快手が上場をしたことにより、ライバルであるTik Tokへの上場期待が高まっている。しかし、2つのショートムービーサービスは、根本の設計思想が異なっている。Tik Tokの上場スケジュールが快手の動向により左右されることはないと見られていると零售商業財経が報じた。
快手が上場。高まるTIk Tok上場への期待
ショートムービー共有サービス「快手」(クワイショウ)が、2021年2月5日に香港証券取引所に上場をした。快手はこの数年、収入を大きく伸ばしている。2017年には83億元であったものが、2018年には203億元、2019年には391億元となった。2020年上半期には半期で407億元(約6800億円)と、さらに成長することが見込まれている。
快手がこれだけの好調ぶりを見せると、そのライバルであるバイトダンスの抖音(ドウイン、Tik Tok)がいつ上場するのかと期待が高まっている。
2020年9月のTik TokのMAU(月間アクティブユーザー数)は5.24億人で、同じ月の快手のMAUは4.08億人と、Tik Tokの方が上回っており、2018年4月に快手のMAUを上回って以来、快手のMAUを上回り続けている。
▲快手とTik TokのMAUの推移。2018年4月に、Tik Tokが抜いて以来、快手を上回り続けている。
異なる構造の2つのショートムービーサービス
しかし、Tik Tokと快手の2つは、一見同じショートムービー共有サービスに見えるが、Tik Tokの特徴はコンテンツ志向で爆発的な拡散力を生むように設計されている一方、快手はSNS機能を中心にデザインされるという大きな違いがある。簡単に言えば、Tik Tokは「まずコンテンツ、それからSNS」だが、快手は「まずSNS、それからコンテンツ」と優先順位が異なっている。
起動した直後の見た目は、快手もTik Tokも見分けもつかないほどよく似ているが、構造はまったく違う。快手はまったくのSNSだ。コミュニケーションの素材が、テキストや音声通話ではなくショートムービーであるというだけだ。快手独自のアカウントを作成することもできるが、テンセントのSNS「WeChat」のアカウントで利用することもでき、WeChatの友人が投稿したムービーを見ることができる。その他に、「発見」「精撰」のタブも用意されているが、知り合い同士でムービーを披露し合うというのが基本的な使い方だ。
一方で、Tik TokにもSNS機能はあるが、ソーシャルマップよりも、内容次第で爆発的な拡散力を生むように設計されている。投稿されたムービーは小さなグループにまず配信され、そのレスポンスが計測され、機械学習が行われる。機械学習を進めながら、配信するグループを最適化しながら大きくしていくため、優れたムービーであれば、一晩で数千万人に拡散することもある。
一言で言えば、快手は「強いSNS」で、Tik Tokは「弱いSNS」だ。一方で、快手は「友人内でのシェア」が基本であり、Tik Tokは「創作物の発表」が主眼になっている。
このため、ネットで流行するムービーのパターンや音楽は、その多くがTik Tokから生まれている。
▲快手のシェア画面。微信(WeChat)やウェイボーなどさまざまなSNSにシェアができるようになっている。
▲Tik Tokのシェア画面。Tik Tok内での友人か、多閃(ドゥオシャン、バイトダンスが運営するSNS)にしかシェアできない。
作るTik Tok、見る快手
この違いが、極速版の利用にも現れている。極速版とは、多くの場合、ムービー作成機能などを省いて、アプリのサイズを小さくしたものだ。ムービーを見ることしかできないが、スマートフォンのメモリーやストレージを占有せず、インストールも早いことから、見るだけの人に使われている。TIk Tokや快手だけでなく、極速版はさまざまなアプリに広がり始めている。
主なショートムービー共有サービスの正式版と極速版のMAU、1日平均利用時間を比べてみると、Tik Tokの場合は極速版の利用者が少なく、しかも利用時間が短い。多くの人が正式版を使い、ショートムービーを投稿している。ちなみに、中国のTik Tokでは、日本のような「若い女の子のダンス映像」はごく一部になっていて、街歩きの映像や美しい風景なども盛んに投稿されている。創作物の発表の場ではあるが、敷居は低く、「美しいもの、珍しいものを見たから、スマホで撮影して、多くの人にシェアをする」程度の感覚になっている。
一方、快手の場合は、極速版の利用者が20%程度もあり、しかも、面白いのは平均利用時間が正式版よりも長いことだ。つまり、友人が投稿したムービーを見るだけの人が多い。オリジナルで創作されたムービーもあるが、他のムービーメディアからの転載ものの比率が高い。また、ライブコマース機能もあるため、ショッピングアプリとして使っている人もいる。
もちろん、快手もTik Tokも互いを意識して学び合っているために、快手は創作機能を強化し、Tik TokはSNS機能を強化しようとし始めており、2つのサービスは次第に収斂をしてきているもの、出発点は大きく違っている。
▲主なショートムービーサービスの正式版と極速版それぞれのMAUと利用時間。創作を主体とするTik Tokは極速版の利用者は少ない。一方、シェアが中心の快手は極速版の利用者割合が多く、利用時間も長い。
設計思想の違いが、異なるユーザー層を生んでいる
このような設計思想の違いにより、利用されるユーザー層にも違いが見られる。快手の場合は「老鉄文化」に受け入れられている。老鉄とは「アニキ」といった感覚の呼びかけの言葉で、北方の方言。三線都市以下の地方都市、農村など、仲間意識が強い地域で使われる。快手の三線都市以下の利用者数は61%になり、省別に利用者数が多いのは、河北省、山東省など北方の省が上位にきている。
一方、Tik Tokは一二線都市の若い世代が中心で、地理的にも広東省、江蘇省、河南省など南の省の利用者が多くなっている。
また、いずれも若い世代を中心に中高年に広がりを見せ始めているが、Tik Tokは19歳から24歳の世代の利用が突出しており、快手は31歳から35歳がTik Tokよりも目立って多くなっている。
▲快手とTik Tokの年齢別ユーザー割合。Tik Tokは19歳から24歳が突出しており、快手は31-35歳が突出している。
ビジネスモデルも大きく異なる2つのサービス
また、ビジネスモデルも異なっている。快手はライブ配信、ライブコマースの収入が主体になっており、Tik Tokは広告収入が主体になっている。
特にTik Tokとバイトダンス全体の広告収入の効率は突出しており、ARPU(Average Revenue Per User、ユーザー1人あたりの広告収入)は、フェイスブックには劣るものの、中国国内サービスとしては突出して高い。広告収入だけを見ると、バイトダンスはすでにテンセントを超えているほどだ。
一方の快手はライブ配信による収入が主体になっている。ライブ配信をすることで、視聴者が投げ銭をする。この一定割合が快手の収入となる。強いSNSであるために、ライブ配信の固定ファンを作りやすい。
つまり、「快手が上場をしたのだから、Tik Tokも上場するのではないか?」というのは、見た目が似ているというだけの浅い見方にすぎない。2つのサービスは、ねらいもユーザー層もビジネスモデルもまったく違っているからだ。もちろん、いつかは上場するだろうが、そのスケジュールが快手の上場によって左右されることはないと見られている。2つのサービスは、同じショートムービーというコンテンツを扱いながら、まったく別のサービスだと言ってもいいほど異なっているのだ。
▲Tik Tokの広告収入はその効率が群を抜いている。ユーザー1人あたりの広告収入では、Facebookには及ばないものの、中国国内ではテンセントをも大きく上回っている。