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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

意外に健全な中国NFTアートの世界。理由は政府規制と運営の規制

中国でもNFTアートが注目を浴びているが、海外でのような過剰な投機は起きていない。中国政府は暗号資産に対する厳しい規制を行なっており、NFTアートも投機色が強くなると規制の対象になりかねないため、運営側が慎重になっているからだと新黄河が報じた。

 

中国でも続々と生まれるNFTアートプラットフォーム

NFTを利用したデジタルコレクション=NTFアートの市場が中国でも生まれている。すでに、アリババ、テンセント、京東(ジンドン)、百度、視覚中国、芒果TVなどがNFTプラットフォームを公開している。

90后(90年代生まれ、20代後半)で、今まで仮想通貨の取引をしていた青年は言う。「今、NTFに参加をしている人は、投機目的が多いと思います。しかし、現状はまだ市場が小さく、一夜にして富豪になるということはないし、一夜にして全財産を失うということもありません」。

NTFはデジタルアートなどをブロックチェーンで管理する非代替性トークンで管理をするというもので、コピー可能なデジタルアートであっても、オリジナルであることが保証される。

海外でNTFが話題になると、早速アリババは「鯨探」、テンセントは「幻核」などのプラットフォームを公開、現在、中国のNFTアートプラットフォームは100以上あると見られている。

 

本物であることを証明するために使われている

しかし、海外のNFTとは利用のされ方が少し異なっている。海外のNFTは完全に投機目的だが、中国の場合は投機目的はやや薄く、自分が購入したデジタルアートが本物であることの証明に使われる傾向がある。

中国では仮想通貨の発行、取引、マイニングが禁止されていて、NTFを投機目的に使った場合、政府による規制にひっかる可能性があるからだ。

このことにより、NTF本来の使い方=「デジタルコレクションの信用担保機能」として使われている。例えば、デジタルアートを2000部限定で販売をし、すべてにNFTによるオリジナル保証がつくというものだ。単価は0.99元から99元程度のものがほとんどで、中には無料で配布をしているデジタルアートもある。

▲写真「学校に入る(大きな目の女の子)」は、199元の価格でNFTの保証がついて1万部が販売された。

 

価格の急騰が起こらないNFTアート

このような状況であるため、購入したデジタルアートの価格が急激に上昇するということは少ない。視覚中国のNFTプラットフォーム「元視覚」で最初に取引された作品「学校に入る(大きな目の女の子)」は、199元で1万部が販売をされた。また、人気IPの「海底小縦隊」のデジタルアートは、1点もので2万2000元で販売をされた。

なぜ、中国でこのようなある意味穏やかなNFTアートの活用がされているのか。ひとつはNFTアートの利用者の中心が90后という若い世代であることが大きいという。この世代は、今までにスニーカーや衣類などの投機を経験している。人気の型番の商品を行列に並んで購入し、高く転売をするというものだ。

しかし、このような転売ビジネスは、労多くして益少なくしで、一般の消費者から見れば「店頭で買うことはできず、フリマアプリで買うには高すぎる」商品となり、次第にニーズを失っていき、メーカーも転売屋も消費者も損をするという経験を経てきている。そのため、「NFTアートを買って翌日には1000倍の価格で転売」などという話を聞いても、多くの90后たちが興味を持たなかった。

▲海底小縦隊のデジタルアートは、NFT保証がある1点もので、2万2000元で販売をされた。

 

高額転売を禁止するフリマプラットフォーム

確かに、2022年の杭州アジア大会のデジタル聖火トーチ2.1万部が39元で発売され、それが314万9999元で売れたというニュースは、投機に興味のある若者を惹きつけた。

2021年9月、アリペイは杭州アジア大会のデジタル聖火トーチを39元で、合計2万1000部をNFTによる保証をつけて販売をした。8日後、「街舞怪才」と名乗る人が、アリババのオークションサイトで314.9万元の価格で出品をした。しかし、すぐに運営のアリババは、この出品を削除した。「詐欺的なオークション」というのがその理由だ。

同様に、9.9元で発売されたアリペイアプリのスキン「敦煌幸運飛天スキン」が、フリマアプリ「閑魚」で150万元で出品された。これも運営によりすぐに削除されている。所有者が高額で出品をしたというだけで、その価格で売れたわけではない。また、閑魚を始めとするフリマアプリでは、NFTによるデジタルアートの出品ができないように規約が改定されている。

杭州アジア大会のデジタル聖火トーチを39元で、合計2万1000部をNFTによる保証をつけて販売をした。

▲デジタル聖火トーチがオークションに314.9万元の価格で出品をされたが、すぐに運営から削除をされている。

 

NFT側でも転売禁止期間を設ける

若い世代の間でブームになっている盲盒(マンフー、ブラインドボックス)とNFTを結びつけた商品も登場している。盲盒は購入後に開けてみるまで何が入っているかわからないガチャのような仕組みだ。これでレアなフィギュアを引き当てると、フリマアプリで高く転売することができる。これをNFTと組み合わせることで、デジタルフィギュアの盲盒を販売する業者が登場してきているが、フリマアプリではこのような盲盒の出品も禁止をした。

また、NFTアートを販売、管理するアリババの「鯨探」では、購入したデジタルアートは180日間は転売、寄贈をすることができず、購入、寄贈を受けた人は2年間の間、転売、寄贈ができないという制限を設定した。他のNFTプラットフォームも同様の制限を採用し始めている。

▲9.9元で販売されたアリペイアプリのスキン「敦煌幸運飛天スキン」は、150万元の価格でフリマアプリに出品されたが、すぐに運営が削除をしている。

 

意外にも健全な方向に向かう中国NFT

このような制限により、NFTアートは穏やかな市場となり、海外のような熱狂は生まれていない。そのため、無数に生まれたNFTプラットフォームの多くは収益化をすることができず、消えていくのではないかと見られている。

しかし、資金力のあるテックジャイアントのプラットフォームの運営が続けられれば、デジタルアートの健康的な市場が成長していくことになる。NFTが海外で話題になった時、多くの人が中国では過剰な投機と詐欺が暗躍するのではないかと感じた。しかし、プラットフォーム側の規制が早く、現状のところ健全なアート市場の方向に向かっている。