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テスラの中国販売数がさらに下落。尾を引き続けるテスラブレーキ問題

テスラの中国での5月の販売数が2万1936台となり、販売数シェアも2月のピーク時の22.3%から11.9%にまで下落をした。テスラのブレーキに対する不信感が影響していると見られる。しかし、専門家はブレーキの不具合ではなく、EV特有のワンペダル操作に人間側がまだ慣れていなことが大きな要因だとしてきていると騰訊網が報じた。

 

尾を引き続けるテスラブレーキ問題

2021年2月21日に、河南省安陽市で起きたテスラモデル3の追突事故で、所有者の女性が「ブレーキに不具合があった」と主張し、テスラ側と対立している問題が広く報道されるようになり、メディアは続々と他のテスラ車の追突事故を報道している。その多くは、ブレーキの不具合とは関係のない運転操作ミスによるものだが、あまりの報道数の多さに、「テスラ車はブレーキが効かない」というイメージが広まっている。

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▲問題の女性は、テスラの販売店の前に事故車を持ち込み、ブレーキ問題をアピールした。この映像が、SNSなどで拡散し、大きな話題になっている。

 

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▲「ブレーキに不具合がある」と主張する女性は、上海モーターショーで、テスラブースに乱入し、車によじ登り、「テスラ、ブレーキ、効かない」という言葉を連呼して、拘束された。

 

テスラの中国販売数にも影響か

その影響なのか、テスラの中国での販売台数は、3月をピークに下がり続けている。新エネルギー乗用車での販売シェアも2月3月は高かかったものの、下落し続けている。

この事件をどの程度真剣に受け止めているのは人それぞれだ。中には、テスラ車のオーナーが「ブレーキが効きません。先に行かせてください」というステッカーを貼っていたりする。前を走ると追突しちゃうかもというジョークステッカーで、このブレーキ問題を深刻には考えていない人もいる。

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▲テスラの中国市場での販売台数は下落が続いている。ブレーキ問題が起きたのは2月、それがメディアで話題になったのが3月。4月、5月は台数が下落しただけでなく、販売数シェアも急落している。

 

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▲テスラのオーナーは、ブレーキ問題を深刻に捉えてはいないようだ。このテスラ車には「ブレーキが効かない。先に行かせてください」というジョークステッカーが貼ってある。

 

人間がEVの運転にまだ慣れていないという専門家の指摘

走行台数と事故車の割合に関する正確な統計は存在しないものの、テスラ車の事故率は高いと専門家は見ている。しかし、それはテスラ車に何か欠陥があるからではなく、運転する側の人間がまだ電気自動車(EV)の運転に慣れていないことが原因だ。

すでに中国ではEVの普及が始まっているが、その多くは上汽通用五菱の宏光MINI EVに代表される小型車で、通勤、買い物などの短距離利用だった。高速道路を高速走行するEVに限れば、テスラはかつてないほどの台数が売れている。つまり、EVの高速走行に慣れてなく、テスラ車に乗る人が多いため、あたかもテスラ車ばかりが事故を起こしているように見えるのだという。

 

EV特有の「ワンペダル操作」

その最たるものがワンペダル操作だ。これはブレーキペダルを使わなくても運転ができる仕組みで、多くのEVで採用されている。アクセルペダルを離すと回生ブレーキが働き、減速だけでなく停止をすることもできる。この操作に人間側がまだ慣れてなく、ブレーキのタイミングを誤ってしまう。

また、回生ブレーキの強さや低速になった時に完全停止をするか、徐行のままにするかなどがタッチパネルから設定できるようになっているため、挙動に慣れていないということだけでなく、設定を勘違いして運転操作をしてしまう場合がある。

ワンペダルは、ブレーキの踏み違いも起こらず、将来の都市内ビークルのほとんどが採用することになると思われるが、人間側がそれに慣れるまでの時間が必要なようだ。

 

