中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

盲点になっていたお酒のデリバリー。利益を確保しやすく、消費者の需要も強いデリバリー向きの商品「お酒」

フードデリバリーなどのサービスを展開している「美団」(メイトワン)が、お酒のデリバリーを始めている。スマートフォンで注文をすると25分で配達してくれるというものだ。現在、広東省恵州市で試験営業が行われていて、お酒は利益率も高いことから、全国に広がりそうだとAI財経社が報じた。

 

美団が試験営業を始めているお酒の25分デリバリー

美団が広東省恵州市で試験営業をしているドリンクデリバリーの名称は「歪馬送酒」(ワイマー)。WeChatミニプログラムから注文をすると、25分で指定の場所に配達をしてくれる。

歪馬とは南京の方言で、外国人を意味するという。扱う酒類は、中国伝統の白酒(バイジウ)だけでなく、ビール、ワイン、ウイスキーなどさまざま用意されている。最も高いのは、貴州習酒で799元(約1万4000円)で、最もよく売れているのは59元(約1000円)のビールだという。

この歪馬送酒は、フードデリバリーやシェアリングキッチンなどの事業を担当する美団到家事業部が運営をしている。

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▲歪馬送酒のWeChatミニプログラム。スマホで注文をすると、25分で自宅などに配送してくれる。

 

独特の酒習慣がある中国

2020年の酒の小売市場規模は1167.5億元で、2021年は1363.1億元(約2.3兆円)に伸びると予測されている。伝統的な白酒以外に、果実酒、ビール、日本酒などが若い世代の間で伸びているからだ。

中国人は、酒に対して独自の習慣を持っている。レストランなどで、食事をしながら酒を飲む人は非常に少ない。多くの人がお茶か水で食事をする。せいぜいアルコール濃度の低い青島ビールを飲む程度だ。

これは、知らない人の前で、酔った姿をさらすことに大きな抵抗感があるからだという。街中で酔っ払って千鳥足で歩いているという人を見かけることはほとんどない。もし、そんな人がいたら、多くの人が「人生の落伍者」とみなす。

また、タクシー、ライドシェアを含め、公共交通機関は酔っている状態で利用することは禁じられている。ほろ酔い程度であればうるさくは言わないものの、酔っ払った人をタクシーに乗せて送るには、意識が覚めている人が付き添いをしなければならない。

 

飲食店の個室、宅飲みが中心

一方で、自宅や飲食店の個室では痛飲をする。仲間内だけでは、酔った姿も親しみの表現となり、朝まで飲むことも珍しくない。

中国には居酒屋という酒提供をメインにした業態が存在しない。北京の三里屯、后海などにはバーが立ち並んでいるが、元々は外国人用のバーが起源になっていて、その地域独特の業態だ。

そこで、多いのが、友人たちが集まって、突発的に「飲もう」となるケース。飲食店に個室を予約するか、スーパーや専門店で酒を買って、誰かの自宅に集まる必要があり、飲むまでの手順が必要となる。ここに25分で配達をしてくれるドリンクデリバリーサービスがあれば利用してもらえるのではないかというのが歪馬送酒のねらいだ。

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酒類は、大型スーパーで購入するのが一般的。専門店は高級酒にシフトしている。スーパーの到家サービスでも酒は動きのいい商品になっている。

 

偽物の酒の流通もドリンクデリバリーに追い風

もうひとつ大きいのが、酒には偽物が横行しているということだ。酒の単価は高く、贈答品としても利用されるため、一種の通貨にもなっている。贈答品としてもらった酒を未開封のまま専門店に売れば、それなりの金額になる。当然ながら、中身をすり替えて、儲けようとする悪巧みをする人が現れる。

そこで、専門店では、開封をせずに、光を当てるなどして、品質を見極める技術を持っているが、誰にでもできることではない。高級な紹興酒を、低級の紹興酒に詰め替えられた場合、それを見分けることができる専門家はごくわずかだ。そのため、偽物の酒が流通をすることになっている。

歪馬送酒では、直接製造元から買い付け、偽物が入り込まない体制をとっている。酒は利益率が非常に高い商品だ。美団に続き、他のフードデリバリーやEC、到家サービスが追従する可能性は非常に高いと見られている。