中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

Copy to China or Copy from China。新たなビジネスを発想するバイカルチャラル人材とは何か?

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 138が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、Copy to ChinaとCopy from Chinaについてご紹介します。

 

Copy to Chinaとは「コピーして中国に」という意味です。80年代から始まった中国の改革開放は、さまざまな技術、ビジネスモデルを海外からコピーすることで始まりました。これはかつての日本でもそうであったように、どの国の発展過程でも最初はコピーすることから始まります。ちょうど、ギターを始めた中学生が著名な曲の完コピを目指すのと同じです。

しかし、もはや中国はCopy to Chinaではなくなり、独自に新たな技術開発、ビジネスモデルの構築ができる国になっています。と言っても、まったくコピーがなくなっているというわけではありません。なぜなら、いかに斬新なビジネスであっても、そのビジネスが今までまったく存在しなかった100%オリジナルということはあり得ず、既存のビジネスモデルにヒントを得て、課題点を解決するなどして新しいビジネスモデルが生まれてくるからです。

 

例えば、世界で最初のECサイトがどこであるかはもはやわからなくなっていますが、最も成功をしたのは、オンライン書店からスタートしたアマゾンであることは疑いはありません。アマゾンは玩具や家電などにも取り扱いを広げ、総合ECとして世界中で利用されています。

では、アマゾンはそれまで誰も考えつくことのないビジネスだったのでしょうか。そうではありません。米国人であれば、シアーズ・ローバックのメールオーダーという先行事例を誰もが知っています。カタログを見て、郵便で注文をすると、商品が宅配されてくるというカタログ通販です。

サービスの開始は1893年で、130年前のことです。NHKでも放映され人気となったテレビドラマ「大草原の小さな家」は、まさしくシアーズのメールオーダーが始まった西部開拓時代にあたり(原作では少し時期がずれています)、劇中にメールオーダーの話が出てきます。子どもたちが近所のお手伝いをしてお小遣いを稼ぎ、駅前の雑貨屋でカタログを見ながら、クリスマスプレゼントを探すというシーンです。その様子は、今の子どもたちが、アマゾンで玩具を探している様子とそっくりです。

さらにシアーズは、家の通販まで始めました。家の組み立てキットを鉄道を使って駅まで配送し、地元の大工に建ててもらうというものです。大陸横断鉄道の物流を利用した通信販売だったのです。シアーズは当時から「買えないものはない」「満足いかなかったら全額返金」を強調していました。

 

アマゾンを創業したジェフ・ベゾスシアーズのメールオーダーを知らないはずはなく、アマゾンの創業時には大きなヒントになったはずです。しかし、だからと言って、「アマゾンはシアーズのパクリ」と言ったら、多くの人が一笑に付すでしょう。確かに、最初のアマゾンはシアーズのメールオーダーをオンラインオーダーに逐語翻訳しただけだったのかもしれませんが、その後、オンラインの特性を活かしたり、消費者の特性により改善を加えたりして、もはやシアーズとはまったくの別物になっています。

ビジネスというのは、市場の要求に応じて常に変化をしていくもので、この変化をしないビジネスは脱落をして淘汰をされていきます。逆に言うと、ビジネスの最初の発想は真似でかまわないのです。ある優れたビジネスを見て、その課題を発見し、改善した形でスタートをする。スタート後は常に変化を積み重ねていくので、先行事例とはまったく違ったビジネスに成長する。それが業界全体を進化させることにつながります。

 

中国のテックジャイアントを表す言葉BATは、百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、騰訊(Tencent)を指していますが、その始まりは、3社とも先行事例のコピーです。

アリババの中核事業であるEC「淘宝網」(タオバオ)は、米国のeBayを模倣することから始まっています。アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、eBayが中国進出をする前に市場を確保したいと考え、かなり焦ってタオバオのビジネスを構築しています。2003年にSARS重症急性呼吸器症候群)の感染拡大があり、ECにとっては絶好のチャンスが到来したこともありました。

これはいわゆるタイムマシンモデルです。海外で流行をしているビジネスモデルを模倣して、オリジナルが進出をしてくる前に市場を確保してしまうという戦略です。

しかし、eBayの中国進出は思ったよりも早く、タオバオはまだ成長し切らない段階で、eBayと競争をしなければならなくなりました。これがタオバオを大きく変えることにつながっていきます。

タオバオは、出店料や販売手数料をすべて無料にしました。eBayは有料です。これで出品者を確保しようとしました。出店料も販売手数料も無料でどうやって利益を出すのか。これは後にタオバオの大きな課題になりました。すでにこのメルマガでも何度も触れていますが、タオバオ参加業者の間で競争が起きる状態を保ち、広告や有料キャンペーン参加を促すことでタオバオは収入を得ています。

また、eBayは原則CtoCの個人間取引が基本のフリーマーケットサービスで、タオバオも当初はCtoCでしたが、中国の市場の特性から小規模小売店が販売業者として出店する例が多く、実質的にBtoCに近いECとなりました。

