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オーバーツーリズムにはAIで対抗。麗江と百度が共同して挑む21世紀の観光地のあり方

世界中の旅行者を惹きつけている麗江。しかし、オーバーツーリズムの被害が年々大きくなっている。違法駐車、揉め事、ポイ捨て、騒音。週末になると、麗江麗江ではなくなる。この問題に、麗江市政府は、百度と共同して、AI画像解析の力を借りて取り組む「スマート麗江」プロジェクトを始めたと機器之心が報じた。

 

世界中の旅行者を惹きつける麗江

中国で最も世界の旅行者を惹きつけている街、雲南省麗江。古い街並みが保存された旧市街の麗江古城を中心に、周辺には大自然があり、ナシ族の少数民族文化や茶馬古道、トンパ文字など独特の景観や文化を楽しむことができる。「世界文化遺産」「世界記憶遺産」「世界自然遺産」の3つに指定されている市は、中国でここだけだ。

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麗江の旧市街。古い街並みが保存されている。その美しさと歴史に世界中の旅行者が惹きつけられている。

 

オーバーツーリズムの見本市となっている雲南省麗江

しかし、問題も起きている。わずか人口120万人程度の人口の街に、毎年2000万人の観光客が訪れる。旧市街は古い街並みが保存されているが、その周りの新市街は以前はごく普通の建築物だった。しかし、観光を目当てに、旧市街風の建物が急速に増えている。といっても、コンクリートなどでそれ風に見せているだけのもので、飲食店や土産物店が入り、俗物的な観光地になってしまっている。

また、旧市街も古い建物を利用して、バーやカフェ、クラブを運営するのが流行し、夜になると大音量の音楽による騒音問題も起きている。さらに、観光客が多いため、違法駐車、ポイ捨て、揉め事など、オーバーツーリズムの弊害の見本市にもなっている。

静かで癒される麗江独特の街並みと、観光をどうやって両立させていくか。それが麗江の最大の課題になっている。

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▲夜ともなるとこのありさま。静かで癒される街並みを眺めながら食事やお酒を楽しみたいという人が殺到をするため、週末ともなると人混みしか見ることができなくなる。

 

AI画像解析により車両を認識する「スマート麗江

そこで、麗江市は2020年秋から「スマート麗江」のプロジェクトを始めた。百度バイドゥ)と共同して、古城区西安街道などの主要な4つの通りに600個以上の監視カメラを設置し、人工知能により車両を認識させた。これにより、観光地に流入、流出する車両、推定人数がリアルタイムで把握ができるようになった。

また、車両は定められたルートを通らなければならないが、それを外れて土産物屋近くに違法駐車をする観光バスなども発見できるようになった。

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百度の車両認識技術は、国際的なAIコンテンストでたびたび入賞している。その技術と麗江が共同して、AIでオーバーツーリズムの課題解決に挑戦する。

 

法律違反、マナー違反をAIが感知する「街の目」

この成果を元に、麗江市と百度は「城視」(City Scope)を構築することで合意をした。

これは監視カメラ、ドローン映像、車載映像などを統合し、現在の麗江の様子をリアルタイムで把握するシステムだ。映像は整理をされ、顔認識、人体認識、車両認識などの画像解析の他、赤外線などによるリモートセンシング分析も行われる。

このような分析を機械学習することで、何が起きているかを把握する。例えば、駐車違反、侵入違反などの交通違反、ゴミのポイ捨て、車道を占有する違法な営業、暴力事件などが想定され、このような問題が発生するとシステムがアラートを出すことにより、担当者が短時間で現場に急行することができるようになる。

また、交通状況もリアルタイムで把握をすることができるようになり、現場の交通整理委員に渋滞を緩和させる誘導の指示も出せるようになる。

さらに将来的には、衛星によるデータと統合することで都市計画の参考資料を作成することや、人の体温を認識して感染症予防に役立てる、犯罪、事件の発生した場所に自動でドローンが急行し現状を把握するなどの機能も計画されている。

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麗江市は、百度と共同して、静かな麗江の街を取り戻す「スマート麗江」プロジェクトを始めた。

 

観光客が増えると観光地の魅力が失われる矛盾

中国では、海外旅行が制限されている分、国内旅行が盛況となり、新型コロナ以前の賑わいが戻ってきている。歴史的な観光地が多いが、そこに大量の観光客が訪れ、週末には満員電車のような密集状態となる。その人流を目当てに、観光地とは縁もゆかりもない飲食店や土産物屋が大量出店し、どこの観光地も同じ顔になってしまい、魅力を失っている。麗江人工知能を利用し、麗江本来の魅力を失わずに観光産業を成長させることができれば、他の観光地にとっても優れたお手本となる。

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百度が実用化している無人運転バス。すでに公園、施設内では利用が始まっている。麗江でも旧市街の移動に使用することが考えられている。