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クリーニングやスペアキーにも宅配対応します。危機にある大手スーパーRTマートが打ち出した新しい店舗形態「大潤発2.0」

2021年第1四半期に起きたスーパーの危機。その後の業績も回復の兆しが見えない。業界第2位のRTマートは「大潤発2.0」という新しい店舗形態を打ち出し、400店舗以上ある全店舗を置き換えていく計画だと第三只眼看零售が報じた。

 

次々と登場するライバルに蚕食されるスーパー

2021年第1四半期に明らかとなった「スーパーの危機」。前年同時期が2020年1月から3月までという新型コロナの感染拡大が厳しい時で、生活必需品を買いだめする人が殺到したということもあるが、2021年には多くのスーパーが軒並み大幅な減収減益になるという危機的状況が起きた。

理由は強力なライバルが続々と登場し、顧客を奪われていったことだ。スマホ注文で30分配達してくれる生鮮ECには、単身者を中心とした若い顧客層が奪われた。スマホ注文配達、店頭購入のいずれも可能な新小売スーパーには若い家族を中心とした顧客層が奪われた。

さらに決定的なのが社区団購だ。社区団購は生鮮食料品を前日までにスマホ注文しておくと、近所の拠点まで届けてくれるので、自分で受け取りにいくというもの。配送量が事前に確定をするため、物流の調整機能が必要なく、配達もしないので配達コストも不要。大幅にコストが削減できるため、低価格で生鮮食料品が提供できる。スーパーに行って自分で商品をピックアップするより、社区団購で受け取りに行った方が楽だと、店舗にきてくれる顧客層まで奪われていった。

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▲2021年第1四半期の主要スーパーの営業収入前年比。前年はコロナ特需があったとは言え、悲惨な数字が並んでいる。スーパーの危機が大きく報道された。

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▲中国チェーンストア協会が発表しているチェーンストア売上ランキング。生鮮食料品では永輝が1位、それを追いかけるのが高鑫(ガオシン)で、台湾「RTマート」と仏コンビニ「オーシャン」の中国運営会社。



サッカー場2つ分の広大な店舗「大潤発2.0」

しかし、スーパーがそのまま沈んでしまうわけにはいかない。最大手の永輝(ヨンホイ)を追いかけている大手スーパー「大潤発」(ダールンファー、RTマート)は、「大潤発2.0」という大規模な改革を行った。

この新しい方式の店舗を2022年中に30店舗開店し、旧店舗を70店閉店する。こうして400店舗以上ある全店舗を順次、大潤発2.0に転換をしていくというものだ。

大潤発2.0は、店舗面積が1.4万平米もある。これはサッカー場2つ分の広さだ。

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▲店内はサッカー場2つ分という広さで、通路も大きく取られている。天井まで積み上げる陳列方式も廃止され、開放感に溢れている。

 

SKUを絞り込み、スペースに余裕を持たせる

RTマートでは、大潤発2.0にあたって、対象とする顧客層をきちんと定義をした。従来は全方位と言えば聞こえはいいが、ターゲットを定める意識が薄かった。大潤発2.0では、3つの顧客層をピンポイントでねらっている。「小さな子どもがいる家族」「引退をした銀髪族」「車の所有者」だ。

この3つの顧客層に積極的にアプローチをすることで、客単価をあげていく。

扱い商品に関しても大きく見直し、従来は3万SKU(Stock Keeping Unit=商品品目数)だったものを2.5万SKUまで圧縮をした。

スーパーというのはSKUが増えていく宿命を持っている。新商品が登場をすると、売り場に置いてほしいメーカーは納入価格のディスカウントやキックバックを提供する。経営が苦しいスーパーにとってはありがたい話なので、新商品を置く。そうしてSKUが増えていき、商品棚が拡張され、通路は狭くなっていく。

このような圧縮陳列は、人々が豊さを追い求めている時代には歓迎をされた。物資が豊富で、選択肢の多いスーパーだと認識されるからだ。

しかし、豊かになって精神的なものを追い求めるようなった今は歓迎されなくなっている。人々は保守的になり、いつも使っている商品を求めるようになっている。新製品を陳列してもなかなか売れなくなり、商品品目が多いと、自分のほしい商品が見つけづらい、通路が狭くて不快だという印象を持たれてしまう。

そこで商品品目を絞り込み、通路を広く取り、開放的な店内にした。これによりスペースに余裕が生まれ、子ども用の遊具エリア、休憩ができるカフェスタンド、イベント用スペースなどが確保できるようになった。

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▲コーヒースタンドも用意され、長時間いられるようにしている。

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▲SKUを圧縮して生まれたスペースはイベントなどで集客効果を高めるために使われる。



クリーニングも新小売化された「買い物+」

RTマートは「買い物+」をキーワードに設定した。買い物だけでなく、それ以外の体験をいかに提供するかが鍵になるというものだ。商圏は周辺3kmから5kmだが、この商圏内の消費者が、平均して月に1回以上きてもらうのは至難の業だという。月1回の来店を死守し、そこにいかに上積みをさせられるかが大きなテーマになっている。

月に1回の来店は、実際にきてもらわなくても、スマホから利用してもらうことでも補う。新小売スーパーと同じように、スマホ注文+宅配のサービスも提供する。

アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)と同じような天井レールシステムを採用した。スマホ注文が入ると、スタッフがバッグを持って商品をピックアップ。店内に設置されたリフトに乗せると天井のレールシステムにより、バックヤードに送られる。

このバックヤードも7500平米と広く設計されている。作業をしやすくするためと、商品をいったん止め置くためのスペースを取るためだ。

スーパーが新小売スーパーや生鮮ECの宅配サービスに負けたのは、コストがかかりすぎて、利益が出ない状態になっていたからだ。それまでの通路の狭い売り場、狭いバックヤードで、新小売スーパー並みの30分配送をしようとすると、1件の注文を1人が配達するようなケースが増え、配達コストが高くなってしまう。

そこで、30分配達はあきらめ、1時間配達と半日配達の2種類にし、商品をバックヤードに留め置き、まとめて配達をする。これにより、配達コストを下げることをねらっている。

さらに、大型スーパーでよく見かけるサービス=クリーニング、靴の修繕、服の繕い、スペアキーの作成などもサービスも宅配に対応をした。スマホで注文をすると、クリーニングする服をピックアップしてくれ、クリーニングが終わると配達してくれるというものだ。

急ぐサービスではないので、配達スタッフが手の空いている時に対応することで、配達効率をあげることをねらっている。

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▲バックヤードも7500平米と広大。フーマフレッシュと同じく天井レールが備えられ、店内でピックアップした商品がバックヤードに運ばれてくる。

 

アリババが支援をするRTマート

この大潤発2.0は、2021年12月に、江蘇省無錫市の長江北路店が開店したばかりで、消費者がどのように反応をするかは今後のこととなる。しかし、「買い物+」をオンライン、オフラインの両方で展開し、現在のところ、話題にもなり、来店客も多く、好調さを示している。

2018年に、RTマートに対してアリババが資本参加をした。そして、アリババはRTマート用の基幹システムを開発した。この基幹システムが大幅アップデートされたのが大潤発2.0だ。RTマートは、基幹システムの刷新に合わせて、店舗設計、ビジネス設計も大幅に見直しをした。果たして、スーパーの逆襲に成功をするか。小売関係者が注目をしている。