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ゲームに夢中の落ちこぼれ大学生からファーウェイの天才少年へ。劣等生の逆転人生

華為(ファーウェイ)が進めている天才少年プロジェクト。特別に優秀だと思われる学生を高額で雇用するプロジェクトだ。その初任給は年棒200万元(約3600万円)。復旦大学情報科学専攻の大学院生、林田(リン・ティエン)がこの天才少年プロジェクトでファーウェイに入社したが、当初は劣等生の逆転人生だったと復旦大学が報じた。

 

インターン実習から天才少年プロジェクトの応募へ

2021年の夏休み、林田はファーウェイのワイヤレスプロダクトの部署で、インターン実習を行なった。そのインターン期間が終わると、ファーウェイの担当者が林田に、ファーウェイの天才少年の面接を受けてみないかと誘った。林田は言う。「自分には思ってもみなかった機会です。ふたつ返事で承諾しました」。

天才少年の面接で印象的だったのは、面接室に入ると、大きな電子黒板があったことだ。面接は面接官が質問するという形ではなく、林田が実習中に取り組んだ通信関係のアルゴリズムを黒板を使って面接官に説明するという形だった。

その後で、雑談風に、技術に対する考え方について話し合った。面接官は、この雑談を通じて、林田が技術に対してどのような姿勢を持っている人物なのかを見極めようとしているようだった。

「実習中、感じたのは、大学と企業は違うということです。大学では技術に対して理論を重要視しますが、企業という現場では理論よりも結果、成果が求められる。そのようなことを話したら、面接官はそれは違うと言いました。ファーウェイは技術の追求に対して厳しく、理論も結果も同様に重要なのだと言います。とても強い印象を受けました」。

秋になって、就職活動が始まると、林田は就職先をファーウェイ一社に絞り込んだ。

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▲研究中の林田。ゲームに夢中の落ちこぼれ大学生が、国際的に認められる論文も書く研究者になることができた。

 

ゲームに夢中になり、退学の危機に

5G通信の分野で国際学会にも論文を提出し、ファーウェイの天才少年プロジェクトとしてファーウェイの研究職に就いた林田だが、9年前、復旦大学に入学した直後の大学1年生1学期の成績は1.8(5点満点、3点以上が普通)という最悪のものだった。「大学に入ったら、多少は遊んでもいいのだと勘違いをしていました。それでゲームに夢中になってしまったのです。学期末の試験の時期には、もうどうにもならない状態になっていました」。

それを変えたのは、両親が落胆する姿を見たからだという。「春節の期間に教官が親に電話をして、この成績のままだと退学の危険性があると告げたのです。両親はほんとうにがっかりして、その姿を見たら、このままではいけないと思いました」。

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▲学部卒業式での林田(左)。林田はその後大学院に進んで研究者の道を歩み始めた。

 

友人の助けと教師の背中に救われる

復旦大学は、中国全土から秀才が集まってくるような大学で、講義のレベルは高く、スピードも速い。林田は独学で追いつこうとしたが、基礎がわからなくなっているため、理解はほとんど進まなかった。

大学2年生の専攻選択の時に、通信工学を選んだのが逆転のきっかけとなった。同じ通信工学を専攻する友人ができ、落ちこぼれの林田に丁寧に講義内容を教えてくれる。また、指導教官も林田を見限るのではなく、熱心に指導をしてくれた。

さらに、林田がとった講義の遅楠教官の姿に感銘を受けた。彼女は40歳を超えた女性教官だが、毎日勉強を欠かさない。通信技術の発展は早く、40歳を超えたベテラン研究者でも毎日勉強をしなければならない。それを見て、研究に早道はない、毎日、コツコツと積み上げていくしかないのだと悟った。

それ以来、林田のタブレットからゲームアプリが消えた。代わりに、技術系の電子書籍がインストールされるようになった。

大学3年には、成績は4.0点近くとなり、復旦大学の中でも優等生の部類に入れるようになった。

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▲林田が所属した研究室のメンバー。中段右端が林田。林田が劣等生から逆転できたのは、指導教官や友人の助けがあったからだ。

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▲国際学会で論文発表をする林田。

 

成績優秀者ほど陥りやすい燃え尽き症候群

林田は大学院に進学をし、13の論文を発表し、SCI(米国の論文データベース)に登録された論文も8編にのぼる。その中の1編がファーウェイの研究チームの目にとまり、インターンの誘いを受けた。さらに、国家の奨学金も受け、2021年には復旦大学の優秀学生にも選出された。

中国の大学共通入試=高考の競争は非常に厳しく、近年、受験終了後に勉強が嫌になって大学で落ちこぼれてしまう学生が問題になっている。特に、地域で首席の成績をとった状元と呼ばれる成績優秀者が大学で落ちこぼれてしまう例が目立つようになっている。いわゆる燃え尽き症候群だ。

林田もその燃え尽き症候群だったのかもしれない。しかし、それを救うきっかけをつくってくれたのは、大学の友人や指導教官だった。