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アリババの独孤九剣と六脈神剣。企業価値観の共有度で従業員を評価する

アリババの成功の要因はさまざまあるが、起業時から企業文化と価値観を確立して、それを大企業になった今でも貫いていることがある。アリババの定める価値観は独孤九剣などと呼ばれるが、壁に飾っておく標語ではない。従業員の人事評価にも組み込まれていると駅知行鉄軍商学院が報じた。

 

企業文化と価値観の共有がアリババの成功の要因

アリババの成功の要因は、創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)という人物の非凡さや、インターネットの波にうまく乗れたことなど数々あるが、大きく貢献したのが、アリババが企業文化と価値観の共有が徹底できたということがある。

アリババは、18人の創業メンバーを「アリババ十八羅漢」と呼び、アリババ文化と価値観の核とした。

それ以来、従業員を雇用する時にも「アリババ文化に合い、価値観が共有できる人」を優先して採用し、能力はその次に判断された。

この企業文化と価値観を従業員の間に浸透させる目的に開設されたのが、「百年大計」と呼ばれる新人研修制度で、アリババ大学とも呼ばれる。

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▲通称「アリババ大学」と呼ばれる教育プログラム「百年大計」。新入社員は必ずこの講義を受け、アリババの企業文化や価値観が教えられる。

 

お客さんの5元を50元に増やすのがアリババの仕事

この百年大計には、ジャック・マーを始めとして、アリババ十八羅漢が講師となり、アリババの使命、目指す方向と価値観、アリババの発展史、業務技術などが抗議されたが、その中でも特に重要とされたのが価値観の講義だった。

ジャック・マーは、この百年大計で必ずこの話をする。「アリババ人は、お客さんのポケットに5元があるとして、これをどうやったら支払ってもらえるかという考え方をしてはならない。そのなけなしの5元をアリババに支払ってしまったら、そのお客さんは何もできなくなってしまう。そして、次の5元を持っているお客さんを探して同じことをする。これはビジネスではなく、詐欺だ。

アリババ人は、このお客さんの5元をどうやったら50元に増やしてあげることができるだろうかと考えなければならない。50元に増やしてから、5元を支払ってもらうのだ」。

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▲百年大計のテキストと、参加した社員による書き込み。業務知識の研修も行われたが、価値観の共有に重心が置かれていた。

 

アリババの武器となった「独孤九剣」

2001年、ジャック・マー、関明生、彭蕾、金建杭、呉炯の5人は、アリババの価値観を言語化することにした。何十時間も議論をし、100以上の価値観を表す言葉を壁に貼っていき、その中から20程度に絞り、最後に9つの言葉に集約をした。「シンプル」「情熱」「イノベーション」「学びと成長」「開放」「チーム力」「専心」「品質」「顧客第一」の9つだ。

この9つの価値観は、ジャック・マーが好きだった金庸武侠小説から名前を借り「独孤九剣」と呼ばれた。アリババが戦う上での剣法だという意味だった。

ジャック・マーはこう語っている。「この独孤九剣がなければ、アリババは生き残っていけない。響きのいい言葉を並べただけの企業もあるが、アリババはそうではない。入社する人には、独孤九剣に叛いたら、アリババを離れてもらうと話している。アリババではさまざまな戦略が立案されるが、すべて、この独孤九剣に基づいている。もし、従業員の成績が不良でもそれはかまわない。しかし、独孤九剣に叛くことは許されない。それは顧客を欺くことになるからだ」。

 

従業員は、業績と価値観の二軸で評価

2004年8月には、この独孤九剣は、6つの言葉「顧客第一」「チーム力」「変化に対応」「誠実」「情熱」「仕事への敬意」に集約され、これも金庸武侠小説から「六脈神剣」と名付けられた。

この価値観は、ジャック・マーの言う通り、お飾りの標語ではなく、従業員の人事評価にも使われた。業績と価値観の二軸で、それぞれを優、一般、劣の3つ、合計9つのマトリクスに区切り、従業員の評価定が行われる。

価値観、業績ともに劣の従業員は「犬」と呼ばれ、解雇の対象となる。価値観が劣だが、業績は優のものは「野犬」と呼ばれ、解雇対象の候補となる。

価値観、業績とも一般のものは「牛」と呼ばれ、多くの従業員がこの牛に属する。

価値観は優だが、業績は劣のものは「うさぎ」と呼ばれる。価値観、業績とも優のものは「明星」と呼ばれる。

ジャック・マーはこう語っている。「企業の価値観は、壁に貼っておく標語ではなく、従業員の評価にも使うべきものだ。従業員が企業の価値観をどれだけ共有できているかは査定できる。アリババは、創業以来、従業員を価値観と業績の2つで評価をしてきた。ボーナスの額、昇給の額もこの2つで決まる。業績はいいけど、価値観が共有できていない人に昇給はない。価値観は共有できているけど、業績がまだ追いついていないという人には昇給がある」。

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▲アリババの人事評価の仕組み。業績と価値観の共有の二軸で評価される。業績も悪く、価値観も共有できない人は左下の「犬」となり、解雇の対象になる。業績は優秀だが、価値観が共有できていない人は「野犬」と呼ばれ、これも解雇対象の候補になる。

 

価値観を制度に組み込んだアリババ

アリババは、マンションの一室で、18人のメンバーで創業した時から、企業の価値観を重要視していた。そして、事業が拡大し、従業員を雇用する段階になると、この企業価値観を制度に組み込んでいった。これが、テックジャイアントと呼ばれる規模になった現在でも、独特のアリババ文化を持つことに貢献している。

アリババが急成長をした理由にはさまざまあるが、この企業価値観を制度に組み込んでいることも大きな要因のひとつになっている。