中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

拼多多創業者が語る「グーグルが教えてくれた3つのこと」

ソーシャルEC「拼多多」は、創業6年で、年間アクティブユーザー数が7.884億人とアリババを抜き、中国No.1のECに成長した。その創業者、黄は現在、CEOを離職して、別領域での起業を準備中だ。黄は、上場前のグーグルで働き、そこで3つのことを教わったと損益的自然に語った。

 

拼多多創業者が語るグーグル

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の創業者、黄(ホワン・ジャン)の名前がメディアに登場しなくなってから1年が過ぎた。昨2021年3月、黄は拼多多CEOを辞任し、「一生興味を持てる食品科学と生命科学の研究をし、10年後の拼多多が高速高品質で発展空間を見つけられるようにする」と宣言して、メディアに登場しなくなった。

拼多多については未だにさまざまな問題が残されているが、創業6年に満たずして、年間アクティブユーザー数が7.884億人と中国で最も利用されているECになったのだから、成功だといっていいだろう。その拼多多を生み出した黄が、グーグルから教わった3つのことについて語った。

▲拼多多の創業者、黄峥。上場前のグーグルで働き、その後、拼多多を創業。現在はCEOを辞任して、新しい分野での起業を目指して準備を進めている。

 

恵まれた教育環境を得た黄

今、思い返すと、私の高校、大学の環境は非常に恵まれていました。

1)高校、大学では富裕層の師弟、政治局員の師弟が多く、彼ら/彼女らは非常に優秀でした。

2)田忌賽馬ということを学びました。田忌賽馬とは古事成語で、田忌という人が競馬競技をすることになった時に、不利な条件の中で知略を用いて勝ったという内容です。リソースが不足している状況でも優れたことを成し遂げられるということを学び、平凡な私でも非凡なことが成し遂げられるということを学びました。

3)お金は道具であり、目的ではないということを学びました。

 

優等生を目指して多くのことを犠牲にした

素晴らしい環境が与えられたことは幸運だったのですが、残念なことに私はなんでもいちばんになることを追い求めてしまい、優等生になる努力をしてしまい、多くの時間を無駄にしました。大人に反発をしたり、いたずらをして、もっと青春を経験すべきでした。「60点でじゅうぶん」という考え方は、後になってだんだんとわかるようになってきました。

 

マイクロソフトでは10年後の自分が見えてしまった

私が最初に働いたのはマイクロソフトです。といってもインターン実習生としてです。北京市マイクロソフト研究院と米国のレドモンド研究院で実習をしました。

大学院を卒業しても、マイクロソフトに入社はしませんでした。ひとつの理由は、マイクロソフトに入社をしたら10年後に自分がどうなっているかが見えてしまったからです。もうひとつの理由は、私の人生の師、段永平(歩歩高創業者)からの助言です。

 

グーグルでの3年が人生を変えた

私の師は、こう私に言いました。「グーグルは素晴らしい企業だと思う。見てみる価値がある。君のように創業を目指しているのであれば多くのことが学べるだろう。いくのであれば3年は勤めろ。最初の1年か2年は、重要な職に就くことは無理なので、グーグルがどんな企業であるかは理解できないだろう」。

それで、2004年に大学院を卒業すると、私はシリコンバレーに行き、グーグルに入社をしました。最初はプログラマーとして、そしてプロダクトマネージャーに昇進しました。その後、グーグルが中国に進出をして中国オフィスを開くことになったので、最初の中国スタッフとして、グーグル中国の立ち上げを体験することになりました。

グーグルにはちょうど3年勤めたことになります。非常に価値のある3年でした。グーグルは、私がグーグルに対して貢献したことよりも遥かに多くのことを私に教えてくれました。最もよかったのは、非常に手厚い報酬をもえらたので、早い段階でお金の心配をする必要がなくなったことです。ちょうど、グーグルが上場する半年前に入社をし、広告のシステム開発をしていました。その頃は従業員数も多くはなく、エンジニアも数百人という規模でした。すぐに上場をして、急速に利益が伸び、従業員数も増えていきました。

入社した時、グーグルの1時間ごとの売上は10数万ドルでしたが、上場をすると100万ドルを突破しました。入社した時、従業員数は1000人未満でしたが、上場をすると1万人を突破しました。私の銀行口座のお金も、同じように増えていったのです。

 