このように中国市場の要求によって、そしてeBayとの競争によって、ビジネスモデルがどんどん変化をし、今のタオバオとeBayは取引される商品の傾向や利用者層がまったく異なるようになりました。中国で最も成功したタイムマシンモデルの例になっています。

 

騰訊(テンセント)もこのようなタイムマシンモデルによる創業です。1997年頃、イスラエルのミラビリスが開発したICQ(I Seek Youの意味)というソフトウェアが世界中で流行をしました。PCにインストールして起動したままにしておくと、メッセージを送り合ったり、チャットができるメッセンジャーアプリです。さらにすごいことに、ビデオ通話も可能でした。もちろん、当時はまだ家庭用のインターネット回線が細く、1秒間に数枚、静止画が書き換えられる程度の動画でしたが、個人用PCで手軽にビデオ通話ができるというのは画期的なことだったのです。

中国では有志が勝手にパッチをあてた中国語版ICQが出回っていました。この様子を見ていて、潤訊という企業でポケベル技術の研究をしていた馬化騰(マー・ホワタン、ポニー・マー)は、より使いやすい中国オリジナルのICQの開発を企画します。しかし、その企画は却下されてしまいました。それでもあきらめきれないポニー・マーは、友人とテンセントを創業して、OICQ(Open ICQ)の開発を始めます。

これは名前からもわかる通り、ICQの模倣です。実際、ミラビリスとの間で知財関連のトラブルも起きました。そこで、ポニー・マーは、OICQに中国市場に合わせたさまざまな機能を追加開発していき、QQという名前に改め、独自の進化を遂げていきます。これにより、テンセントが成長をしていきます。これもタイムマシンモデルの好例になっています。

 

百度もタイムマシンモデルにより成功した企業ですが、アリババやテンセントとは少し事情が違っています。創業者の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)は、北京大学を卒業後、ニューヨーク大学に留学をして人工知能=AIの研究を専攻しています。しかし、当時はAIエンジニアとしての就職口は米国にもありません。そこで、インフォシークに入社をし、検索エンジンの開発エンジニアになります。

その後、2000年に中国に帰国をし、百度を起業します。百度のメインプロダクトは検索エンジンであり、主要事業は検索広告でした。その後は、グーグルを意識してグーグルの模倣をすることで成功をしました。これもタイムマシンモデルのひとつになっています。

ただし、百度のタイムマシンモデルは完璧にうまくいったとは言えません。検索広告は、2012年頃にはすでに陰りが見え始めたからです。ロビン・リーはこう説明しています。「中国のネット市場は広大なので、米国よりも先にテクノロジーの限界がやってくる。米国のコピーテクノロジーだけでは、中国市場をカバーしきれない。その限界はイノベーションで超えていくしかない。これにより、中国のテック企業は米国のコピーを脱し、イノベーションを起こす企業になっていく」。

ロビン・リーは原点に立ち返り、百度をAI企業へと転換させていくことを始めました。それが自動運転技術「アポロ」で、すでに複数都市で、ロボタクシーの料金を取る試験営業を始めています。

 

このようなタイムマシンモデルは、起業を考える時、新規ビジネスの動向を考える時にきわめて重要な視点です。中国がCopy to Chine=中国タイムマシンモデルをしている間は、テックビジネスに関してはシリコンバレーを注視していれば事足りました。しかしCopy to Chinaの時代が終わると、シリコンバレーだけを見ていても新規テックビジネスの動向がわからなくなりました。

そこで、ある人から「タイムマシン2.0」という考え方を教えていただきました。簡単に言うと、これからは中国がテックビジネスの中心地であり注視をする必要がある。さらには東南アジアからもユニークなテックビジネスが登場しているので、東アジア全体をウォッチする必要がある。東アジアで生まれたビジネスを日本で模倣し、タイムマシンモデルで成功できるという考え方です。いわば、Copy from Chinaという考え方です。

私も大筋では共感できる考え方なのですが、なんとなく違和感が残りました。それは新規ビジネスは、土地から生まれるものではなく、人から生まれるものだからです。百度の創業者ロビン・リーは中国で創業をしましたが、ビジネスのヒントを得たのは明らかに米国です。北京だけを見ていたら、突如として突然変異のように百度が登場したことになり、百度のビジネスというものが理解できなかったでしょう。

実際、今の起業を目指す中国人たちは、中国と米国、東南アジアを自由に行き来をして、ビジネスを構想し、最も有利な市場に着地をして起業をするということを行っています。シリコンバレーか中国かという視点ではなく、よりダイナミックな動きの中で新しいビジネスが生まれてきているのです。

今回は、中国と米国を行き来をして新規ビジネスを起業した例を4つご紹介します。そのストーリーを読んでいただき、テックビジネスは国境を越えたダイナミックな動きの中で生まれてきているという視点を持っていただければと思います。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.135:急速に変化する東南アジア消費者の意識。アジアの食品市場で起きている6つの変化

vol.136:株価低迷の生鮮EC。問題は前置倉モデルの黒字化の可能性。財務報告書からの試算で検証する

vol.137:私域流量の獲得に成功しているワイン、果物、眼鏡の小売3社の事例。成功の鍵はそれ以前の基盤づくりにあり