テスラが従来の自動車と異なる3つの特徴

さらにテスラには、従来のガソリン車と異なる3つの特徴がある。

ひとつは、加速力が非常に強いということだ。停止状態から時速100kmに達するまで3.5秒しかかからない。この、背中がシートに張り付くような加速度がテスラの大きな魅力のひとつになっている。

しかし、これが駐車場などで、ブレーキの踏み違いを起こした場合に仇になる。従来のオートマガソリン車と同じように、ペダルから足を離している間にゆっくりと進むクリープモードに設定している人は多い。この場合、駐車場などの細かい操作では、ブレーキを軽く踏みながら速度を調整する。しかし、傾斜などがあって、ブレーキではなく、軽くアクセルを踏みながら速度を調整しなければならないことがある。この時、自分がどちらのペダルを踏んでいるかという意識が消え、子どもや動物が飛び出してくるなど咄嗟の事態が起きると、アクセスに置いた足を踏み込んでしまう。

ガソリン車の場合はエンジン音もして、すぐに気づいて、踏み直しをして、事故を回避できることもあるが、加速力の強いテスラ車ではあっという間に事故になってしまう。従来の感覚では、テスラ車に乗るにはスポーツカーかレースカーぐらいの意識が必要だが、その使いやすさから乗用車の感覚でいる。これが事故を起こすひとつの要因になっている。

 

バックでは回生ブレーキが働かない

2つ目は、バックの時は回生ブレーキによる減速が行われないことだ。回生ブレーキのねらいは、高速走行をしていて減速する時の力を利用してバッテリーを充電し、航続距離を伸ばすことだ。そのため、高速走行ではないバックの時は回生ブレーキが効かない。つまり、アクセルを放しても、前進の時のような減速が起こらない。この感覚が異なるために、バック時に接触事故を起こしてしまうパターンも多い。特にバックをする状況は、他の車を待たせているような状況が多く、気持ちも焦りがちで操作ミスを起こしやすい。

 

ツーペダルの習慣が残り、踏み間違いを起こす

3つ目は、人間側がワンペダル操作に慣れていないことだ。アクセルを放すと、回生ブレーキが効くが、同乗者とおしゃべりなどをしていて気を取られていると、以前のアクセルとブレーキというツーペダルの意識が残っているため、今、足を放したアクセルが減速をしているためブレーキなのだと思い込みやすい。そこで、急に前の車が減速するなどすると、慌ててブレーキだと思い込んでいるアクセルを踏み込んでしまう。

 

人間側の慣れが必要

現在、ワンペダルは、あくまでもオプションの運転操作方法という位置付けで、使うか使わないかは運転者の判断に任されている。しかし、それが従来のツーペダル感覚と新しいワンペダル感覚を混乱させ、とっさの事態に対応できないという問題が生じている。理想を言えば、ブレーキペダルそのものをなくして、物理的にもワンペダルの車にすべきなのだが、そこまでいくのにはまだ時間がかかる。

また、人間側も、従来の自動車の延長としてEVを考えるのではなく、まったく別の乗り物という意識を持つ必要がある。場合によっては、ワンペダルEVは、オートマと同じように、免許の種別を変える必要が出てくるかもしれない。

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▲主なEVブランドの販売台数。小型で定格の五菱が強いのは当然として、テスラは高価格であるのにそれに匹敵する台数が売れていた。しかし、下落を続け、同グレードのBYDに追いつかれている。

 

意外に効果があるテスラの安全運転教室

テスラ中国では、ブレーキ問題、報道される交通事故などに対応して、テスラ車の安全運転セミナーを積極的に展開をし始めた。ネットでは、イメージアップをねらった安直な対応策と批判的な人も多いが、そのセミナーで、ワンペダル操作など、EV特有、テスラ車特有の運転操作にフォーカスをあてて教習を行なっているのだとすれば、かなり効果が期待できる。

2021年5月のテスラ車の中国での販売台数は2万1936台で、販売シェアは4月の15.9%から11.9%へと下落が続いている。