

そして、現実にはまったく無関係な人が勧誘をされるため、接点をたどって、ピラミッド構造の全容を解明することがきわめて難しくなってしまうのだ。

捜査の手が及んだと知った海外の違法運営集団は、サイトの模様替えをして、既存会員に新しいサイトの案内をするだけでいい。

▲取調べを受ける容疑者。QRコードを介して、被害者(加害者にもなる)が広がっていくため、全貌を把握する捜査は難航をする。

 

ソースコードはダークウェブで売買されている

このような宝くじサイトのソースコードは、ダークウェブ(ブラックマーケット)で、さまざまな価格で販売をされている。これを購入して、多少の知識があれば、すぐにでも宝くじサイトを運営することができる。

最近のトレンドは、ライブ配信の機能がついていることだ。ロトの抽選シーンをライブ配信できる違法宝くじサイトが人気になっている。インチキされていないと確信できるからだ。しかし、多くの人がだまされている。運営側はすでにどの番号が購入されているかがわかっているため、多くの人が購入している番号のボールをあらかじめ取り除いておくことで、当選確率をコントロールできる。優れた違法宝くじプログラムには、どの番号のボールを除去すれば、どのくらいの賞金を支払うことになるかがシミュレーションされる機能まである。

 

ポルノとも結びつく、違法宝くじ

さらに、この違法宝くじは、ポルノサイトとも結びつき始めている。中国で人気のある違法出会いサイトでは、多数の女性がライブ配信をしていて、無料で見ることができるが、投げ銭をしたり、プライベート通話をしたり、特別なショーを見るためには料金を支払う必要がある。

とりあえずは無料で見ることができるため、参加のハードルは低く、気に入った女性が見つかると、その女性の気を引こうとして、大量の投げ銭をすることになる。このキャストたちが、宝くじサイトへの勧誘者になっている。ライブ配信の視聴者がプライベート通話などを依頼してくると、QRコードを見せ、宝くじサイトに勧誘をする。それも「すごくいい儲け話がある」という誘い方だ。違法な宝くじサイトは怪しいと誰もが感じているが、このように密かに紹介されると、怪しいからこそ儲かるのではないかと考えてしまう人がけっこういるのだ。

▲中国国内で幇信罪で逮捕された容疑者。違法サイトを技術支援する行為は以前は罪に問うことができなかった。しかし、2015年に幇信罪が新設され、刑事犯罪の第3位の多さになっている。

 

違法サイトを支援する幇信罪は、刑法犯第3位の多さ

このような違法宝くじサイトが蔓延したのは、中国の法律に抜け穴があったからだ。運営する集団は賭博罪や詐欺罪で摘発できるものの、その運営集団のためにプログラムを開発したり、現金化の手段を提供する行為は、以前は罪に問うことが難しかった。そのため、運営集団は海外に行き捜査の網から逃れ、国内の集団がプログラムや現金化手段を提供して支援するという体制が生まれた。国内の集団は、違法行為に手を貸していても、逮捕されることがなかった。

しかし、2015年の刑法の改正により、ネットワーク犯罪を幇助する罪である幇信罪が新設をされた。行為者がネットワーク犯罪を犯すことを予見できるのに、プログラムやサーバー、通信経路、広告、決済などの支援をする行為が処罰の対象となった。

2019年は幇信罪で起訴された人数は499人だったが、2020年には1万3673人、2021年には12万9297人と急増をしている。刑事犯罪の起訴件数のトップは危険運転罪、窃盗罪だが、幇信罪はすでに第3位の多さとなり、摘発が続いている。しかし、まだこのネットワーク犯罪の規模が不明であるため、どこまで摘発作戦が進んでいるのかは誰にもわからない。公安の終わりのない戦いが続いている最中だ。