グーグルが教えてくれたこと1:人生の幸運を逃してはならない

グーグルが私に教えてくれたことは3つあります。

ひとつは、人生には必ず天が与えてくれた幸運というものがあり、その幸運を無駄にしてはいけないということです。誰にでも10年から20年に1回は幸運が訪れるものですが、多くの場合、その幸運を無駄にしてしまったり、幸運が訪れたことに気がつかないままやりすごしてしまいます。

私にとっての幸運は、師の教えに素直に従い、初期のグーグルに就職できたことです。正直、当時はそのありがたみがよくわかっていませんでした。なぜなら、これが私の最初の仕事だったため、比較をするものがなかったからです。

グーグルを離職して3年か4年経ってから、ようやくグーグルのような企業で働く経験が得難いもので、あの瞬間にあのような場所で働けたことはありない幸運だということがわかってきました。

 

グーグルが教えてくれたこと2:お金を持つことの副作用

2つ目は、グーグルはお金を持つことの副作用を教えてくれたことです。仏教の教えでは、一定の財を得るには善行を積むことが必要で、じゅうぶんな善行を積まずに過分の財を得ることは必ずしもいいことだとはされていません。グーグルの初期の従業員はみなこのことを身を持って体験しています。

短期間に大きなお金を得てしまうと、多くの人は働く気力を失い、新しい趣味や事業を探し始めますが、そのような新鮮なことというのは往々にして、その人にとっては得意なことでもなく、好きなことでもないものなのです。そのようにして無駄な時間をすごし、人生の願いをかなえる重要な時期を無駄にしてしまいます。

 

グーグルが教えてくれたこと3:海外で事業を興す難しさ

3つ目は、グーグルは、海外のテック企業が中国で事業をする難しさ、中国の企業と競争をすることの難しさを至近距離で体験させてくれました。

空間と文化の障壁を超えて、本社の100%の信頼と権限を得ることはものすごく難しいとことなのです。じゅうぶんな信頼と権限のない中で、市場に参入し、明示的なルールと暗黙のルールに対応し、変化の早い市場での競争をしていくことは容易ではありません。

例えば、グーグルが中国で従業員を募集すると、サッカー場が満席になるほど人が集まります。しかし、人気が先行しているだけで、ほんとうに優秀な人がいるかどうかは別の話です。積極さがあり、経験があり、能力があり、優れた価値観を持つ人はなかなかいません。戦えるチームをつくるのは、国内企業よりも難しいのではないかと感じています。

 

グーグルは改革開放期の中国に似ている

グーグルはある意味で以前の中国によく似ています。工人(エンジニア)の地位が高く、イデオロギーを重視することがよく似ているのです。ですので、グーグルでイデオロギーの衝突が起きると、一般企業よりも深い議論がされます。

グーグルの管理方法も中国の改革開放政策とよく似ています。ドラスティックなイノベーションを奨励し、トライ&エラーを繰り返し、決定権を高度に集中させることでリソースをひとつのことに集中できる制度になっています。

 

「邪悪なことをしない」は自分自身への戒めにもなっている

グーグルの「Do No Evil」(邪悪なことをしない)は、グーグルのDNAに刻み込まれたもので、口だけのスローガンではないと感じています。グーグルは、ミッションと価値観が、利潤よりも先にあり、「ビジョナリーカンパニー」に登場するような理想的な企業で、グーグルの利潤というのは正しいことを行ったことによる副産物にしかすぎません。

同時に「Do No Evil」は、グーグル自身への戒めにもなっています。グーグルだけでなく、企業の内部に深く関わっていくと、邪悪なことをして私利私欲を貪ることができることに気づくようになります。グーグルのように、すべての人に対して邪悪なことはしないと宣言をして、みんなに監視をしてもらうというのはとても知恵のあることだと思います。

 

好きだから起業に挑戦する

は、拼多多を成功させ、現在、再び生命科学と食品科学のクロス領域での起業を準備している。なぜ、またたいへんな仕事である起業をしようとするのか。黄はこう語っている。

「理由は2つあります。

1:私は目の前のことに対してチームで対処するのが好きなのです。起業をするのは私自身をより幸福にするためです。

2:私にはまだ野心があり、能力もあり、エネルギーも放出しきっていません。前回の起業は私に大きな影響を与えてくれたため、もっと影響を受けたいという気持ちが強くなっています」

そして、こう答えた。「結局は起業が好きなのです」。