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中東で元アリババ社員が起業した宅配起業「iMile」。最後の1マイル問題をテクノロジーで解決する

元アリババ社員の黄珍がアラブ首長国連邦で、宅配起業「iMile」を起業し、ユニコーン企業となっている。住所表記の整っていない中東で、独自の表記システムを構築するなどして効率的な宅配業務を行なっていると創業邦が報じた。

 

中東で起業した元アリババ社員

アラブ首長国連邦に、わずか4年で中東など10カ国をカバーし、ユニコーン企業となった宅配企業「iMile」がある。このiMileを起業したのは、元アリババの社員だった黄珍(ホアン・ジェン)だ。

黄珍はアリババ子会社のCTO(最高技術責任者)をしていたが、中東の物流の課題を知り、起業をすることを考えた。2017年5月にアリババを辞職し、その2ヶ月後の7月にiMileを創業した。中東の物流の最後の1マイル問題を解決し、地元のアマゾン、カルフール、中東最大のEC「Noon」などの配送や、中国の越境アパレル販売「SHEIN」などの配送を担当している。わずか4年で、中東24カ国のうち6カ国にサービスを提供し、さらにアフリカ、南アメリカでもサービスを提供している。

2021年、iMileの営業収入は10億元(約200億円)を突破し、2022年はその3倍から5倍になる見込みだ。

中国バイトダンスは2021年12月に、1000万ドル(約12.8億円)の投資を行った。そこから、iMileという企業の名前が中国やアジア圏でも知られるようになった。

アラブ首長国連邦を拠点とする宅配企業「iMile」。創業者は、ファーウェイ、アリババなどで海外事業を担当していた黄珍だ。

 

中東に宅配インフラをつくりたい

黄珍は以前から起業をして、価値のある仕事をしたいと考えていた。しかし、黄珍は言う。「大切なのは、何をしたいかではなく、何ができるかなのです」。

iMileは創業4年目の企業だが、黄珍の海外生活はもう14年になる。黄珍はファーウェイに入社をし、海外販売業務を担当し、2008年26歳の時にアフリカに駐在し、その後中東を担当することになった。2015年、アリババに転職をしたが、アリババはこの時、中東の企業と現地に合弁会社を設立し、黄珍はこの会社のCTOとなった。

このような経歴の中で、中東の現地企業とビジネスをすることを学び、CTOを勤めることで技術に対する理解を深めていった。欧米、日本、韓国、中国で宅配インフラが整っていく中で、中東は取り残されているようなところがあった。「誰にでも、どの時代にも、その人に与えられた使命があります。私に与えられた使命は、ネットテクノロジーを駆使して、中東に宅配インフラをつくることだと感じたのです」。そして、黄珍にはそれを実現する能力が蓄積されていた。

▲iMile創業者の黄珍。前職はアリババ子会社のCTOだった。国際的な宅配物流企業も進出をしてきて、これから中東宅配物流の競争が本格化をする。

 

2017年のEC進出ラッシュが好機に

2017年に、起業をするのに適したチャンスが巡ってきた。それまで小さなECが乱立をしていたが、アマゾンが地元のEC「Souq」を買収し、同時にNoonがサービスを開始した。この状況を見て、中国の越境EC「環球易購」「アリエクスプレス」、越境アパレル「SHEIN」などが中東市場に参入をしてきた。

ここから、中東のEC市場がにわかに成長をし始めた。2017年の中東のEC流通総額は83億ドルだったが、2022年には285億ドルになると予測されている。

中国で淘宝網タオバオ)や拼多多(ピンドードー)が急成長できたのは、その背後に宅配企業が急成長をしたということがある。ECと宅配は互いに影響を与えながら成長をしていく。黄珍は同じことが中東でも必要だと考えた。

「中東のECで販売されている商品の80%は中国製です。中国の越境ECも複数サービスを展開しています。しかし、どのECも適切な宅配企業を見つけることができず、課題になっていたのです」。

 

住所表示すら確立していない中東地域

しかし、実際に宅配サービスを提供するのは簡単ではない。中東では、まだ住所表記が整備されてなく、そこに住んでいる人ですら、自分の正確な住所を知らないことがある。送付先住所にも「○○モスクの近く」「カルフールの隣り」など曖昧な書き方をする。それで今までは問題がなかったのだ。

住所情報は、正確な表記システムが公的機関にもないため、iMileは独自の住所体系を構築した。消費者が入力した住所を、iMile独自の住所体系に変換をし、効率的な配送を行う。自動変換できない住所については、iMileの地区担当者が手作業で修正し、その知見が集まることで、多くの住所がiMilleの住所表記システムに自動変換できるようになっている。このような正確な住所表記システムは他にはなく、地元政府からも注目されるようになっている。

▲iMileはテクノロジーで中東の宅配の課題を解決しようとしている。住所表記が整備されていない中東で、独自の住所表記体系を構築した。

 

アフターサービスも宅配企業の仕事になっている

もうひとつは、アフターサービスの考え方の違いから、実質的なアフターサービスは配達をする宅配企業が対応をすることが多いという問題だ。多くの人が、ECと宅配は別企業であるという感覚がなく、同じ会社の人だと思っている。そのため、商品に対するクレームや返品なども宅配企業に申し入れてくる消費者が大半なのだ。

この2つの課題を解決するため、黄珍はアマゾンと中通を研究した。アマゾンからは末端配送とデジタル化を、中通からはデジタル管理運営を学んだ。さらに、両者から専門家を招聘し、社内で学習会を開いた。

 

失敗をするのに3ヶ月もかからない

しかし、iMileの企業としての課題はまだ山積みだ。最も大きいのは、ドイツの物流企業DHLの進出だ。国際物流の点では巨人であり、各国での適応能力も高い。DHLが中東に本格参入をすれば、iMileにとって強烈なライバルになる。さらに、UPSFedexなども参入を本格化させ、現地企業のFetchr、Aramaxなども成長中だ。さらにはEC「Noon」も自社で配達網の構築を始めている。

「当たり前ですが焦燥感はあります。未来は誰にも予測できないのですから。中東には政治的なリスクだってあります」。黄珍は今、ひとつの金言を念頭におきながら、iMileを成長させている。その金言とは「失敗をするのに3ヶ月もかからない」というものだ。中東の宅配物流の競争は、これから本格化をする。