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ヒット曲はショートムービーから生まれる。抖音と直結する音楽サブスク「汽水音楽」が開始

TikTok、抖音を運営するバイトダンスが、音楽サブスク「汽水音楽」のモニターテストを始めている。抖音でブックマークした曲と連動し、すぐにサブスクでフルサイズの曲が聴けるのが特徴だ。大手のテンセントミュージックを脅かす存在になる可能性もあると商学院雑誌が報じた。

 

TikTokのバイトダンスが音楽サブスク「汽水音楽」を開始

TikTok、「抖音」(ドウイン)を開発、運営するバイトダンスが、音楽ストリーミングサービス「汽水音楽」のモニターテストを始めていて、近々正式リリースされる見込みだ。サブスクリプション方式になるが、2ヶ月の無料期間が設定される予定。

バイトダンスが音楽ストリーミングサービスを出していないということの方が意外で、今回のリリースには驚きはない。多くのネット民は、抖音との連携がどうなるかを気にしている。

▲汽水音楽の再生画面。音楽サブスクとしては一般的なもの。

 

期待される汽水音楽

中国の音楽ストリーミングサービスは、テンセントミュージックが圧倒的に強く、7割以上のシェアを持っている。続くのが「網易雲音」で20%のシェアという状況だ。2021年Q4では、テンセントミュージックの有料会員は7620万人、網易雲音の有料会員は2890万人になっている。

汽水音楽は、抖音の利用者がユーザーになる可能性が高く、公開されれば短期間でかなりのシェアを握るのではないかと見られている。サブスク価格は、月額8元(約160円)、年88元が予定されている。

一部にはテンセントミュージックと肩を並べるのにもさほど時間はかからないと見ている人もいる。

 

ショートムービーの流行り曲がそのままサブスクで聴ける

汽水音楽が最も期待をされているのは、抖音との連動だ。抖音では多くのショートムービーに音楽が使われている。ここからヒット曲が生まれるというのはすでに珍しくない流れになっているが、今まで曲を探すのには手間がかかっていた。抖音で気にいった曲と出会っても、ショートムービーで聴けるのはムービーの長さ分である15秒から30秒にすぎない。フルサイズの曲を聞くには、曲名をコピーしておき、テンセントミュージックなどで検索をする必要があった。

しかし、汽水音楽に加入をしておけば、抖音で気に入ったショートムービーをブックマークすると、汽水音楽の「抖音で保存した音楽」の欄に表示され、そのままフルサイズの音楽を聴くことができるようになる。

▲ショートムービー「抖音」で音楽をブックマークすると、汽水音楽にもそのブックマークが表示される。この機能が注目されている。

 

圧倒的な学習量でリコメンド

もうひとつは、バイトダンスの基幹技術といってもいい強力なAIリコメンドだ。最初に加入した時に、好きな音楽のジャンル、好きな音楽の言語を選んでおくだけで、あとは再生履歴により、AIが曲をリコメンドしてくれるようになる。どのようなアルゴリズムになっているのは明らかにされていないが、汽水音楽内の再生履歴だけでなく、抖音での再生履歴も参照されると見られている。

抖音はすでにテレビの代わりとなり、利用者は平均で1日60分以上使うサービスになっている。ショートムービーが平均15秒だとすると、毎日240本のショートムービーを見て、音楽を聴いていることになる。一般的な音楽ストリーミングサービスに比べて、高速で利用者の嗜好を学習することが可能になる。

▲汽水音楽は始める時に、好きな音楽ジャンル、好きな言語などを選ばせる。しかし、ショートムービー抖音の利用履歴も学習をするため、精度の高いリコメンドが可能になると期待されている。

 

版権獲得が大きな課題

ただし、弱点もある。それは版権の獲得だ。モニターテストでは、すでに曲数の不足が課題となっている。例えば、中国で人気のアーティスト「周傑倫」(ジョウ・ジエルン、ジェイ・チョウ)の音楽は配信されていない。その他にも著名アーティストの楽曲で未配信のものがかなりある。

抖音では、最大30秒なので版権処理が異なり、ほぼすべての楽曲が利用可能だ。しかし、汽水音楽ではフルサイズの楽曲となるため、版権獲得に苦戦をしているようだ。抖音では聴けるが、汽水音楽では聴けない楽曲は、汽水音楽ではグレーで表示され、30秒分の再生が可能になっている。

テンセントミュージックが圧倒的なシェアを握っているのは、テンセントの高い版権獲得能力による。中国の音楽だけでなく、洋楽、K-POPまで、テンセントミュージックであれば見つからないということはまずない。それだけでなく、独占配信契約をしているアーティストもいる。

 

テンセントの牙城を崩す存在になり得るか

この版権獲得をどうクリアしていくかが汽水音楽の鍵になる。しかし、それがクリアできれば、最近の中国のヒット曲の多くが「抖音神曲」、つまり抖音から火がついたヒット曲になっていることから、テンセントミュージックを脅かす存在になる可能性はきわめて高い。中国の音楽サブスク勢力図に大きな変化が起きそうだ。